9 花火になりたかった

「こういうオーバーサイズのもかわいいよねー」

 次から。

「まりもちっちゃいから、こういうのも似合う!」

 次へと。

「あ、案外こっち系は!? あ、似ー合ーうー! いーなー! 俺は似合わないんだよね、こういうアジアンテイスト」

 店から。

「あ、悪くないね。シックなのもいけるんだー」

 店へと。

 もはや好きにしてください……状態で、連れまわされてしまった。

 ゼンくんが、本当に楽しそうだった。もちろん、わたしも。

 今までとりあえずユニクロでシャツとジーンズ……だったので、そもそもスカートも制服以外で着ることはほとんどなくて。どういうのが似合うのかとか全然分からなかった。

 でも、こうしていろいろ見ていくと、洋服ひとつひとつにいろんな色があって、いろんなデザインがあって、作った人も売っている人も、選んでいる人も、きっとそれを大事にしているんだ、ということが分かってくる。

 誰かを明るくしたり、元気にしたりする、魔法みたいだ。

 結局いろいろ見た挙句、わたしは何件目かにゼンくんが入ったお店にまた戻ってもらうことにした。

 お店はちょっと、独特な雰囲気があった。アジアンテイスト、とか、エスニックファッション、というらしい。お香とか焚いているのか、ぷんっと強い匂いもする。証明は暗くて、なんだかごちゃごちゃしているのに、不思議と落ち着く感じのお店。ここで、お店の人とゼンくんと一緒に、選ぶことにした。

「ワンピにするかー、別々にするかー。どれもかわいいし鮮やかでいいねー」

 うきうきと声を弾ませるゼンくんの服の裾を、そっと掴んでしまう。

「あ、あの。さ、さっき見た時に欲しいものがあって……」

 ゼンくんがきょとんとしたあと、ぱっと顔を輝かせる。

「どれ!?」

「こ、こっち」

 おずおずと、そこに連れていく。お店の端っこ。スカート売り場。スカートなんて、本当はきっと柄じゃないけれど。

 そこにあったのは薄い生地のロングスカート。華やかなターコイズブルーに、オレンジの小花刺繍がたくさん入っていて、なにより目を惹くのが大きな絞り染めの模様。

 スカート全体が絞り染めの模様で花が咲いているみたいだった。

 ほとんどひとめ惚れだった。

 花火みたいに、鮮やかだったから。

「うん! いいじゃん!」

「そ、そかな」

「いい色。まりも、こんくらい派手なの似合うと思うよ。こっちが派手ならそうだなー」

 言いながらゼンくんとお店の人が選んだのは、黒のタンクトップに、白のオーバーサイズのシャツ。でも、ただ真っ白なんじゃなくて、左胸に鮮やかで細やかな刺繍のポケットが大きくついていた。

 それから大きな石の飾りがついたネックレスと、手首につけるバングル、ヘアセットに使うらしいバンダナのようなもの、そしてやっぱり刺繍のような模様のプレーントゥのぺたんこバレエシューズ。

 結局どっさり買い込んでしまった。

 ……下ろしてきたお年玉もお小遣いも吹っ飛んでしまったけど。まぁ、それは覚悟の上だったので。

 いっぱいの袋を抱えてスタバに入った。ゼンくんは新作のフラペチーノを頼んで、わたしはいつものキャラメルフラペチーノ。

「あっま」

 一口飲んだゼンくんが、一瞬顔をしかめる。自分で頼んでおいて。少し笑ってしまった。

「甘いの苦手?」

「んにゃ。好きは好き。ただ限度はあるよなーって。ちょっと俺には甘すぎ。飲んでみる?」

 ほい、とストローを差し出される。

 いや。いやいやいやいやいや。

「けっ、結構です……」

「そ? ……て、あ、ごめん……」

 ゼンくんがしまった、という顔で耳を赤くする。それが伝線したのか、そもそもわたしが先だったのか、わたしもまた耳が熱い。

 ふるふるっと首を振って、キャラメルフラペチーノをずずっとすする。なんとなく顔を上げると、ちょうどお店のガラスに自分たちの姿が反射して映っていた。

 ……耳、赤いなぁ、ふたりして。

 ふと、思う。

 わたしたち、外から見たらいまどう見えてるんだろう。友達に見えるのかな。男女にも見えないよね。だってゼンくんめちゃくちゃかわいい女の子にしか見えないもん。ゼンくんはシンプルなのに垢ぬけた格好をしているけれど、わたしは似たような恰好なのにどこか野暮ったい。かおちゃんといるときもこんな感じ。アンバランスな女友達に見えるのかな。今日買った服を着れたら、ちょっとはつり合い、取れて見えるかな。ゼンくんとも。かおちゃんとも。時々姉妹逆にみられることもある綾乃とも。

「どした?」

「あ……ううん。えと。服、似合うかなぁって……」

「似合うよ」

 間髪入れずに、ゼンくんが答えてくる。ちょっと恥ずかしくて、ちょっと嬉しい。

「スカート、花火みたいだったね」

「あっ……そっ、そうなの!」

 思わず大きな声を上げてしまって、慌てて口を抑えた。

 ゼンくんはくすくすと笑っている。

「まりも、本当に花火が好きなんだ」

「す、好きっていうか……」

 もごもごと口ごもってしまう。

 どうしよう。好きは好きだけど、少し違う。この気持ちを持て余している。わたしは、どうなりたいのかな。かおちゃんが言っていたように、パツーンと今を終わりたいだけなのかな。その前に、何か出来るかどうかさえ分からないのに。

 ぐっと、膝の上でこぶしを握る。その手を見下ろすと、ぎゅっと心臓が縮まった。爪が、かわいかった。

 この間買ったばかりの「魔法がとけるまで」。昨日の夜、動画を見ながら見様見真似で塗ってみた指先。ちょっとガタガタしているし、色むらもあるけれど、でも、かわいい。きらきらしている。今日会った瞬間に、ゼンくんが褒めてくれた指先。

 ――かわいい、って、すごいな。

 それだけで、なんだか、心が落ち着いていく。

「変なこと、言ってもいい?」

「ん?」

 顔をあげて、ゼンくんを見つめる。ゼンくんの目は、ほんの少し黒より茶色が強い。大きな目。透き通っていて、とうめいな色。

 その目を見つめながら、思い切ってわたしはこう、言っていた。


「わたしね、花火になりたかったの」

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