お泊まり
第29話 腹の虫
早尾にぐっすり眠っていて欲しくて、部屋の電気は消していた。
当然部屋が真っ暗だと色々と不便だ。早尾が起き上がれば、尚更部屋を真っ暗にしている理由も見つからないから電気を付けることにした。
俺は真っ暗な部屋の中で、どこにスイッチ会ったけなーと手探りでスイッチを見失わないように慎重に壁に手を這わせる。
そのまま、早尾に声をかけた。
「もう完全に体調は大丈夫か?」
「ん、大丈夫大丈夫」
声をかける前、テーブルの上に置いてあったポカリスエットに手を伸ばしていたみたいで、答えながらペットボトルの蓋をクルクルと回転させる音が耳に届く。
俺はやっとでスイッチを見つけ、それをちょっとした力で押し込む。カチッと音が鳴ったと同時に、電球が何度かぱちぱちと瞬きをすると最後はしっかりと電気が安定してずっと部屋を明るく照らしてくれる。
「少し頭が痛いけど、これも夜寝れば大丈夫かな」
「そうか。今日は夜更かし禁止だな?」
「そうだね。しっかり寝るよ」
大丈夫そうなら、もうすぐおいとまするかと、リュックサックに借りる漫画やらを丁寧に仕舞い込み、そのまま帰る準備を進める。
「ん?タカナ氏もう帰るぽ?」
すっかり元の調子に戻った早尾は、声も低くなく普段通り甲高いものに変わっていた。
「ん?あぁ、これ以上遅くなると心配かけるし」
スマホを片手に確認してみると、「了解」と母親から来ており既読は2着いているので親父は多分無視しているのだろう。ちなみに俺は一人息子だ。少しは心配して欲しいなとか思いながら、「今帰ります」とメッセージを送ろうかと思ったが、心配もそこまでしていないみたいなので、スマホもカバンにしまい込んだ。
「親が許可出せばだけど、泊まっていけば?」
「は?泊まり?」
何ともないように早尾が言うのでオウム返しのように繰り返し泊まり?と聞いてしまった。え?泊まっていいの?俺も今から帰るの正直面倒くさいなァとか考えていたからめちゃくちゃ助かるな。どうしよう、お言葉に甘えようか。
「お母さんお父さんは?そこんとこ大丈夫?いきなりだし」
「あー、むしろ喜ぶと思うよ?友達がいるかどうかもわからない僕に友達が居るどころか、家に泊まって行くほどの仲だと知ったら」
親が喜ぶ姿を思い浮かべているのか、柔和な笑みとニヤッと口角の上がっているのが特徴的だった。
「なら、お言葉に甘えさせてもらうわ。ありがとな」
「うむ。よきにはからえ」
「いやそれは違うだろ」と突っ込みながらもう一度カバンからスマホを取り出し、「ごめん。早尾の家に泊まることになった」と連絡を入れると、すぐに既読が着いた。
「お、既読ついた」
「さぁ、どうかなー?」
「そうか、避妊しろよ。だってよ、勘違いしてるなこりゃ」
「流石にワロタですわ」
くっくっくっと不気味に笑う早尾を睨みつけ、俺はLINEグループに「早尾は男友達です。もう寝ますおやすみ」と送信して電源を切った。
「じゃあ、今日はお世話になります」
「じゃあ、今日はお世話になりました」
「ははっ、なんだそれ。もう気にすんなって言っただろーが」
「ブーメランだよ?それ」
なるほど、と思った刹那、ぐぅ〜と腹の音が鳴った。正真正銘、俺の腹から鳴るその音は、お腹を減らしていることの証拠だった。
「飯、食べようか」
「おう。ゴチになります」
よいしょと重たい腰をあげる男二人は、どこか弾んだ様子で一階まで降りた。
これからの飯のことを頭に浮かべると、ヨダレがジュるりと垂れ落ちそうになった。
腹の虫が、はよ飯と言わんばかりに大きいのが鳴った。
やべぇ、意識すれば最後、腹減りすぎてきつい……。
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