第2話 後輩と図書委員と

名前も思い出も話し方も覚えている

なのに 顔が思い出せない。


そんな事があって はや2日が経っていた

考えれば考えるほど

思い出そうとすればするほど

どんどん分からなくなっていき

そうして もしかしたら何もかも忘れてしまうのでは

と思い いつしか 止めてしまった、諦めてしまった


完全に 何もかも忘れてしまうのが怖かった

嫌だった 悲しかった 寂しかった


それ故に逃げてしまった。


「………情けない。」


そんな独り言を呟いてしまうほど

苦しかった。


そうして考えないように けれど忘れないように

日々を過ごしていた。


そんなある日の放課後

「先輩!先輩!三鶴せんぱーい!」


後ろから元気よく飛び込んでくる女の子がいた。


「今日もよろしくお願いしますね!」

そう言った


その女の子の名前は 倉巻 妃海(くらまき ひなみ)

肩の少し下まである髪を揺らしている

大人しめだけど声に元気のある

一つ下の後輩であった。


「うん、今日も短い時間だけどよろしくね

妃海ひなみちゃん」


「はい!私今日のこの日のこの時間を楽しみにして

過ごしていたので嬉しいです!」


三鶴が倉巻くらまき 妃海ひなみと出会ったのは

今年の春だった。


図書委員に入っていた2人は

週に一度の放課後の当番が偶然同じになり

ちょくちょく話しているうちに

打ち解け仲良くなったのだ。


「今日はどんな仕事でしょうか、

私 バリバリ働きますよ!」


「うん、頼もしいね 僕も見習わなきゃなぁ…」


そうしているうちに

あっという間にその日の作業が終わってしまった。


と、いうより ほとんど妃海が終わらせてしまった


ペースが早いというか効率的というか…

〇ズリー〇かな そうなのかな


将来が期待出来るような 心配なような……


「妃海ちゃん 早く終わったから整理室で

少しお茶でも飲んでく?」


とてもよく働いたのだ

これぐらい休んでもバチは当たらないだろう


そう思って声をかけた


「お茶ですか!?先輩と2人で?!

飲みます!飲みます!何杯でも

エンドレスに!」


とても嬉しそうに返事を貰った

そこまで喜ばれると 正直照れる

いやエンドレスはちょっと アレだけど。


そう言って 電気ケトルでお湯を沸かし

ティーパックでお茶を淹れた


僕はほうじ茶を 妃海ちゃんはルイボスティーを


オッシャレ~♪ などと考えつつ

お菓子をつまんだ


なんやかんやで 気がついたら1時間だべっていた

いやー 時間ってばあっという間に過ぎるなぁ…

やだなぁ…このまま気がついたら爺さんになって

死んでそうだなぁ……


「……輩!……先輩!………三鶴先輩!」


遠くからそう呼ばれた ような気がした




と思ったら すごく呼ばれた

どうやら 将来を流れるように考え込んでしまい

意識が飛んでいたようだ 危ない危ない

いつか 魂まで飛んでいきそうだ…



「あの… 先輩? 大丈夫ですか?」


「あぁ、ごめんごめん ちょっと将来の想像をしてたら

意識がどっかへ飛んでた。」


「先輩の将来……?私とのですか?そうですよね?

うふふふふふ もう~先輩ったらぁ~。」


そう言ってバシバシ方を叩いてきた


イヤ~ン そんなわけないじゃないですかぁ

もう妃海ちゃんたらぁ~ お茶目なんだからもぉ~


おっと、1人でに頭の中で気持ち悪い返答が

南無三南無三 消えよ きもい自分


「いや 気がついたら爺さんになって

死にそうだなって考えてただけだよ。」


まぁ嘘はつくよね あの場で

思ったことなんて言えないよね そうだよね


「何を言っているんですか先輩ったら

私がいるじゃないですかぁ~」



「あぁ…そうだね うん ありがとう。」


と、そんな会話をしているうちに さらに

30分が過ぎ 時間も時間なので帰ることにした


昇降口を出てドボドボと一人で歩いていた

妃海ちゃんはというと

バイトの時間らしく とても惜しそうに顔を歪めて

先に帰ってしまった


特に考えることも無くただ家に向かって歩いてるだけ

なのに 不思議と何かが起こるような気がした


どこからこんな気持ちが湧いてくるのか

根拠なんてどこにもない事なのに

起こると確信をしていた


そう思い もんから出てすぐにある横断歩道を渡り

前を見た時だった


目の前を1台の自転車が通って行った


乗っている人の顔も名前も学校も知らないのに

それなのに ただその人に目を奪われたのだ


「あ………」


口からは そんな声しか出なかった。

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