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しかし、肝心な作戦の方を一向に煮詰めることができない。
写真部護衛班に決まった後も、これといった妙案は浮かばず、この日は放課後、我がクラスの出し物ボウリングの準備に付き合わされることになった。
こんなことやってる暇はないという気持ちだったが、こういうのをサボると美少女たちの心証が悪くなってしまうので、そんな気持ちは押し殺す。
しかし不意に油断した俺はそんな気持ちがため息として漏れてしまった。
「はあ……」
「あれどうしたのハジメ? なんか顔暗いよ?」
できれば聞き逃してほしかったため息を、西城は聞き逃すことは無かった。
彼女は、しゃがんでペットボトルのラベルをはがす俺の顔を、覗き込むように俺の目の前に立っている。
しかし西城は、よく気付くというかよく話しかけてくるというか、そういう頻度が高い気がする女だ。割とよく、俺が困ってるときなんかに話しかけてくる気がする。もっとも、毎回何の助けにもなっていない気もするのだが。気がするばかりで確証はない。
「いや別に、何でもないさ」
「ホント?」
「なんでもいいけど、手を動かしてくれる?」
俺と西城が会話していると帆風が現れ、苦情を付けてきた。
「えー、めぐみんそれは酷くない?」
「良いのよ別に。何かあったとしても、どうせ碌なことじゃ無いわ」
さらに酷い言い草だ。まるで城ケ崎みたいな物言いだぜ。
このまま口撃を食らい続けるのは精神衛生上宜しくない。よって俺は話題を変えることにした。もちろん真面目に働く気は毛頭ない。
「そういえば、うちのクラスからミスコンに出る人居ないよな。二人とも可愛いんだから出ればよかったのに。優勝すれば景品もらえるんだろ?」
わが校のミスコンは、事前に申し込みさえすれば誰でも参加できる。特に条件などはない。
「だから口より手を動かしなさいって――」
「あー、この話題が終わったらやるって」
さっきも思ったが真面目にやる気は毛頭ない。
「……しょうがないわね。私は単純に、そんな浮ついたことは好きじゃ無いだけよ。人前で自分を見せものにするのも、気分が良くないわ」
帆風は、そんなことする奴は軽蔑する、という感じに言葉に刺を含ませて言った。
しかしそいつは残念だ。ミスコンには水着審査とか色々あるので、是非とも帆風委員長の色々な姿を見たかったのだが。
「なるほど、それじゃ西城は? そっちはそういうの苦手じゃないだろ?」
「あー、私はできれば出たかったんだけど写真部がね……。ほら、楽屋撮るらしいじゃん?」
「え!? 写真部そんなところまで撮るの!? ますます参加なんてあり得ないわ……」
「なんだ帆風、知らなかったのか」
でもまあ、聞けばそういう反応するわな。しかし、それでもミスコンに参加しようという女子は居るのだから、そいつらはどんだけ景品欲しいんだよって話だ。
「しかし、普段谷間を晒しまくってるさすがの女神西城も、着替えは恥ずかしいんだな」
「……うーん、まあそういうことにしとくかな……?」
西城は何とも歯切れ悪く、何やら含みがある感じに言った。一体、他に何の理由があるというのだ。俺はそれを尋ねようとしたが――。
「さあおしゃべりはお終い! 手を動かして!」
「あ、じゃあ私も持ち場に戻るね」
帆風の手によって、これでお開きとなってしまった。まあなんだっていいか。ただただ、西城がミスコンに参加しない事だけが残念でならない、それだけだぜ。
その日の分の仕事が終わり、俺は一人家路につくことになった。
というのも、放課後残って文化祭の準備をすると言っても、毎日全員が残らされるわけじゃなく、水島の担当は明日だったからだ。そして、何故女子と一緒に帰らないかというと、不幸にも帰る方向が同じ美少女が、今日は居残っていなかったからだ。
校門まで一人廊下を歩いていると、偶然ばったり同じく帰宅しようとしている中野と出会った。せっかくなので、俺たちは途中まで一緒に帰ることにした。
「中野、そっちの進捗はどうだ?」
歩きながら俺は尋ねた。世間話という面もあったが、より言うならば中野の計画している裸写真に対する興味関心であった。
「こちらは滞りなく。だが、偽レントゲン写真――要は他人のレントゲンを偽って本人のものとするわけだが、それもなにぶん数が要るのでな。全部同じなどという手抜きをしてしまえば、友達連れで来た連中にバレてしまうかもしれん。種類がいくつか要るのだ。まだ、しばらくは居残りが続きそうだよ」
中野は自分で自分の肩を揉みながら言った。
「へえー、そっちは順調そうで何より」
「……そっちは? どうした? 上手く行っていないのか?」
「いやどうってことはねえよ」
「意地を張らんでも良いんだぞ? まあ、手が欲しければいつでも手を貸そう。それはだけは覚えておいてくれたまえ」
ありがたい言葉だ。だが最初に中野抜きでやると決めたからには、中野抜きでやりたい。俺にはその能力があるはずだ。それに、中野の方の裸写真だって俺は見たい。それを邪魔するわけにはいかない。
「おおサンキューな。だが、お前だって偽レントゲンの準備で忙しいだろ? 偽レントゲンは十分な枚数を確保しなくちゃならない。何故なら、偽レントゲンのストックが切れたら渡せるものが無くなって、早くも営業終了になっちまうからだ。お前の作戦の肝は、誰か別人のレントゲンを本人のものと思い込ませるところにある――……っ!」
そこまで言って俺に電流が走った。
「どうした永井? 何か気付いたのか?」
俺は心の中では『してやったり』という、心の底の方から思わず笑ってしまうような愉快な気持ちが沸いてきて、ついにはそれが外へと溢れ出た。
「……うふふ、……いひひ、……はははっ、……アーハッハッハッハっ! つーいに閃いたぜ俺はッ!」
「やったというのか永井!?」
「ああそうだぜ。なるほど、こうすればすべての問題は解決だぜ。いやー、中野の偽レントゲンは前に聞いた話なのに、どうしてこれが閃けなかったかねえ! まあいいや。こうなったら居ても立っても居られないぜ。ありがとな中野、そんじゃ俺は帰って水島に連絡してくるわ! じゃあな!」
俺はそこで中野と別れると、走って我が家を目指した。家に着くまでの間に、俺はスマホを取り出し水島に電話する。
「――どうした永井、いきなり」
「大至急俺の家に来てくれ。作戦が決まったぜぇ」
「なに!? そうか、今すぐ行く!」
電話は水島の方から切られた。
そして俺が家に着き、着替えやらなんやら済ませた時、玄関のチャイムが鳴った。なんともいいタイミングで来ること!
それから俺は閃いた作戦を水島に伝え、それを二人一緒に地図を見ながらより完璧なものに仕上げるために徹夜で練り上げた。その甲斐あって、翌朝には作戦計画は完璧に仕上がっていた。
「――そうやって水島が誘導し、ここで実行する――よし完璧だ」
「ああ! 非の打ちどころがねえ!」
そして俺と水島は、文化祭当日まで作戦実行の準備に明け暮れた。そうやって数日が過ぎ、ついに文化祭当日の朝がやって来たのだ。
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