デビュー戦は、「鶴田銀行」空売り。

狙うは、悪徳銀行!

資本主義は景気循環の連続だ。バブル期は「ITバブル」などの名前が付けられ、不景気局面は「何とかショック」という名前が、数年後に付けられることになる。しかし、それは小学校の頃に習う「資本主義は景気循環がある」というだけの話でしかない。


一般的に、株式投資というのは“買い”である。「○○という会社の業績が上がりそうだ」という信念があれば、買えばいい。数年後には結果がでる。それが、投資の醍醐味であり本筋であろう。しかし相葉が手掛けるのは「空売り」。株価が下がれば下がるほど、利益が出る仕組み。


──それにしても、これは酷すぎるな──。相葉が鶴田銀行”に目を付けたのは、異常なアパートローンへの貸し出しと不祥事。特に、“にんじんの荷物”と言われるシェアハウスの物件に関心を持ち、調査をすればするほどそのお粗末な実態が、浮かび上がってきたのだ。


最初に違和感を感じたのは、「都心に進出する若い女性向けのシェアハウス“にんじんの荷物”が危うい。頭金無しで、不動産の家賃収入を得ることができることを謳い文句に、素人不動産の素人たちに貸し付けている」と、不動産の業界専門紙が報じたことからだった。


不動産投資は、入ってきた家賃で銀行への借金を支払う。家賃収入の方が、借金よりも多い場合は、手元に金が残る。不動産オーナーは、借金による節税と家賃収入により大きな利益を得ることができるというのが、メリットだ。しかし実際は常に満室にするための入居率者探し(客付け)や、銀行からの借り入れに対する利息もそれなりに高いので決して簡単なものではない。


シェアハウス“にんじんの荷物”は場合、最初の数カ月は「見せ金」により、100%の入居率とされている家賃収入が入る。しかし実際にはほとんど入居者はいない。当然、数カ月後以降は家賃収入が減少し、支払いだけが残る。それを新しい素人たちに売り続ける、「ポンジ・スキームである。それを仕切っているのは『アンチデイズ株式会社』である」という疑惑が、業界専門紙に書かれていたのだ。


問題は、アンチデイズ株式会社だけではない。普通、アパートローンを組むためには厳密な銀行による“審査”がある。しかし、何故かその“審査”が甘く、通常は必要な“頭金”も無く、アパートローンが組まれているだ。


それもそのはず。“審査”をする銀行と悪徳不動産業者が結託し、癒着していたのだ。問題はその銀行が、“地方の雄”とまで言わしめ、アパートローン融資で名を馳せている“鶴田銀行”だということ。相葉が独自に調査を開始すると、いとも簡単にアンチデイズ株式と鶴田銀行の癒着が浮かび上がってきたのだ。


鶴田銀行の危うさは業界では先行して知られていることもあり、業界専門紙だけではなく、一般の新聞も報道を始めていた。


そのため、鶴田銀行の株価は既に下がりだしており、1500円前後。相葉は、ここに全財産、30万円を「空売り」として仕掛けたのだ。空売りをするには『信用取引』という仕組みを用いる。信用取引は、元本に対して3.2倍の金額を賭けることができる。これを“レバレッジ”というが、相葉はレバレッジを最大にかけ、勝負を挑んだのだった。


つまり約100万円分の“空売り玉”を仕込んだのだ。

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