第1話 出会いがあったか。
「なあ
「何さ
「俺たちは学校が終わってから普通に帰ってたよな。」
「そうだね。」
「じゃあなんでこんな状況に陥っている。」
俺たちの周りには人の波。ほんと、漫画みたいな光景だな。
「えっと確か、帰ってる最中に女の子の叫び声が聞こえたから、助けに入って女の子にお礼をするからって言われて辿りついた先がここだったね。」
「そうだよ!明らかに演技臭い女の声に引き寄せられて勝手に割って入った洸太くん!俺まで巻き込みやがって…!考えなしにいっつもいっつも…!」
隣にいるこいつ。世間一般にイケメンの部類に入る
「へい兄ちゃんたちよぉ。お前たちにこの子が騙されて泣かされたって言ってるけどよぉ!?どう責任とってくれるんだぁ!?」
知るか。もうめんどい。ほんとめんどい。なんで俺まで巻き込まれるんだ。
「なあ洸太、俺帰って良い?」
「何言ってるの。なんか困ってるみたいだし話だけでも聞いてあげようよ。」
話が全く噛み合わねえ。びっくりだよ。ほら、なんかお相手さんもちょっと、俺ちゃんと話したよね?って感じで仲間に確認してるよ。大丈夫、あんたの話は通じてるよ。
「お前舐めてんのか!?お前に酷いことされたこの子の治療費出すまで帰さねぇからなぁ!?」
そうだそうだと周りの連中まで騒ぎ始める。
何が酷いことだよ。あんたのとなりの女、ニヤニヤ笑ってるじゃねえか。騙しやすい男が引っかかってラッキー、てか?見てたらムカついてきた。
「はあ。お兄さんたち、いたいけな男子高校生をはめて楽しいですか?他にやることないんですか?家帰ってゲームしたいんで帰って良いです?何なら隣のこいつを差し出すんで。」
「え?影児が帰るなら僕も帰るよ。」
「帰すわきゃねーだろーがよ!何なのお前ら。俺たちを舐めてんな……!おい!やっちまえ!」
周囲の男どもが鉄パイプ、メリケンサック、バット、こんにゃく、etcを持ってきて俺たちの方へ寄ってくる。寄るな寄るな。男に寄られても嬉かない。というか一人変なのいたよな!?
「それじゃあ洸太、あとよろしく。」
「ええ!?影児!?どこ行くの!」
「うるせえ。俺は腹も減ったしラーメン食って帰る。お前も早く帰れるようお祈りしてろ。」
「ちょ、ラーメン行くなら僕も行きたい……ってあぶな!?」
俺たちが会話をしている間に男一人に殴りかかられるが、それを躱しつつ会話を続ける。
「お前は来るな。また面倒な目に遭うに決まってる。」
「なんで!?たしかにいつも迷惑かけてるかもしれないけどご飯くらいいいじゃないか~」
「嫌だ。確実にこんな騒動の後のお前は、新しく女ひっかけてくるんだ。」
「確かによく女の子の友達はできるけど……それがなんだって……」
ちなみに今の会話、すべて周囲の男たちの攻撃をかわしながら行われている。とても厄介な洸太だが、腕は立つ。お互いの目線や周囲のガラス窓の反射から、攻撃してくるやつらの位置を先取りし躱す。とても遺憾ながら、長年の付き合いで洸太の戦い方は心得ている。動きを読むのはたやすい。しかも……
「なんだこいつら……!?当たらねえ!?」
「っおい!?いまてめえ俺にあてようとしやがったなぁ!?」
「んだとコラ!?てめえこそ俺の方に……」
と、集団で勝手に潰し合いを始めた。集団の練度が低いとこういうことが起こる。こいつらは普段一緒にいるわけじゃないみたいだな。即席の集団なんだろう。でも、なぜ?
「おいてめえら、何やってんだ!?」
「うるせえ!リーダーぶりやがって!今回は手ぇ組んだが、普段ならてめえらごとぶっ潰すところだぞ!」
普段なら……?どういうことだ?俺たちを狙ったのは何か理由が?
「おい洸太!行くぞ!仲間割れしてる今がチャンスだ!」
「りょーかい!ラーメンはやっぱり味噌だよね!」
「醤油一択だこの野郎!ねぎはたっぷり、チャーシューましまし!!」
思うところはあるが、逃げられるときは逃げるに限る。面倒ごとはごめんだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「何やってんのあんたら。」
そろそろ終わったかと思って来てみたら、ものの見事に同士討ち。
「あ、姉御!すみません、逃がしちまいまして……」
「そんなの見ればわかるわよ。あんたらが予想通りの奴らだったってこともね。」
ほんと、頭が悪い奴らは駒にもなりゃしない。
「けど
名前も知らない男を殴り飛ばす。私はこの名前が嫌いだ。まったく私に合っていない。名前で呼ぶのを許すのは私が認めたやつだけ。
「ウチのことは苗字で
自分でも声が一段低くなっているのがわかる。合わせて周りの奴らが一歩下がるが、その中の一人がまた話しかけてくる。
「……根来の姉貴、なんだってあの男たちを狙うようなことを?」
「それを知る必要はない。報酬は払ってやる。あんたたちが役に立たないことは分かったしもう好きにしな。ほれ。」
言葉と同時に封筒を何個か投げる。中身は金。これでこいつらも散るだろう。
現にリーダーっぽい奴らがそれを広い、それをまとまりに散っていく。ウチをどうこうしようなんて奴はいない……
「ふざけやがって……金が手に入るからって舐められたままで……」
と思っていたけどさっき私がぶっ飛ばした男が立ち上がってきた。
「いられるかぁぁぁぁぁ!!!」
先ほどは素手で殴りかかってきたその男は近場に落ちていたのか、今度は鉄パイプ片手に殴りかかってくる。
「はあ。実力の差を見切れない奴は、生き残っていけないよ。」
懐から『ソレ』を取り出し、撃つ。
「う、がぁぁぁぁぁ!?」
「痛いだろうね。まあゴム弾とはいえ、銃だし当たり前か。」
当たったのは右腕。残り3本。
「さて、私に向かってきた勇気は褒めてあげたいが……いかんせん相手が悪かったね。おとなしく金だけもらって帰ればよかったのに。」
「な、なんなんだお前……!なんなんだよ!」
「根来って聞いたことないのか?この辺じゃ有名なんだけど。最近来たばかりか。」
周囲にはすでに人気はない。この目の前の男と話(しつけ)ができる。
「それなら知っておくんだね。この近辺ではこの私……
「なんだそりゃ……!」
そうして銃弾を3発。打ち込んでこの男の話(しつけ)は終了。
「……室山影児は巻き添えで悪いけど、信条洸太……!!お前だけは、許さないからな……!」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「っていうわけでその変な集団から逃げてきたわけ。あ、おっちゃん、ギョーザもよろしく。」
「へいよー!影児、洸太、お前等も災難だなあ。いつものことっちゃあいつものことだが。」
「ほんとだぜ。洸太はいつもトラブルを持ち込むからな。」
「そんな毎日トラブル起こしてないでしょ。」
僕たちは今、とあるラーメン屋にいる。落ち着く時はいつもここだ。さっきの騒動から逃げ出してきて、追いかけてくる人たちもいなかったからそのまま話していたラーメン屋に来たってわけ。
「どうせ洸太の無意識で大ボケかましたんでしょ?はい、味噌ラーメンと醤油ラーメン。」
来た来た。味噌ラーメン。やっぱこれだよね。
「ありがとう
「お前来るたびその質問してるけどよ、おっちゃんが許す訳ねえだろ。燈が厨房に立つととんでもないことが起こるからな。」
「ちょ、影児!私だって成長してるのよ!」
「包丁もたせりゃまな板が吹っ飛んで鍋に火をかけていたと思ったらコンロに火をつけてない。湯きりをしたら麺が吹っ飛ぶのが直っていなきゃ成長なんて言わねえよ。」
「へーへー。どうせ私は料理下手ですよ。さっさと食べて帰んなよ。こっちも忙しいんだから。」
「……忙しい?」
しっし、と手を振りながら僕と影児に忙しいアピールをしてくるけど、お店の中には僕たちしかいない。閑古鳥が鳴いているよ。
「はっはっは。何言ってるんだ燈。お前の目は節穴か?俺の目には俺たち以外には客は見えないんだが。」
「そうだよ燈。僕ら以外にはお客さんなんていないじゃないか。」
「いるじゃない。ほら。」
燈が指さした先を見る。カウンターの隅。影児と僕はその先を見るが、人は見当たらない。
「えっと燈?やっぱりいないけど……」
「おい、やべえよ洸太。ついに燈のやつ、この世非ざるものが見えるように……?」
「あんたたち、いい加減気づきなさいよ。机の上にお冷おいてあるでしょ。さっきお手洗い入ったお客さんがいるのよ。わかったら早く食べちゃって。」
あ。確かにお冷が置いてある。それによく見ると鞄もある。気づかなかったなぁ。
「へいへい。わかってたよそんなこと。どうせ洸太は気づいてなかっただろうが。」
「え?影児気づいてたの?」
「ちぃっと見れば鞄も置いてあるしわかってたよ。燈をからかってただけだ。」
「影児、あんた料金倍ね。」
「なんだと!?」
二人が言い争いをしている間におじさんが笑いながら餃子を運んでくれた。伸びないうちに食べちゃおう。
「おいてめ洸太。何一人我関せずで先に食べ始めてんだ。今日はお前のおごりだからな。」
「ちょ、ま!?聞いてないよ影児!」
「当たり前だ。今言ったからな。と言うか、さっきお前が見知らぬ女にほいほいついていかなきゃああはならなかったんだ。迷惑料だ迷惑料。」
「私としてはちゃんと払ってくれるならどっちでもいいわ。はい、注文票。」
「えっと、味噌ラーメン750円、餃子250円、醤油ラーメン1500円。……ほんとに2倍じゃん!!」
「いやあ、おごりで食べる飯はうまいなぁ!!」
金額に驚いてると影児はどんどんラーメンをすすり、餃子まで平らげてしまった。食べるの早いよ。僕まだ全然食べてないのに。
「じゃあ、俺帰るから。」
「待って待って!おごるのは100歩譲っていいから!せめて僕が食べ終わるまで待ってて!」
「何騒いでるんだ洸太。お店の迷惑になるだろ。待っててやるから早く食え。」
「……はい。食べます。」
言い返したかったけど確かに影児の言う通りだったのでおとなしくラーメンのスープをすする。迷惑かけたのは確かだし。
「すみません、注文いいですか?」
「あ。はい。ちょっと待ってください。」
おとなしく麺をすすっていると隣から声がした。僕たちのそばにいた燈が注文を取りに行く。いつの間にかお手洗いから人が戻ってきてたみたいだ。影児は暇なのか、スマホをいじってる。
ふと戻ってきていた人を見てみる。カウンター壁際のその男の人はスーツを着てて、なんかちょっと疲れたような顔している。そのせいなのか、注文を終えて暇を潰そうとしただろうその人はスマホをポケットから取り出すと同時に落としてしまい、そのスマホが僕たちの席の下に転がってきてしまった。
「あ……」
「ああいい洸太、俺が拾う。……どうぞ。ってこれ……?」
僕は箸を持っていてすぐ拾えず、代わりに影児が拾って男の人に渡そうとしたときに何か気づいたみたいな影児が零す。
「これ今人気のアプリゲームっすね。お兄さんもやってるんですか?」
「え?あ、ああ。そこそこね。」
「どこまで行ってます?俺ちょっと躓いてて……」
影児が初対面でここまで気さくに話すのは珍しいなぁ。いつもは警戒心すごいのに。相手の男の人も最初は戸惑ってたけど影児との話に夢中になっていくにつれて硬さも取れているみたいだ。いつも警戒心高いけど、仲良くなる時はすぐに仲良くなるのはすごいよね。
「……なるほど、そうすればよかったんすね。あざっす。今度一緒にギルド戦やりましょうよ。」
「そうだね。フレンド登録もしたし、時間が合えば誘うよ。僕は仕事があるから一緒にできるのは夜中になると思うけど。」
「大丈夫っす。結構夜も起きてるんで。あ、俺は室山影児って言います。」
「僕は
「おじさんって年じゃないんじゃ……」
つい影児たちの会話に口を挟んでしまった。少し驚いたような顔をした陽央さんだったけど、すぐに微笑んで僕にも話をしてくれる。
「僕が君たちと同じ高校生だったころは、29歳の男の人はおじさんに見えたからね。君たちにもそう見えるかなと。」
「29歳!?もっと若いかと思ってたっす……」
「う、うん。大学生くらいかと思いました。」
「ははは!そういってくれるのはうれしいやらなんやら。」
すごいなぁ。落ち着いてて、周りに気を配ったり。僕も大人になったらこんな人になれるといいけど。
「おっと、もう時間か。ごめんね影児君、そして洸太君……だったかな?この後用事があるから、申し訳ないけど今日はこれをいただいたらお暇するよ。洸太君も伸びないうちに食べちゃいなね。」
指でちょんちょんと僕の目の前にある器を示す。たしかに伸びてから食べるのは美味しくない。
「あ、はい。ありがとうございます。」
「いやいや。ここのラーメン美味しいからね。もったいないことはしたくない。」
そう言ってラーメンをすすり始めた陽央さん。僕も食べちゃわないと。
「あ、影児。そう言えばさっきの人たち、僕たちのことを最初から知ってたみたいだけど何だったんだろうね。」
ふと先ほど僕たちを襲ってきた人たちのことを思い出して疑問に思ったことを影児に尋ねる。
「あ?お前珍しくそんなこと気づいたのか?お前ほんとに洸太か?」
「どういうことさ!……いや、だってあのお兄さんたち、全然連携とれてなかったし、多分即席のチームだったでしょ?それなら、そうしなきゃならない目的があったんじゃないかって思って。」
「おい、燈。今すぐ俺の頬をつねってくれ。洸太がこんなに鋭いわけがない。これは夢だ。」
「っせい!」
「あだ!?っておい!なんで盆で頭叩くんだ!」
「ちゃんと痛みが感じられるんなら、夢じゃないってわかるでしょ。その痛がり方ならちゃんと現実ね。私も驚いてたから確認できてよかったわ。」
考えを口にしたら影児と燈が僕を馬鹿にしながら漫才を始めだした。ひどい。
「というか影児。あんたのことだからそれぐらい気づいてたでしょ。心当たりあるんじゃないの?」
「気づいちゃいたが、なんか面倒そうだから今回はそんなに探らないでさっさと退散してきたんだよ。こういう荒事の大概は洸太のせいだけど、なんか今回はいつもと違うような気がしてな。」
「ほんとあんた達漫画みたいな生活送ってるのね。そのうち足元に魔法陣でも出てくるんじゃない?」
「その場合は十中八九、洸太が主役だろうから俺は洸太を犠牲に脱出してやる。」
「今は巻き込まれとかもあるし、影児も一緒に行くことが確定するわ。あきらめなさい。」
「そんなことありませーん!むしろそう言うのは幼馴染のお前も可能性あるからな!女主人公とかも流行ってるし燈も巻き込まれますー!」
こうなった影児と燈は僕が割って入るより放っておいた方が飛び火しないで済むから、最後のスープを飲み干し、僕は言う。
「ごちそうさまでした。」
「お、食い終わったな。それじゃあ帰るか。燈、お勘定。」
「はいはい。1750円ね。」
はいよ、っと影児は1000円札を出す。あれ?あんなに僕におごらせるつもりだったのに。
「お前も早く金出せ洸太。まさか、食い逃げするつもりじゃねえだろうな。」
「しないよそんなこと!って、さっき僕におごらせる気満々だったじゃん。」
「冗談に決まってるだろ。だからお前は洸太なんだ。」
「どういうことだよそれ!」
ほんと影児は勝手というか……!いつもふざけてるのに最後はきっちりして。まあだから頼りになるしいつも一緒にいてくれて助かるんだけどね。
「ちょっと洸太、早くしてよね。」
「ああ、ごめん燈。はい、お金。」
考え事をしていたら燈に催促されちゃった。僕の悪い癖だ。考え事をしていると手が止まっちゃう。
「はい、毎度ありがとうございます。ところであんた等、この後用事あるの?」
「ああ?今日はこれ以上面倒ごとはごめんだぜ。おとなしく帰るよ。」
影児が腕を頭の後ろに置きながら話す。確かに今日は疲れたし、僕も早めに帰りたい。
「僕も帰るよ。特に寄りたいところもないしね。」
「じゃあちょっと二人とも付き合いなさい。お店の買い出しに行かないといけないから。」
「俺たちの話聞いてたか?俺は帰るぞ。」
「ま、まあまあ影児。僕らやることもないし、おじさんにもお世話になってるし手伝ってあげようよ。」
「嫌だ。確実に面倒な事態になる。洸太だけ連れてけよ。俺は帰ってゲームするんだ。」
「そんなこと言っていいのかしら、影児。あんたこの前盛大にやらかした時にフォローしてあげた借り……忘れたとは言わせないわよ。」
「ぐ……!それを言われると……」
何やら影児が唸っている。どうやら僕の知らないところで影児は燈に何か借りができてたみたいだね。こういうときは燈が優位なんだよなぁ。
「……はあ。わかった。これでチャラだぞ?」
「もちろんよ。じゃあお父さんに話して準備してくるから、外で待ってて。」
「へいへい。洸太、行くぞー」
「あ、うん。」
燈はそのまま厨房の奥に、僕らは入口へ。ちらっとカウンターの方を見ていると陽央さんはまだラーメンをすすっていた。影児と僕が会釈して出ていくと、小さく手を振って送ってくれたので、やっぱりいい人なんだなと感じながら僕らは店を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます