第26話 戦を制する者

 南が操作するキャラクターは朝使用していたのと同じらしく、くノ一が鮮やかに宙を舞っている。

 一方で三浦はといえばくノ一のライバル関係にある忍者(男)を使っていた。

 忍者はくノ一と違って投擲とうてき系はたくまみな術を利用して相手を惑わす戦法がセオリーのキャラクターだ。


 見る人全てが忍者だと答えるだろうくらいに見た目が忍者している忍者は、必死に投擲を投げつけてくノ一を警戒するが、くノ一は華麗に舞い続け、そして一気に間合いを攻める。

 午前の間で随分と手馴れてしまった南は相手が初心者の三浦さんでも容赦なく攻撃の手を辞めない。


「カリンどう!?勝てないでしょー?おらおらなんとかしてみなさいよ!」


 不敵に笑う南は、全く大人気がなく手加減など無用といった様子で攻め続ける。この女、鬼畜である。

 それでも三浦はと言えば、その挑発に乗ることはなく冷静に今自分に出来る技倆ぎりょうで一ダメージでも多く貰わないとガードを駆使して防ぐ。


 勝敗が着いていないが、それでもこれは素人目から見ても先が見える。

 それに三浦さんは全くの初心者であり、むしろコテンパンにされず、ギリギリ防いだりダメージを与えたりとよくやっている方だと思う。


 当然、決着は早々に着いた。

 最後までたち続けていたのはくノ一……ではなく、なんと忍者だった。


「負けた……だと!?」


「ふっ、最後油断したな?」


 最後に笑ったのは試合中一切表情を変えなかった三浦さんだった。


 このまま順調に行けば問題なく南は勝てていただろうが、なんとこのゲーム『乱闘オールスター』には一発逆転システムがあり、それを三浦さんは最後まで狙っていたというわけだった。


 一方的にダメージを受ければ負けまでの道は一本道だが、技ハメ──永久に技を貰い続け死ぬまで脱出が不可能──を防ぐための救済処置が用意されてあるのだ。


 ダメージをガードで蓄積し続けることで、我慢ゲージを突破すると一時的に発動できる奥義アクションで形勢を逆転できる仕様になっている。

 奥義アクションはキャラクターによって変わっており、この忍者のキャラクターはというと身代わりの術でカウンターで相手に大ダメージを与えるだけでなく自分の体力ゲージを少し回復する能力がある。


 どうやらこの三浦さん抜け目のない女だ。冷静に物事を対処し、何を企んでいるか最後まで分からない奴ほどあなどれない。


「悔しぃー!カリン!もっかい!」


「うん。さっきのでだいぶ慣れてきたし、いいよ?やろ」


 まだ二回戦しか戦っていないというのに、もう慣れてきたと言ったこの女に俺は恐怖した。


 嘘だろ?俺ですら1人のキャラクターのアクションに慣れるのに1日以上かかるというのに、三浦さんはそれをたった二戦で!?だと……。


 俺……、本当にゲーム下手なのかな…?

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