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 なぜそんなにも難航したか。それは、俺が風紀委員だからに他ならなかった。

 正体がバレることなく写真部を襲うなんて、覆面でもすれば十分可能だろう。そんなことはすぐに思い付いた。だが、それが実行するにふさわしくないと判断したのは、やはり俺が風紀委員だからだった。


 仮に、俺が覆面を付けて水島と一緒に写真部を襲ったとしよう。きっと滞りなくネガを奪うことができる。

 しかし、その後事件の調査を行った風紀委員たちはすぐに気が付くはずだ。『同じく風紀委員の永井が持ち場に居なかった』と。すると俺はいっきに容疑者リストに仲間入りだ。よってこの手は使えない。

 今まで、風紀委員だったおかげで結構甘い汁を吸えてきたが、しかし今回はそれが裏目になるとは何とも皮肉な運命だ。


 しかし一応これの解決策は存在する。俺抜きで、水島だけで作戦を実行するというものだ。そうすれば風紀委員たちに要らないヒントを与えることは無い。

 だが、これもやっぱり結局は駄目なのだ。何故ならこのような問題がある。写真部の護衛に回される風紀委員の人数は、情報によると十五人。まあ、それでも十五人くらいなら喧嘩の強い水島は勝つことはできる。

 しかし、できるのは勝つことまでだ。十五人と揉みくちゃになっている隙に、きっと写真部に逃げられてしまう。そして応援の風紀委員まで呼ばれて、これ以上の作戦続行は不可能となる。


 よって俺たちは、俺たち二人による作戦を立てなければならないが、しかし俺自身は動くことが制限されるというジレンマと言える事態に陥っており、そう簡単には完璧な作戦を計画することはできないというわけだ。





 さあて、今日この昼休みまたもや風紀委員に召集がかかった。

 俺は前回同様、一人でうどんを早食いし風紀委員室に足を運んだ。

 前回とは違い早い段階で風紀委員全員が揃うと、委員長は黒板の前に立って今日の招集の理由を話す。


「今日集まってもらったのは、文化祭当日の持ち場を決めるためだ。十五人は写真部の護衛、残りは見回りだ。一応言っておくが、サボれそうなどという理由で見回りを選ぶなよ。こちらだって、サボっていないか見るために巡回するからな」


 やはり、と俺は思った。やはり見回りを選び、人の目を盗んで実行するというのはできなそうだ。昨日考えた通り俺は動くことが難しい。


「あとこれも言っておくが、こっそり隠れてエッチな写真を撮るのも禁止だ。写真に関するエロの権利は、写真部が牛耳っているからな」


 確か、写真に関してのエロだけは写真部に明け渡す代わりに、風紀委員は優先的にあるいは安くエロ写真を譲ってもらえる協定があるんだったか。

 写真部にはかつての生徒会転覆の功績があったから、そこは何かしらの権利を認めてやる必要があったし、素人の風紀委員が撮るよりプロの写真部が撮る方がよりエッチだという考えのもと結ばれたんだよな。


 まあそれに関してはどうでもいいや。勝手に個人で撮っても独占はできない。あくまで独占という優越感、それと他人様から奪い取って、吠え面かくところが見たいんだからな。


「では写真部護衛班を希望の者は挙手」


 委員長の呼びかけに何人かの風紀委員が挙手した。俺は少し考えたが、決心して挙手をした。というのも、常に現場の近くに居た方が何かと都合が良いだろうと判断したからだ。


 結局希望者は定員の十五人を超えてしまったが、その後の非平和的実力行使乱闘方式による公正な選抜によって、俺は十五人の中に勝ち残ることができた。


 これで作戦成功に一歩近づいたと思いたいが果たして――?





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