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「ば、爆発ぅ!? な、何故!?」


 皆、放心して選手は俺でさえ足を止めていた。

 しかしそこで何故か一人、中野だけが高らかに笑いながらレーンを歩く。


「我輩だよ」


「なにぃ!?」


「永井にしては察しが悪いな。我輩が爆破したのだ。トラックの各レーンにあらかじめ埋められていたリモコン式爆弾のスイッチを、たったさっき我輩が押したのだ!」


「何のために!?」


「愚問だな。これが我輩の用意していた作戦だったのだ。我輩がリレーで一位を取り、モテモテになるための作戦だったのだ。遺憾ながら我輩は九歳児、高校生たちと普通に競っても勝ち目はないのでな。こうでもせんと」


 こいつ、爆弾でグラウンド吹き飛ばしてまでモテたいのか!?

 ていうかお前なら脚力増強シューズとか発明できそうだがなあ!?


「しかし、いつどうやって爆弾を仕掛けた!?」


「我輩は会場設営係だぞ? いくらでも機会はあったさ。フフフフ……体育祭というのは始まる前から始まっているのだよ!」


 こ、こいつそのために設営係なんて面倒なものになっていただと……!? 単なる真面目さや泥臭さアピールではなかったのか……。クソ、読み違えたぜ!


 俺と中野が会話している間に土煙も晴れてきた。爆発の起きた第四コーナーの惨状が露わになる。

 爆発によって地面には穴が開いていた、そしてその穴のすぐそばで尻もちをついている水島が居た。どうやら直撃はしなかったらしく目立った怪我もないようだが、かなり近い距離で起こった爆発、ショックで立ち上がれないようだった。


「中野、随分危ないことをやってくれるじゃねえか」


「なに案ずるな。安全には十分配慮している。死にはしない。きちんとそういう風に配合して作ったからな」


「そうか……なら別にいいや」


 まあ、死なないなら問題ないんじゃないか。水島も怪我してないし。

 何が起こったか把握し、それが大したことが無いと分かると、俺は平静を取り戻した。止めていた足をまた前へと動かし始めた。

 中野の声が後ろから聞こえる。


「ほう、さすがは永井。爆発に怯え誰一人として走れないこの状況で、迷いなく足を動かすことができるとは!」


『――おおっと、赤組永井選手が再び走り始めました。そして、白組中野選手も諦めず追います。しかし危険です! 爆発がまた起こらないとも限りません!』


「そ、そうだ、実況の言う通りだ。き、聞け永井!」


 背中から中野の叫び声が聞こえる。走っているせいで息が荒い。


「爆弾はさっきの一発だけではない。食らえ!」


 バゴオオオオオオンッッッ!!!


 再び爆発、しかも今回は俺のすぐ足元で起こった。

 しかし、俺はそれをものともせずゴールに向かって走り続ける。


「ば、馬鹿な! も、もう一発だ!」


 再び近くで爆発。それでも俺は止まらない。


「ど、どういうことだ。この、この、この!」


 取り乱した声の中野は、次々に爆弾のスイッチを押す。

 爆弾は走る俺を追いかける様に次々に爆発していく。しかし、それでも俺の走りを止めることはできない。

 俺は背中に爆風を感じながら駆けていく。


「これなら!」


 一発の爆弾がついに俺の真下で爆発した。


『――ちょ、直撃です! これまで当たることのなかった爆弾についに永井選手、当たってしまいました! 彼は無事でしょうか!』


 目の前が土色の煙に包まれる。しかし――。


 甘いんだよなあ中野。俺には殺すくらいの威力の爆弾でなくっちゃ。これくらいの威力、仮に当たったとしても屁でもねえぜ。この程度じゃ、俺の足を止めることはできないのさ!


「さ、さすがの永井といえど直撃なら一溜まりも――な、なにっ!?」


『――な、なんということでしょう! 永井選手、土煙から飛び出し姿を現しました! しかも走っています! 爆発が起こったことを知らないかのように、依然問題なく快速で走り続けております!』


「に、に、人間とは思えん……」


 そうさ中野、こいつは誰にも言ってないが俺はただの人間じゃないんだ。そう気を落とすことは無いぜ。相手が悪かっただけさ。仮に俺がただの人間だったら、中野が一位を取ってモテモテになっていただろうさ。


 俺はゴールを目指し駆ける。

 戦意喪失したのか爆弾が尽きたのか、中野は爆発を起こすのをやめた。

 そして俺はついに水島を抜き、悠々とゴールテープを切った。


『――ゴール! 一位、赤組ぃ!』


 同時に実況が俺を称え、赤組陣営がドッと盛り上がる。

 一般生徒は俺と違って配点を知らないので、まだ赤組の優勝が決まったことはこの時点では知らない。それでもやはり、最終競技で一位を取ると盛り上がるというものだ。隣の奴と抱き合ったりハイタッチをしたりしているのがここからでも見えた。

 俺もとても嬉しかった。胸の内から熱いものが込み上げる。俺のおかげで優勝できたのだ。それも最後にはごぼう抜きして独走という活躍ぶり。これはきっとモテるぞぉっ!




 競技が終わり整列、そして退場。退場行進中、頭の中で点数計算を行う。

 えーっと、女子リレーは一位緑組に15点だけで二位以下は0点だけど、男子リレーは一位500点で二位以下は250点、150点、0点、0点だったよな……。

 男子リレー直前の点数は最下位赤組1000点。四位青組1200点。三位白組1300点。二位黄組1390点。そして一位は緑組1455点だった。

 ということは、男子リレーの順位順で計算すると一位赤組1500点、二位青組1450点、三位白組1450点、四位緑組1455点、そして最下位黄組が1390点……。よし、今計算してもしっかり赤組の優勝だ!


 作戦が成功して喜んでいると、両脇の水島と中野が声をかけてきた。


「くぅ~、今回は惜しかったぜ。やってくれたな永井!」


「今回は我輩の完敗だ。だが、次はこうはいかんぞ」


「ああ、望むところだ」


 俺たちは互いを称え合った。

 と、そんなところにアナウンスが流れる。


『――えー、運営から只今情報が入りました。運営によりますと、風紀委員発案女子早着替え走にてナイスポロリを見せてくれた緑組に、急遽追加で100点を加算するとのことです』


 ――なんだって?


 ――なんだってっ!? 緑組に100点追加ってことは1555点で緑組の優勝じゃねえか!


 これじゃせっかくリレーで一位を取った意味が無くなっちまう。何か手はないのか!

 運営もふざけたことをしてくれやがって!? まあ、確かに緑組のあの巨乳のポロりはエロかった。だが、それとこれとは話が別だ! 




 しかし、追い詰められた人間というのは普段以上の能力を発揮するものだ。俺は瞬時に次の手を考え付き、退場する行進の列から飛びぬけた。

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