第三話 男でもチア部に入ろう!
1
昼休み、俺と水島は食堂でかけうどんを食っていた。
貧乏学生がどうやって、趣味とか女とかに使う金を生み出すかというと、バイトを除けばこういう手段しかない。
さらに今月はちょっと事情があって、俺は先日女に金をだまし取られているのだ。
現実とは非情なもので、今月あと三週間を千五百円で乗り切らねばならない。
そして、かけうどん一杯の値段は二百円なので、このままいくと飢え死にだ。
いや、かけうどん一杯では腹は満たされないので、現状でも飢え死にしかけだ。
一口、五本ですすっていては、一瞬でどんぶりは空になる。
だが俺はバイトなどしない。強化人間が一般人の指図など受けられるかってんだ。
で、何故あの時、五百円しか取られなかった水島も、かけうどんなのかというと、こいつは単純な小遣い稼ぎだ。
俺と水島は、ちょっと気の合うところがあるってんで、一緒に昼飯を食うのが常になっていた。
「だがな永井、何が悲しくて男二人で飯を食わないといけないんだ? お前なら女を誘ってそうなもんだが」
「そりゃ、そうしたいのは山々なんだがな、一説によるとナンパってのは、二人でやると、一人の時より成功率が上がるらしいんだ」
「だが、こうして二人で飯を食ってるだけじゃ、何も起きないぜ? グルメ漫画読者だって釣れやしない。なにせ、うどんしか食ってないからな、俺たちは」
「安心しろ。昨日、いい作戦が浮かんだんだ」
昼飯時はうるさい食堂だが、俺たちの間には一瞬緊張から来る静けさみたいなものがあった。
「よし、聞かせてもらおうじゃないか」
水島は箸を一度おいて、腕を組んだ。
じっくり話を聞いてやろうというポージングだが、ちょっとわざとらしいとも思う。
俺は、ただでさえコシのないうどんが、これ以上ふにゃふにゃになってしまわないように、食べながら話した。
「この前のことで、お前もわかってると思うが、いくらイイ女だといっても、彼氏が居たんじゃ意味がない。それで俺たちが最も危惧すべきことは、知り合いの女全てが彼氏持ちになることだ」
「なるほどな。だが、そいつは防ぎようがないんじゃねえか? 他人の恋路の邪魔でもしようってのか?」
「まだまだだなぁ、水島ぁ。それで彼女が出来るんだったら、世の中性格の悪いやつばっかり、モテることになるぜ」
「じゃあ、いったいどうするってんだよ?」
俺はここで勿体ぶるために、あえてうどんをすすった。
「――水島、お前、部活は決めたのか?」
「まだだが、それに何の関係がある…………いや、なるほどな」
水島はニヤリと笑った。
俺の意図が読めたらしい。それでこそだ。
「知り合いの女が増えれば増える程、彼氏持ちで埋まる危険が減るわけか」
「そう、要は出会いを広げようってね」
そして部活は、共に過ごす時間が長いから仲も深めやすく、共に目標に向かって励むってところも良い。
他所のクラスの女友達とは違うところだ。
「で、どの部活にする? やっぱりサッカー部とかか? 運動部はモテるし、あそこの女子マネはかなり可愛かったはずだ」
「ばっかもぉおんっ!!!」
俺はテーブルをドンと叩いた。
箸がどんぶりから落ちてコロコロと転がる。
水島、お前の考えは浅いよ。まだまだ俺の域には遠いようだな。
「もっと女子の多い部活はあるでしょうが!」
水島は、少し考える素振りを見せてから言った。
「……じゃあ、文芸部とか家庭科部とかか?」
「いや、そこは意外と男子が多い。違う。もっとライバルの少ない部活があるだろう?」
水島は肩をすくめた。
「お手上げだよ。いったいどこなんだ? そんな女だらけの部活ってのは」
「チアリーディング部だよ」
俺は満を持して答えた。
しかし俺とは対照的に、水島は呆れた様子だった。
「なんだよお前? チアコス嫌いか?」
「ちげえよ。お前な、男の俺たちがいったいどうやって、女子チア部に入ろうってんだよ。それともお前何か? 最近よく聞くLGBTだとでも言うのか? 御免だぜ、女に混ざって、チアリーダーのコスプレして応援をやるなんて。俺は降りるぜ」
「何、気持ち悪いもん想像させんだよ。違うよ。俺たちはマネージャーをやるんだ」
これを聞いて水島は大笑いした。
「そいつは面白いが、出来るもんならやってみな。どうせ無理だぜ」
「何言ってんのお前、女だらけの部活なんだから、男に飢えてるに決まってんでしょうが。そんな中、俺たちがマネージャーとして入部する。これはもうモテモテよ。
ムフフなビデオなんかでもあるだろ、運動部の女子マネが、男共を慰めるってのは。それの逆バージョンだよ。魅力的だろ?」
「誰が入ってからのこと言った? 俺が無理って言ったのは、入部出来ないってことだよ! ……いやまあ、それはそれとして、確かに魅力的だが……そう上手くいくか?」
よし、食いついた!
「だろ? おまけにチア部ってのは、大体野球部とくっつくんだ。それをその前に、坊主野郎から奪い取ってやる。どうだ? 気持ちいいだろ? 上手くいくかじゃない、上手くやるんだよ」
「……確かに、野球部なんてオラついてる、いけ好かない連中から、彼女を奪えるなんて、スカッとするぜ」
「決まりだな」
俺たちは握手し、作戦決行を誓った。
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