第十三話 お宝横取り作戦

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「それでは、文化祭での出し物を決めたいと思います。何か案のある人ー?」


 一時間目の授業ロングホームルームにて、近々行われる文化祭でうちのクラスが何をやるのか決めることになった。

 文化祭と言ってもうちのはたった一日限り、前夜祭も後夜祭もなく終わるどこにでもある規模のもんだ。まあ、それでも普段勉強勉強の毎日からすると、学生諸君にとっては十分の息抜きと言える。


 学級委員長である帆風は黒板の前で皆からの案を募り、一つ一つ黒板に書いていく。劇、屋台、ストラックアウト、ボウリング等々。中には休憩所なんてものもあった。

 クラスメイト達は皆活発に案を出していく。隣や後ろの席の友人と楽しそうに相談する奴も居て、文化祭はこの時点からすでに沸いていた。かくいう俺も文化祭には多大なる期待を抱いている。

 何故って例の如く、俺のモテモテ作戦、放課後の教室でのラブラブエッチに利用できると考えたからだ。こういう特別な行事で特別な記憶を共有するってのはエッチへの近道、当然逃す手は無い。


 だが俺は、この場はあえて自分の案を出すことを控えることを選択した。それを意外に思う人も居るかもしれない。しかし、ここで下手に手を加えようとするのは如何にも凡人のやりそうなことだと思わないか?

 例えば、性欲に忠実過ぎる奴はこの場で自分を主役に据えた劇を提案し、その劇中に台本に書いてあるからと言って女子とのキスを敢行するかもしれない。だが、そんなことをやって一時の性欲が紛れても、最終目的である彼女とのイチャイチャラブラブエッチはむしろ遠ざかると自覚すべきであるのだ。

 当然、俺は賢者だからそこのところは承知している。だから今は静観を決め込むのだ。




 出し物は結局ボウリングという面白みのないものに決まって、一時間目が終わった。これに決まった主な理由として、そもそも一年生は舞台と屋台を使えないというのがあった。最後の思い出作りとして三年生優先だそうだ。最初っから言っといてくれよ優子先生。

 休み時間が始まると、水島が俺の席までやって来た。


「永井にしては珍しいじゃねえか。お前なら自分を王子様にした白雪姫――、いやオリジナル脚本でやりたい放題、お姫様を十人に増やすくらいはやってのけると思ったんだが」


「おい忘れたのか? 一年生は舞台を使えないから劇もできないって」


「だがお前は風紀委員だろ? それくらい権限でどうにかなるんじゃないのか?」


「確かにそうだが、よく考えて見ろ? 劇の中で好き放題やっても逆効果だ。クラスの女子が皆ドン引くぜぇ? 『あいつ必死過ぎ、どんだけ女に飢えてんの?』ってね。そんなことになったら彼女なんてできやしない」


「……それもそうだ」


 水島はわずかにだけ考える素振りを見せたが納得した。


「まあそれは分かったが、だからって何もしないわけじゃないだろ?」


「いや、何もしねえよ?」


「なに!?」


 水島は目を見開いた。


「いやなに、そんな慌てなさんな。策を使わないってだけさ。今回は地道にナンパしようと思う」


「お前らしくねえな。こういうデカいイベントでは必ず作戦を用意してきたってのに」


 俺は水島に参ったという表情で話した。


「いや文化祭ほどの規模となると、完全に自分のコントロール下に置くのは難しい。例えばどこどこのデートスポットに行くという作戦を立て、そのデートスポットを自作するなんてのはこの場合できない。出し物はクラス、あるいは部活単位だ。

 さらには、各クラスが連なって教室で出し物ををやる。その中にはデートの雰囲気にそぐわない物だってあるかもしれない。今までの俺は舞台を整える作戦を立ててきたが、今回は舞台を整えられないわけだ」


「うーむ、なるほど……。お前がそうだったら、俺が何考えても同じことだろうな。……よし、俺も地道にナンパするとするか」


「お、お前もそうするか。んじゃお互い今回は地道に頑張るとしますか!」





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