5 一件落着

 町中走り回って、辺りは暗くなったが、立川と川上は中々見つからない。

 諦めかけたその時――、


「居たぞ!」


 俺は二人を見つけた。なんと二人はまだ最初のあの場所に居た。


「ジャンプしなって」

「嫌です」


 いつまで同じやり取りやってんだよ……。

 でも、川上がジャンプしてるところは見たいかも。ついでに立川にもして欲しい。

 俺と水島は二人に近寄って声をかけた。


「立川、俺が勝ったから、お前を頂きに来たぜ」


 立川と川上は声を掛けられるまで、俺と水島に気付かなかったらしい。

 二人とも俺たちを見て少し驚いていた。


「だから、知らないってば。大体、アタシを助けてくれるんじゃなかったの?」


 うーん、なんと説明したものか。


「最初は助けたら彼女になってくれそうだと思ってたんだよ」


「うん。ちょっと頭おかしいのかな?」


「しかし、勝てば欲しいものが手に入る。ということは回り道しなくても、いきなり立川を貰えばいいと思ったわけだ」


「うん。大分頭おかしいな!」


 いや、大分合理的な計算だと思うがなぁ? と、思っていると、水島も続く。


「俺も川上を助ければ、お近づきになれると思ったんだよ」


「はい。まぁ……ありえなくは……ないですかね」


「しかし、勝てば欲しいものが手に入る。ということは回り道しなくても、いきなり川上を貰えばいいと思ったわけだ」


「はい。ありえませんね」


 しかし、水島もバッサリ切られてしまう。

 てか、やっぱり水島もナンパ目的で助けようとしてたんじゃないか。

 結構気が合うな。


「まあ別にぃ、お金出してくれるなら、お茶くらい付き合ってあげてもいいけど? もちろんお茶もアンタのお金で」


 ここで立川からの申し出。結構魅力的だが……。


「お茶代だけってのは……?」

「ムリ」


 無理ときたか。

 本当は、一足飛びで彼女まで行って欲しいが、無理なものはしょうがないか。

 ここは地道な一歩だ。

 こうやって、お茶とかしてちょっとずつでも距離を縮めていって、いずれは彼女、そして放課後夕方の教室で、イチャイチャラブラブ制服エッチだ!


「分かった。いくらだ」

「五千円」

「ひょっ!?」


 思わず変な声が出てしまった。

 五千円なんて約三週間分の昼飯代じゃねえか。研究所はケチだからなあ……。

 三週間も飯抜きかあ……。

 てか、札びらなんてジャンプしても音しないだろ。

 なんでジャンプさせようとしてたんだよ!


「ぐ、ぐぐぐっ……、し、仕方がない。はらぉぅ……」


「なんて? 途中から声が小さくなって聞こえなかった」


「分かった、払う! 払うよ! ……なあ、水島、お前今いくら持ってる?」


「お、俺かよ!?」


「分かるか水島? ここで金を出すってことは、立川を助けると同時に、川上も助けることになるんだ」


 水島は少し笑って肩をすくめた。


「なるほど、お前には敵わないな。これだけやるよ、釣りは取っときな」


 まーた格好付けちゃって、もう。

 水島は言いながら、財布から金を取り出し俺に差し出した。


「けぇっ、いくらくれんのかと思ったら、たったの五百円でねぇの。格好付けすぎだろ!」


 財布にまだ札びらがあるのは見えてるぞ!

 ところが水島は、


「いいか、川上。俺は確かに金を出して、お前を助けたからな。いいな、覚えておけよ!」

「は、はいっ」


 水島は川上の両肩を掴んで相手をまっすぐ見つめ、恩着せがましく体をゆすっている。


「変われぇい! 水島ぁ!」


 俺は水島を跳ね除け、川上の両肩を掴んだ。


「いいか? 俺は四千五百円も出したんだ。忘れるなよ!」

「は、はいぃっ」


 俺の方が金出したんだから、そこのところ覚えてくれないと金の出し損だぜ。

 こちとら、三週間分の昼飯を犠牲にしてるんだからな!


「ま、お金ありがとう。その子は放してやんなよ。アタシが言うのも変かもしれないけどさ」


 立川は金を財布に入れながら言った。


「ところで、その金で何買うつもりか、聞いてもいいか?」

「よせよ、男らしくない」

「言うな! 俺は三週間分の昼飯を犠牲にしてんだ。聞く権利くらいある!」


 まあ、化粧代とか、綺麗になるためってんなら我慢できるが。

 未来の彼女には綺麗でいてもらいたいもんね。

 すると立川は渋々答えた。


「明日、カレシの誕生日なんだけど、昨日ついうっかり新作コスメにお小遣い使っちゃってさぁ」


「……な、なに? つまりその五千円はその彼氏のために使うってか?」


「そゆこと」


 立川は、けろっと答えた。

 な、なんだと!?

 つまり俺は、他の男のために三週間も、昼飯を我慢しないといけないってことか!?

 ふざけるんじゃない! というか、立川彼氏居たのかよ!


「彼氏が居るくせに、よくも『お茶くらい』なんて言えたもんだな!」

「いやまあ、カレシ居ても、お茶くらいなら別に良くない?」

「良くない!」


 期待だけさせて弄ぶなんて、とんだ悪女だこいつは。


「しかし、彼氏が居ようが、お前が女を取っちまえばいいじゃねえか」


 水島は俺の肩に手を置き、なだめようとしてくる。

 だが、それじゃダメなんだ水島。


「俺は、天下御免の強化人間だぞ!? それが他の男のおさがりで、満足出来るかってのよ! 放課後夕方の教室で、イチャイチャラブラブ制服エッチしてるときにもさ、発言が信用できないだろぉ? 前の男にも、同じこと言ったんじゃないかって!?」


「お前処女厨かよ……」


 水島は俺の肩から手をどけた。

 顔からしてかなり引いているようだった。別にいいだろ!

 放課後夕方の教室で、彼女とイチャイチャラブラブ制服エッチするとき、お互い初体験の方が燃えるだろうが!


「……ていうか、カレシ居るだけで非処女扱いされるの、ムカつくんだけど……」


 立川は顔を真っ赤にして、もじもじしながら言った。


「え!? じゃあ――」


 俺にも希望の光が――


「確かに初体験は済んでるけど」


 ズコー!


 やっぱり駄目じゃねえか!

 なんで一回否定するようなこと言ったんだよ! 乙女心出してくんな!


「もう駄目だ。彼氏が居るんじゃ、彼女になる確率は下がるし、なにより非処女じゃそれ以前の問題だ! 金返せ!」


 俺はいつぞやの様に、立川の胸ぐらをつかんだ。

 すると、さっきまで制服に隠れていた胸の谷間が見えたり、肘がおっぱいに当たったりで――いいや、今はそれは関係ない。


 俺は首を横にブンブンと振った。


「返してもらおうか」

「待て!」


 しかし、水島が邪魔をする。

 水島は俺の腕を掴んで、立川から引きはがした。


「女に暴力を振るう気か?」

「いや、そういうつもりはないが……」


 だが、確かにちょっとばかり荒っぽかったかもしれない。反省。


「だが、どうやって」

「諦めろ」


 そんなぁ! って、それで済むわけあるか!

 そういうことを言うんだったら、きっちり責任を取ってもらわないといかんよな、水島?

 口だけじゃないってところを見せてくれ。


「だったら水島、金くれ」

「やだよ」


 こいつ、即答しやがった。なんて無責任なやつなんだ。

 男らしくない。こうなったら修正してやる。


「水島、もう一度喧嘩だ。勝ったら金は頂くからな」

「勝手なこと言うな!」

「問答無用!」


 俺は水島に殴りかかった。しかし、さすがは水島。これを受け止める。


「アタシ帰るわ。じゃあ、後はよろしく」

「あ、私も帰ります」


「うおおおおお!!! くらえッ! 広辞苑パンチッ!!!」

「馬鹿めっ、二度も喰らうか!」

「なに!? 躱しただと!?」

 




 一時間後、体中ボロボロでお互い立っていられなくなり、バタリと倒れた。

 夜空を見上げていると、視界に警官が映った。

 周りには俺たち以外には警察しか居らず、人数は二人だった。


「ちょっと、署まで来てもらおうか」


 …………また警察オチかよ! ってそうはさせるか!


「立て水島!」


 ここは協力して突破するぞ。そう何回も、警察の厄介になってたまるか!

 しかし……


「分かりました」


 っておい!

 水島はすごすごと警官の後をついて行く。まるっきり戦意がなかった。


「なんでだ!」

「永井、あそこのパトカーの中をよく見ろ」


 そう言われて渋々、強化人間の超視力でパトカーの中を確認する。

 すると……


「ミニスカポリス!」


 まさか本当に存在したなんて!

 超美人ミニスカ婦人警官が、運転席に座っていた!


「あの太ももをじっくり見てからでも、逃げるのは遅くない」

「うむ」


 確かに、ミニスカポリスはさすがに彼女には出来ないが、目の保養ってのは大事だからな。

 俺は頷いた。


 俺たちはお互い「お前も分かってるねぇ」といったしたり顔で見つめ合った。

 正直、こんなことで逃げるのを遅らせるのも、普通に考えたら馬鹿馬鹿しいと思うし、こんなことで気が合うというのも馬鹿馬鹿しい。


 だが。

 

「ひひひ……ははははははっ!」

「フフフ……ハハハハハハっ!」


 俺がおかしくて笑うと、水島もつられるようにして笑った。

 俺はこいつとは、しばらくやっていけるような気がした。

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