2 ああ! 今朝のあいつ!

 少々計算は狂ったが、教室に入る前に城ケ崎と接触できたし、及第点といったところだろう。俺はあの後速やかに学校に向かい、今は教室前で担任に呼ばれるのを待っている。

 その担任というのが中々の美人で、系統で言えばクール系。色白。しかも若くて巨乳ときている。このクラスで良かったと心底思うわけである。俺の未来は明るい。

 少ししてドアが開いた。


「入って」


 担任に促され、俺はこれから自分の通う教室に勇んで入った。黒板の真ん中あたりの位置に教卓があり、その教卓の前で止まると左向け左で体の向きを変えて、教室全体を見渡した。

 俺は城ケ崎の姿を探した。あいつを見つけ次第、驚いて指さしてやらねば。

 皆一様に転校生である俺を興味深そうにじろじろと見ている。下やそっぽを向いている人は誰も居ない……って、ええッ! 


「ああっ! 今朝のリムジン!」


 俺は教室の中に、今朝俺を轢いたリムジンを見つけた!


「あ、あんたは今朝の轢かれた男!」


 リムジンはクラクションを鳴らした。


「へえ、二人は知り合いだったんだね」


 担任は教室にリムジンが停まっていることも、リムジンが喋っていることも当たり前かの様に、そこには全く触れず、平静を保ったまま話す。


「じゃあ、君、自己紹介して」


 担任女教師の非常に穏やかな声は、俺を冷静にさせた。クール系女性の美声は声までクールで、婆臭さやヒステリックな印象を全く感じさせなかった。きっと彼女は怒った時もクールなのだろうと思いを馳せる。ベッドではどうなのかなぐへへ。――っ! 彼氏居ないよね!?


「どうしたのかな?」


 無言でいる俺の顔を、女教師はのぞき込む。そういう迂闊な行為は少年の心を惑わすと、なぜ解らない!


「いえ、何でもありません」


 俺は努めて平静を装った。そして黒板に『永井一』と縦にデカデカと書いた。手についたチョークの粉を払い、教卓に両手をついて言い放った。


「よお初めまして、俺は永井一だ。見ての通りのハンサムボーイ。好きな食べ物は女の子の手料理。特技は馬場馬術」


 まあ、女の子の手料理なんて生まれてこの方食ったことがないのだがね。研究所の食堂のおばちゃんは女の子ではない。あれを女の子扱いしたら、おばちゃんとイチャイチャエッチでも良いってことになりかねないからな。


「ところで先生、俺、先生のことまだ何も知らないんですけど」


 名前すらまだ知らない。それに美人とはお近づきになる一手しかない。


「ああ、ごめん。忘れてたね。私は青木優子。担当は体育」


 優子先生は手で自分を指したが、手が巨乳の上に乗ってエッチだ……。いつかはそのエベレストを登頂したいものだ。

 いい機会だし聞いておくか。


「先生、彼氏は居るんですか」


 優子先生は呆れたようにため息をついた。


「いないけど、期待してもダメだよ」


 そんなこと言われると逆に期待してしまうが、俺は城ケ崎と付き合うことになっているからな。聞いておいてなんだが。俺は誰でも良いから彼女が欲しいが、浮気は絶対にしない覚悟だ。それはそれとして。 


「先生、スリーサイズは――」

「ばか」


 先生はこつんと俺の頭を軽く小突いた。


「さあ、冗談はこれくらいにして席について。席はリム子ちゃんの隣ね」

「すみません先生。リム子ちゃんって誰ですか?」

「ほら君から見て、一番右の列の一番後ろの席に居る子」


 優子先生の指さす方を見ると、そこにはあのリムジンが居た。あいつそんな名前なのか。安直だな。誰が付けたんだ。リムジンの親ってリムジンなのかな。それとも製造元なのかな。


「その左が空いてるでしょ。そこに座ってね」

「先生、城ケ崎さんの隣は駄目ですか」

「駄目です」


 仕方がなく先生の指示に従いリムジンの横の席に座る。


「一応よろしく」

「おう」


 リムジンがそっけない挨拶をしてきたので、俺も同じくそっけなく、向こうを見ずに返した。なんだか妙なことになってしまった。本来ならさっきは城ケ崎とぶつかり、今は城ケ崎の隣に座っているはずなのに。忘れ物したら、机くっつけて教科書見せてもらったり、落とした消しゴム拾ってもらったり、色々予定があったってのに。


 だがまだ学校生活は始まったばかりだ。暗雲立ち込めるは言い過ぎだ。まだ焦ったり心配する段階じゃない。俺は強化人間だ。今回の作戦、必ずうまくやってみせる。きっと城ケ崎と、放課後夕方の教室でイチャイチャラブラブ制服エッチしてみせるぜ。




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