3 男たるもの、困っている女子を見逃せない

 学校からの帰り道、俺は不良に絡まれている女の子を見つけた。

 これは、助けた時物語的に行くと、女の子は俺に感謝してお礼をしてくれる。

 もしくは俺に惚れる。そのどちらかだろう。

 つまり、助けるしかない。


 だが俺は動けなかった。

 不良に怖気づいた? 馬鹿を言っちゃいけない。そんなわけはない。

 だが俺は動かない。

 別に女の子が不細工と言うこともない。絡まれている女の子は美少女だ。

 それでも俺は動かない。カブか?

 冗談はさて置き、なぜ俺が動けないでいるかというと、なんと不良の方も美少女だったからだ!


 そして、俺は二人とも誰なのか知っている。どちらもクラスメイト。

 不良の名は立川京子。巨乳。

 絡まれている方は川上桃子。隠れ巨乳。

 これはどちらを助けても尾を引くだろう。

 どちらを助けるかは、慎重に選ばなくてはならない。

 いや、何もおかしな話じゃない。


「ジャンプしてみろよ」


 立川が川上にジャンプを催促する。

 どうやら立川は金に困っているご様子。

 ほら、困ってるのは立川も一緒だ。絡まれてる川上だけじゃない。

 困ってる女の子を助けるという点では、どちらを助けても同じだ。


 つまり『困っているところを助けられた女の子は物語的に行くと、助けてくれた男にお礼、もしくは惚れる』法則を考えると、川上も良いけど立川も捨てがたいから、どっちかすぐに助けるというわけにもいかない。


 はっきり言って迷う。

 どっちにお礼をして欲しいか。ひいてはどちらを彼女にしたいか。

 どっちを助けるか、即断出来る奴なんてこの世に居るのか?

 不良と絡まれてる方、どっちを助けるかで考えるな。

 巨乳美少女と隠れ巨乳美少女のどちらを助けたいか。

 そう! どっちとエッチしたいかで考えるんだ!




 …………川上は押しに弱そうだから後でいくらでもチャンスはありそう。

 ここは立川を助ける方向で行く!

 俺はダッシュし、二人の間に割って入った。


「助太刀するぜ」

「あ、ありがとうございます。たかられて困ってたんです」

「いや、あんたじゃなくて、立川の方を。ほれ、金出しな」

「ええっ!」


 川上は驚きを隠せない様子。仕方ない。

 人間、生きてればそういう時もある。恨んでくれるなよ。

 こちとら男に生まれたからには、女を助けないといけないんだ。


「なんかよく分かんないけど、サンキュー?」


 立川から礼を言われた。狙い通り。

 よし、このまま行くぜぇ!


 俺が川上の肩に手をかけようとしたその時、


「ちょっと待った!」


 同い年くらいの男が一人現れ、俺の右腕をつかんだ。

 そいつは、少し不良っぽい感じだがチャラついた印象はない。

 どこか懐かしい昔ながらの硬派な不良、それをお湯で割ったみたいな風体の男だった。


「誰だお前は!」

「人に名前を聞くときは、まず自分から名乗るもんだぜ」


 まるで、物語のセリフみたいなことを自然と言ってのけやがって、キザな野郎だ。

 ちょっとムカつく。ならば俺も負けじと対抗する。

 腕を組んで言い放つ。


「名乗るほどの者じゃねえぜ」

「なるほどな……じゃあ、俺も名乗るほどの者じゃねえぜ」


 あ、こいつ真似しやがった! ちっくしょー!

 面には出さないが、心の中で地団太を踏む。

 こいつ、硬派っぽい感じして格好つけすぎだろ。

 どうせお前も、助けるとか言って、女の子に媚び売りたいだけのくせに!


「いや、二人ともクラスメイトだよね……。永井君と水島君」


 少しあきれた様子で川上が男の名前を教えてくれた。

 なるほど水島。どこかで聞いたような名前だ。

 いや、クラスメイトだからとかじゃなくて。


 ――あっ、城ケ崎の巨乳を揉んだやつか!

 なるほど俺たちは同じおっぱいを揉んだ、揉み兄弟というわけか。

 こいつは負けられない。

 まあ、俺の辞書に敗北の二文字はないが、これは気合の話だ。


「こうなったら喧嘩しかねえ。俺が勝ったら川上は諦めろ。良いな?」


 水島の提案に俺も乗る。


「良いだろう。俺が勝ったら川上は頂く――」


 ……ちょっと待て、何か変だぞ。俺が欲しいのは川上だったか……?


「――いや、俺が勝ったら立川を頂く!」


 これに立川と水島は驚いた顔をした。


「な、なに!? だったら俺が勝ったら川上を頂く」

「良いだろう。俺は勝っても負けても川上には手を出さない」

「ちょっと勝手に決めんな!」

「勝手なこと言わないでください! ていうか、私を守ってくれるんじゃないんですか、水島君!?」


 俺と水島間の交渉は成立した。

 なにやら、女子連中はぶーぶー言ってるようだが、知ったことではない。


「男同士の話に女が割って入るな!」


 水島が怒鳴る。


「そうだ!」


 俺も同意見だ。

 男同士、喧嘩で決める。一度やってみたかったことだ。


「よし、ちょうどこの近くに河原がある。喧嘩には、うってつけの場所だ」

「ほう水島、良い場所知ってるじゃないか。案内しろ」




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