第3話 気の所為とその先と

どうして あんなにもハッキリと

記憶に残っているのか

不思議で でもどこか不安で

家に帰ってからというもの

忘れることが出来ず 布団に入り

眠ってもあの光景だけが 夢にまで出てきたのだった



その日は不思議な夢を見た

あの光景を見たあと ただ白く 何も無い空間に

目の前には 自分が映っていた


驚いたのは目の前にいたのが自分だ ということだった

思わず話しかけてしまった


『ここは…?どこだ? 君は誰だ?』


目の前にいる自分は 表情一つ変えずに

口を開く そしてこう言った

『初めまして川森かわもり 三鶴みつる君

ここは私の夢の中 そして私は………

いや、やめておこう 私が誰であるかなんて

今はまだ 関係ないからね。』



『…えっ? 』


一番気になるところをはぐらかされた

胸にモヤモヤした感じがする

なぜ彼は名前を言わないのか

ま・だ・関係ないと言ったのは何故か

なぜこの場所が生まれ なぜここに彼と僕がいるのか

そして彼は一体なぜ僕と同じ見た目をしているのか


気になって考え込んでいた


しかしいくら考えても答えは出なかった


むしろ考えれば考えるほど答えから

遠くなっていくような気さえした


『どうして私と三鶴君…はここにいるのかだけど

気になるかい?』


不意に声がかかった


『うおっ…!うん…

気になるかな…あ、あと三鶴でいいよ。』


考え込んでいる時に

いきなり話しかけられビックリしてしまった


『あぁ、ごめん考え事をしてる時に

急に話しかけて。』


『いや、大丈夫だよ 少し驚いたけど

それで 君はなんて呼べばいいの?』


『呼び方かぁ…んー 別に君でもいいし

お前でも そこの でもあなた でも

なんでもいいかな。』


『なんでもいいって…そんな事言われても

どれを使おうか……偽名でもいいから名前が…』


『あはははは!偽名って… そんなことを言われるとは思いもしなかったな はははは!』


どうやら何かがツボにハマったらしく

お腹を抱えて笑いだした


え、そんなに笑うことなのかな

夢の中だしいいかな と思ったのだけど


そこからしばらく彼は笑い続けていた

どのくらい時間が経ったのかも

分からないけど そんなに長くはなかった気がした


『じゃあ偽名を使わせてもらうよ

考えるのに時間をもらうね。』


『あ、うん じっくり考えてもいいし

パッと浮かんだのでもいいよ。』


『ありがとう、 えーと、んーと、うーん、うーむ、

あー、んー、ふーむ。』


『え、何その独特な考えてる時に漏れる声は

そんなにたくさん使うの? というか

そんなに考えること?!』


まさか夢の中で偽名を使うのにこんなに考える

人がいるなんて 人間って面白いなぁ…


考えに考え悩み悩んで はや五分

唸り声こそ止まっていたが

顔をしかめて座り込んでまで考えていた


『まじか…そんなに考え込むことなのか…』

ある意味興味深いかな


さらに時間がたち 個人的には15分かな?

それくらいがたった頃

やっと口を開いた


『よし決めた、私の偽名は!

………………………………………………………

………………………………………………………

………………………………………………………』


自信げに言うのでつい 緊張してしまった


にしても長くない? 言うまで長くない?


『あ、名前だけでいいんだよね?』


『えぇ…このタイミングでのまさかの質問…』


まさかのすぎる質問に正直 色々な意味で

ずっこけそうになった 古いかなこれ…


『よし、気を取り直して いざ!

偽名は…………………………………………

伶(れい)!だ! 』


『お、おおー それじゃあよろしくね伶…君?』


『いやいや さすがに君付けは…

同い年だよこれでも

普通に伶でいいよ。』


『え、同い年…まじか… 大人っぽく見えた…』


『あははっ 今までそんなこと言われたことないよ

面白いこと言うんだね あはははははははっ! 』


どうやら またツボだったようだ

いやー 楽しんでもらえてよかったよかった


『あははははははははははははははははははははは

ははははははははははははははははははははははは

ははははははははははははははははははははははは

ははははははははははははははははははははははは

ははははははははははははははははははははははは

ははははははははははははははははははははははは

ははははははははははははははははははははははは

ははははははははははははははははっ!』


いやいや笑いすぎでしょ

そんなに面白いもの?なの?これ?


そう思っていたら

なにやら音が聞こえてきた


遠くから 少しずつ音が聞こえてきた


『え、この音なんの音?』

尋ねてみても伶は笑っていて

聞こえていないようだ


『ねぇってば、ちょっ…』


そういった次の瞬間 ドスン!と、いう音と

顔から お腹 ふくらはぎ その辺に少しの痛みを感じた

そこでプツンと意識が途切れた


次に意識が戻った時にはいつもの

自分の部屋の天井…ではなく 視界は真っ暗だった


顔を上げると どうやら自分はベットから落ち

床と熱烈なキスをしていることに気づく


… 床と………?


そしてそのまま見た夢のことを忘れていた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る