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 今日は文化祭当日、天気は快晴。

朝の短いホームルームが終わると、一部数人の店番を除いて解散、自由行動時間となった。自由と言っても、部活の方で出し物がある奴や、俺みたいに委員会の活動がある人間は自由ではないのだが。しかし何にせよ、ここからが作戦開始の時間だ。


「それじゃ水島、今日は頼むぜ」


「ああ、任せとけ」


 俺は水島との短い会話を済ますと風紀委員室に向かった。

 風紀委員室に着くと、その部屋の前にはすでに俺以外の十四人が揃っていた。それから少しして、写真部エロ写真班の連中が到着した。


「写真部の皆さんですね。私が護衛班のリーダーを務める林です。今日はしっかり守りますのでよろしくお願いします」


「私は写真部エロ班リーダーの川中です。こちらこそ、よろしくお願いします」


 護衛班リーダー、林と名乗る三年生が仰々しく頭を下げて挨拶をすると、写真部の男も同じように頭を下げた。風紀委員の護衛十五人に対して、写真部エロ班は三人だった。

 互いに挨拶が済むと、俺たち十八人は演劇部の劇が披露される体育館へと向かった。




 劇の始まる十分前、体育館に入ると写真部は一番前の列の席に座った。そこは他の者が座ることを許されない、写真部のために用意された特別席だった。

 まあ、特別席と言っても他の席と同じただの長椅子なのだが、写真撮影はこの特別席の写真部にしか許可されていない。そういった意味で特別な席なのだ。もっとも、演劇部による劇以外は撮影オーケーである。

 そして、俺たち風紀委員は普通席に分散して座り、演劇中誰か勝手に撮影する奴が居ないか見張るのが仕事となっている。

 全員が配置について数分が経つと、舞台の幕が上がった。


 舞台には一つのベッドが置かれており、幕が完全に上がるとなんだか艶めかしい感じのBGMが流れ出す。すると、舞台袖からベビードールを着た巨乳の女が出てきてベッドに横たわり、その直後、今度は女が出てきたのとは反対側の舞台袖からパンツ一丁の筋肉質の男が出てきて、こいつもベッドに横たわった。かと思うと互いに抱き合って濡れ場が始まった。

 いきなりかよ! 普通濡れ場ってのは、途中に配置することでそれまで客を逃がさない様にするもんじゃないのか!?

 いきなりの濡れ場、ストーリー上の背景とかも全く分からないので、見ていてもエロい以外の感想が湧いてこない。


 困惑とエロの狭間をさまよいながら、演劇を最後まで鑑賞した。劇は平凡な愛憎劇だったが、最初に出てきた主役の女が最初っから最後までベビードール姿で、劇の全シーン中、実に八割のシーンがベッドシーンだった。

 エロに寄り過ぎで、最早凝った劇パートのあるAVといった印象すら持ったが、まあエロかったので良し。こいつは写真が今から楽しみだぜ。




 演劇部の一時間ほどの劇が終ると、俺たち十八人は体育館を後にし、かなり早いが昼飯を食うために食堂に入った。

 時刻は11時、食堂には俺たち以外の生徒は数人しか居ない。だが午後のミスコンを最初から最後まで撮るには、このタイミングで昼飯を食うしかないのである。

 ミスコン開始時刻は1時30分だがその準備、つまり着替えはその一時間以上前から行われる。それだけ聞けば、食べるのはもう少し遅くても大丈夫の様に感じられるが、実際は食堂が混む可能性を考えなければならないので、何事も早め早めが良いというわけだ。




 十分ほどで昼飯を食い終わり、食器返却の列に並んでいると、後ろから声をかけられた。声からすぐに水島だと分かった。俺は振り返ることなく返事をする。


「こっちは異常なし、そっちはどうだ?」


「とりあえずブツは出し終えた。あとは時間が来れば移動させるだけだ」


「よし、その調子でやってくれ」


 短く会話を済ませたところで俺が列の最前になった。食器類を棚に返却すると、水島に挨拶することなく、まるで他人の様にその場を離れた。




 食堂に入ってから三十分たったところで、俺たち十八人は次の現場であるミスコン出場者の楽屋へ向かうため食堂を発った。


 ミスコンはグラウンドに設置された特設ステージで行われ、楽屋はステージとの行き来を考えて一階の空き教室が利用されている。

 出場者たちは一時間以上前に楽屋入りして衣装を着たり化粧をしたりするが、写真部はその作業を撮りたいので、俺たちはそのさらに三十分前からスタンバる。相当早い行動が要求されるが、早めに昼飯を済ませたおかげで特に慌ただしさを出すことなく現場に向かう。

 そして楽屋に使われる教室に到着した只今の時刻は11時40分、素晴らしい写真を撮るための準備時間もたっぷり取れる時間だ。俺たち風紀委員は写真部の撮影準備を眺めながら、ミスコン出場者が来るのを待った。


 待っている間に俺はこの後の行程を念のためおさらいする。午前の演劇部が終わったので、後はミスコン出場選手の着替えの撮影、それが終わると各教室で行われているエッチな出し物の撮影が待っている。例えば、パネルと対応したところを美少女が脱がないといけない脱衣ストラックアウトとか、シンプルに脱衣麻雀とか。

 それらをやっている教室を行ったり来たりしないで済むように効率よく回ると、最初はノーパン喫茶で最後は映画研究部のエロ映画となる。回る教室は全部で十個。

 そしてそれらすべてを撮影し終えると、写真部はフィルムを保存するため現像室に向かう。俺と水島はそこに入られてはお終いなので、今はまだ早いが、それまでに確実に行動を起こさなければ作戦は失敗となってしまう。

 まあ、ちゃんとそれに間に合う作戦を立ててある。その作戦ってのは――。


「こんにちは」


 おっと、おさらいもここで終わり。ミスコン出場者とその他御一行が到着し、写真部リーダーの川中が彼女たちに挨拶をした。これにミスコン出場者六人は完全無視! 心底不愉快そうな顔! そりゃ目の前にいる奴が着替えと裸を撮るんだから無理はないか。




 それから俺たち風紀委員は、ミスコンが終わる3時30分までミスコン出場者たちが撮影を拒否しない様に睨みを利かせ続けた。

 わが校のミスコンは、やはり高校の文化祭で行われる程度のものなので、品格や知性などは問われない。しかし衣装に関しては頑張っていて、出場者はドレスや水着など十着の衣装に着替えてその姿を披露する。

 この三時間余り、俺たち写真部と風紀委員はおかげで十着の衣装を着た姿と、それプラス元の制服に戻るための十一回の着替えを拝むことができた。

 もうほんと、全員美少女のスタイル抜群、普通に生きてたら一生見られん光景だった。しかも、同い年だけじゃなくて年上もだぞ年上! お前、先輩の生着替え見たことあるか? 俺はある。






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