6

 その日の放課後から俺のボディーガードとしての仕事は始まった。

 どんだけ予定詰め込んでんだこのビッチが! と言いたくなるが我慢する。

 そんな生活から、俺が救い出してやろうってつもりじゃないか。




 それから一週間が過ぎた。この間に周藤明日香は数人の男とエッチをした。その中には見張り役との報酬エッチも含まれていた。

 しかし、不可解なことがあった。俺はまだエッチ出来ていないのだ。

 まさか、俺だけハブられている? まさか、そんなわけあるまい。順番待ちかな。きっと俺以外にもしてない奴が居るだろう。


 ある時、俺は見張りAに聞いた。


「お前、最近周藤明日香としたか?」

「したよ」


 見張りBに聞いた。


「お前、最近周藤明日香としたか?」

「ああ」


 見張りCに聞いた。


「お前、最近周藤明日香としたか?」

「二回したぜ」





 …………全員じゃねえかッ! 俺以外の全員が報酬を受け取っているッ! 俺がッ! 俺だけがッ! 報酬を受け取っていないッ! しかも二週目が始まっているッ!


 納得がいかなかった俺は周藤明日香に詰め寄った。

 胸ぐらを掴み問い質す。すると周藤明日香は隠すことなく答えた。


「あんた馬鹿? 入って数日の一年にさせてあげるわけないでしょ! 下積みを積みなさい!」


 年功序列! こんなところにまで年功序列の魔の手が伸びていたとは! エッチにまで年功序列を持ち出すから日本は駄目! 若者に優しくない国だ。


 怒り狂った俺はその場を去り、夢中で走った。

 こうなったらタダじゃ置かない。タダにしなかったのは向こうだから、こっちもそうしてやる。俺をここまでコケにしやがって。

 風紀委員に告げ口して、不順異性交遊の現場を押さえてもらおう。これであの女も男共もお終いよ。


 俺は風紀委員室へ向かった。

 この学校には生徒会室の様に、風紀委員用の部屋が用意されている。

 そこにはいつも、風紀委員長と四人の副委員長が常在している。

 副委員長が四人も居るのは、権力闘争の結果である。ちなみに一人の副委員長を除けば、あとは全員男だ。本当にどうでもいい。


「失礼しまぁす!」


 俺は怒りに任せてデカい声を出しながら、力任せに戸を引いた。

 中に居た五人の風紀委員は、俺を鬱陶しそうに睨んだ。


 委員長が煩わしそうに口を開いた。


「騒々しいな。なんだ?」


「はい、周藤明日香という女子生徒が校内で不順異性交遊を働いているのです。どうか処罰の方を」


 俺のような一委員は補導くらいしか出来ない。

 重い処罰の権限を有するのは委員長と四人の副委員長のみ。だから一々こうやって協力を仰がないといけないのだ。

 そうでなければさっき直々に刑に処したというのに、なんと面倒臭いことか。


「ああ、彼女の事か。それなら不問に処する」


 俺は耳を疑った。


「な、なに!? 不問!? あんたらは、勝手なエッチは許さないんじゃなかったのか!?」


 理由は主に嫉妬で。風紀とか抜きにして。

 俺が驚くと、委員長は笑った。


「ははは、校内中に名が響き渡っている周藤明日香が、どうして今まで無事でいられたと思う?」


「それは何故だ?」


「彼女が自分を見逃すようにと、我々五人にタダでエッチさせてくれているからだよ」


「な、なんだってッ!」


 俺は目玉が飛び出た。

 これはあくまで比喩表現で、いくら強化人間だって驚いたくらいで目玉は外れない。


「つまり、君は完全に無駄骨だったわけだ。さっさと帰れ」


 委員長はしっしっと、手で俺を追い払う仕草をした。


 屈辱だった。女にエッチをさせてもらえず、泣きついた先は見当外れ。寧ろ恥をかいたくらいだ。こんなにコケにされたのは初めてだ。


 こいつらにはいつか復讐してやる。

 だが、いくら復讐しようが、俺だけが童貞だという事実は拭いようがない。

 復讐する前にまず童貞卒業。彼女を作ってイチャイチャラブラブエッチをしなければ、自信を持って復讐に臨むことが出来ない。じゃないとまるで童貞の妬みじゃないか。


 直接的でなくとも彼女作りは復讐の一環と考えれば、俺はなんとか冷静になることが出来た。それに俺がこの学校に入学したのは、復讐のためではなく彼女を作るためだ。時間は彼女作りに使わなくちゃ。




 後日。

 昼休み、場所は放送室。


「永井、お前周藤明日香のボディーガードをやめたのか」


「そうさ。もっといい手が浮かんだんでね」


 俺は自信をもって水島に解説する。


「いやあ、今度こそ画期的な手だ。ビッチを相手にするならね、なにも周藤明日香だけじゃなくてもいい。この学校には案外ビッチが居るもんだ。もう、ビッチと純愛を育めるなら、相手は誰だっていい」


「なんかおかしくないか? ビッチと純愛、純愛なのに相手は誰でも良い――」


「とにかくだ、こっちから行くから駄目だったんだ。今度は向こうから来てもらう」


「つまり、どういうことだ?」


「なんで俺たちが放送室に来たか、分からないのか?」


 俺はマイクをオンにし、大きく息を吸って放送を開始した。


「俺は一年b組の永井一だ。至急、俺とエッチしたいっていう、ビッチを募集します。興味のあるビッチの方は、至急一年b組まで来てください。よろしく」


 やっぱり俺の着眼点は素晴らしいね。

 男を募集するのもビッチだが、男の募集に応じるのもビッチだよな。


 さあて、反応が楽しみだ。

 放送を終えた俺はウキウキした気分でスキップしながら教室に戻った。

 そうしたら何やら教室の中が騒がしい。

 もしかしたらもう俺好みのビッチが来てくれたのか?

 こんなに早いなんて、相当なビッチだ。これは期待出来そうだ――。


「お前が永井一だな」


 そこに居たのは風紀委員長と四人の副風紀委員長だった。俺は逮捕された。


「何故!?」


「現行犯でなくとも、エッチを画策しただけで罪だ!」


 風紀委員長は怒鳴った。


 くそ、なんて横暴だ。自分たちはエッチしてるくせに、権力に任せて好き放題しやがって。自分の気に入ったことだけ許して、気に入らないことは許さない酷い奴らだ。

 いや待て、気に入られれば良いんだな。周藤明日香は確か――。


「そこの女子風紀委員長さん!」


 俺はふん縛られながら言った。


「なあ、あんたとエッチしてやるよ。だから俺を見逃してくれ!」


「何様のつもりよ!」


 俺は遥か彼方へ蹴飛ばされた。

 …………に、逃げられたからラッキー……。


 なお、それで俺には逃亡罪まで罪状が増えてしまった。





七話URL

https://kakuyomu.jp/works/1177354054906033565/episodes/1177354054906040778

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