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「駄目だぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 俺は放課後、誰も居ない教室で自分の机に突っ伏した。

 さて、今日丸一日をかけてナンパし、文化祭当日一緒に回ってくれないかと同じクラスの巨乳美少女全員に声をかけた。その結果はゼロ! 何の成果も得られませんでしたぁッ!

 くそ、おかしいだろ! 文化祭までにはあと一週間以上あるってのになんで全員断るんだよ! 西城を除いて友達と相談とか調整とか、やんわりオブラートに包む奴が一人も居なかったぜ……。

 だが西城もあの感じだと多分無理だろな、と俺は感じ取っていた。何せ俺の顔見て答えてなかったからね。完全に上の空で話していやがったぜ西城の奴。


 まあ、実の所一人の巨乳美少女にはまだ声をかけていないのだが、あいつとあまり親密になりすぎると死ぬ未来が待っているので、あいつには声をかけるつもりはない。

 実際、俺のタフネスなら(ていうかあいつ自身も)死なずに済むかもしれないが、おそらく、その場合は一緒に死ねるまで心中を繰り返すことになり、何度も死ぬほどの苦痛を味わないといけなくなる。そんな未来が見えている相手に、声をかけられるわけがない。多少の性格の難は我慢できるが、さすがに命は我慢できない。


 だがこうなると、出し物決めの時に介入しなかったのが裏目になっちまったぜ。

 まあこうなると分かっていても劇はやらなかったが、しかしボウリングというのは事前準備が楽過ぎて何のドラマも生まれやしねえ。そういうアプローチから女子と仲良くなることもできない! 


 ふと、人の気配を感じて顔を上げてみると、今にも泣きそうな面をした水島が一人そこに立っていた。


「その面を見るに、水島も駄目だったらしいな」


「ああ、全滅だ」


「俺も同じだった」


 俺たち二人は揃ってため息をついた。おもむろに水島が口を開いた。


「だが、誘えるのは今日だけじゃねえ。俺は明日、隣のクラスを当たるぜ」


 俺は水島の言葉に光を見た。

 そうだよな。何を弱気になっているんだか。最後の最後まであきらめないのが、俺のモットーじゃねえか。


「そうだな。俺もそうするよ」


 今日はもうナンパするには遅すぎる。俺たち二人は明日に望みを託し、二人して家路についた。


 しかし翌日も駄目だった。同じ学年の美少女全員に声をかけたが、これまた全滅だった。

 全員初対面ではなく、以前に声をかけたことがあるのでひょっとしたらと思ったが、寧ろ逆に過去にナンパしたことにより印象が悪くなっていたようだった。

 今の俺は不意に崖下に落とされたような気分だった。崖から落下すること自体への精神的衝撃、そしてこれから高く険しい崖を登らないといけない事実。


 俺は放課後、また自分の机に突っ伏していた。今度は水島も一緒に。


「そういや中野はどうした?」


 気持ちを切り替えたいのか、水島は俺に中野について尋ねてきた。


「さあな。だが多分部活の方が忙しんじゃねえか?」


「そうか確かあいつは科学部だったな」


 しかし会話はここで途切れてしまった。

 水島は暗い雰囲気を吹き飛ばすかのように、立ち上がって大きな声を出した。


「明日は上級生だ!」


 なるほど、まだブルーオーシャンは広がっていると。しかし。


「……俺はパス」


「何故?」


 水島は不思議そうな顔をする。


「地道な努力も必要だってのは心得てるつもりだが、このまま馬鹿みたいに総当たりの非効率のやり方を貫くってのも面白くないんでね。何か別の手を考えることにしたのさ」


「……そうか、勝手にしな。俺は明日、上級生を当たってみるぜ」


 互いにこれからの方針を決めた俺たちは、今日もまた二人で家路についた。




 翌日の事だった。

 水島にはああ言ったものの、妙案は中々浮かばなかった。

 大体、必要な作戦ってのがデート中に惚れてもらうためのものじゃなくて、デートに誘うためのものってのが面白くない。ここで頑張ったってデート中俺に惚れるとは限らない、そう考えるとそんな不確実なもののためにモチベーションは上がらない。

 いや、その後デート中の作戦を立てることも可能だろうが、仮に立てたとしてもそもそも誘いに応じてもらえない(普通に誘って駄目だった)時点で脈無しみたいなもんだ。そんなんなのに、作戦のおかげでオーケーを貰えたとして成果を上げられるのか? そういう考えが頭に生まれていた。




 そんな折だった。昼休み風紀委員に召集がかかった。

 なので俺は水島と中野とは昼飯を食わず、一人でうどんを早食いして第二風紀委員室へ向かった。

 ドアを開けると普通の教室と同じ様に配置された机と椅子、そこにすでに二十人ほどの風紀委員が適当な席に座っていた。特に決められた席はないので、俺も手近な席に着く。

 それから数分が経ち、昼休みもあと五分で終わりという所で、全く遅すぎることだがやっと全員が揃った。すると風紀委員長が黒板の前に立って、場を取り仕切り始めた。


「今日君たちに集まってもらったのは、連絡事項を伝えるためだ。約一週間後に開かれる文化祭において、思い出として写真部が各所で写真を撮ることになっている。そこで風紀委員は彼らがスムーズに活動できるようにサポートすることになった」


 委員長の言うことになるほどと納得する。そういうわけで俺たちを招集したのか。


「写真部も強権を有しているものの風紀委員程ではない。また抵抗する者に対しては、風紀委員の武力行使が必要になることも予想される」


 いや普通抵抗はされんだろ。いったい何を撮るつもりなんだ写真部は。


「それで主な我々の活動範囲、つまり抵抗が予想される範囲だが、まずはどこぞのクラスがやりそうなコスプレ喫茶、それからミスコンの楽屋、それから演劇部の濡れ場シーンと考えている」


 確かにそりゃ抵抗されるだろうよ。ミスコンの楽屋撮る奴なんて普通居ないぜ? おそらくは着替え目当てだろうが。……っていうか今濡れ場って言わなかったか? うちの演劇部濡れ場あんの!?


 俺は思わず挙手をした。


「――発言を許可しよう」


「はい、演劇部に濡れ場があるというのは本当ですか!?」


「本当だとも。文化祭といえど演劇の脚本には検閲が入る。濡れ場のない脚本は全て上映禁止とされる」


 おお! なんて良い学校なんだうちは! 風紀委員もたまには仕事するじゃねえか。

 まあ、だからって委員長たち五人に対する個人的怨みが、完全に消え去るわけじゃねえが。周藤明日香の時の事、まだ忘れてねえからな俺は。


「――質問は以上か? 他に質問する者は?」


 俺の質問に対する返答を終えると委員長は確認を取る。誰も挙手する者は居ない。


「では、今日はもう時間が無いので配置については後日決めるとするが、最後にこれも伝えておく。我々五人の委員長クラスは当日は休みだが、だからと言ってサボらず、浮ついたカップルの取り締まりはいつも以上に厳しく行うこと。以上解散」




 これにて連絡は終了し、風紀委員たちはそれぞれ自分の教室に戻っていった。俺も一人、自分の教室に向かって廊下を歩いていく。その途中、俺は頭の中であることを考えていた。


(写真部の活動か……。こいつは詳しく調べてみる価値がありそうだ!)











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