第21話 遅れてやってくるのは友達

「てか、メガネどうすんの?」


「んー、買い換えるしかないかな。これは」


「ふーん。そっか……」


 テーブルの上にはもう食べ終えた食器は店員によって下げられていた。

 代わりにテーブルの上に置いてあるのがグニャリと形を歪ませているメガネだった。


「お金、大丈夫なのか?」


「それは、まあ、うん。大丈夫だと思う」


「はぁ、お気に入りのメガネだったんだけどなぁ」


 早尾は名残惜しと言った感じでこのメガネを捨てることを決めたようだ。

 別段特徴もないそのシンプルなメガネは、前までのイジイジとしていた早尾の姿を思い出させてくれた。

 しかし最近の早尾はどうだろうか?多少過去の出来事に引っ張られることはあるが、それでも確実に前と比べてより前向きに自信を持って行動することができている気がする。

 それならメガネを別のデザインにするのは丁度いいのではないかと思った。


「なんか節目って感じがするし、新しい自分になるぞって意味でメガネのデザインにこだわってみるのはどうだ?」


「あー、それいい!前からそれ地味だと思ってたんだよねー」


 俺の意見に激しく同意を示す南。俺はどうだろうかと早尾に問うてみた。


「んー、そうだな。まあ、それもいいかもしれない」


 前向きに検討してくれたみたいで、おぉーと思わず声を上げた。


「へぇー、どんなのにすんの?グラサン?」


「いやそれは学校で付けられないだろ?」


「あぁー、たしかに」


 ケタケタと笑いながらずるるるーと音を立ててジュースを飲み干した。

 南には噛みグセでもあるのだろうか、コップの中のストローの飲み口には歯で何度もかみ潰した跡が残っていて、円形の筒状をしていたストローは見るも無惨に形を平たく変形させてしまっていた。


 俺のコップの氷がカラランと心地よい音を奏でる。


「早尾はどんなメガネが気になってるとか、あるのか?」


「んー、特にないけどなー」


 んー、と唸りながら再度考え込む。メガネを掛けていない早尾の顔は新鮮な気持ちで、それは南も同じだったのか、目をつぶって思案顔な早尾を見つめていた。


「んー、……ん?なに?皆僕の顔じっと見つめて」


 なになに?顔にゴミでもついてる?と顔を両手でぺたぺたとさせる。綺麗な八の字の困り眉が可愛いと思った。


「いや、なんもないぞ。な?南」


「うん。なんもないなんもない」


 少し微笑みながら何も無いと否定するものだから、余計に怪しまれてしまい、なになにと気になって仕方がないみたいだ。


 するとまたテーブルの横で人が止まるのを感じた。

 今度は誰だろうかと見上げてみれば、「あっ」と声が自然と出ていた。


「おっ、カリンやっと来た。遅くなーい?何してたん?」


「いや、ここ家から少し遠いから、あと迷った」


 南の横が空いているのでそこにストンと腰を下ろすと早速店員を呼ぶチャイムを鳴らした。


「あ、えーっと、高梨と早尾だよね?こんにちは」


「あ、どうも。高梨です」


「あ、はい。早尾です、こんにちは」


 律儀に挨拶をする人なんだなと、頭の中の三浦さんのイメージがガラリと変わった音がした。


「カリンあんたどーする?何頼む?」


「アカリ何食べたん?それにするわ。選ぶのめんどいし」


「えー、それでいいん?一杯あるぞ、メニュー」


 名前呼びでお互いを呼び合うその光景と仲睦まじい景色が展開されるのを目の前で見ていると、心が和むなぁと思った。


 メニュー見ろよ、めんどい見ないのやり取りが始まってしばらくすると店員が来て南が三浦さんの代わりに答えると、以上ですと言ったと同時に店員さんは調理室の方の奥へと入り込んでしまった。


 南……、俺も何か頼もうと思ってたんだけど。

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