遅いお昼ご飯
第18話 オタクとギャルと昼飯時
早尾の家は都市部から少し離れた住宅区にあり、住宅区なだけにそこら辺には住宅と公園、そして買い物に困らない距離感でスーパーやコンビニがある。ショッピングモールは電車で二駅行けばあるが、頻繁に行くことはまず無い。ちなみに駿の家から学校は3、40分もすれば着く距離だったはずだ。
住宅区とはいえ、流石にスーパーやコンビニだけではなく、ファミレスも所々に構えてあるので問題はない。しかし一つ問題を上げるとするならば、あまり数が無いので地元の知り合いや友人、先輩後輩、近所のおばさん等と色々な人と遭遇する可能性が非常に高いということだ。
当然、毎度毎度エンカウントするわけでもなく、危惧に終わることが茶飯事なのだが。最も、俺と早尾だけならばそこまで目立つことがないので知り合いがいた所で気付かれないことの方が多いのだが、それはそれで傷付く。
しかし、今日のように南
お昼を少し過ぎ、もうすぐお菓子の時間だ。当然昼飯のピークも過ぎた頃だろうしお店が一杯一杯で入れないなんてことはないだろうと思いながら、とうとう目的地に到着後した。
扉を開けると、店内で冷えた空気が外へと漏れだしその境界線に立っていた俺達はその外気と室内の差に思わず喜びの息を漏らす。
夏のような暑くて暑くて仕様がない時期に、涼しく快適なお店は好感が持てる。人はそこをオアシスと呼ぶ。
1階の駐車場はボチボチと言った感じで多分混んでないだろうと読んでいたが、その通りで店内は所々に人がいると言った感じだ。
皆、まだ外に出たくないのか、食べ終えたと思わしき人達も会計を済ませることはなくドリンクバーと席を行き来しているようだった。
俺達は窓際の四人席に3人で座ることにした。
南がテーブル向かいに座り、俺と早尾で並んで座る。早尾が太っていることもあって少し手狭に感じるが、その窮屈さを我慢してテーブルに立てかけられているメニューを広げる。
「あー、涼しい……マジ快適だわー」
「それな、ほんと外暑いわ、耐えられねぇ」
「ふぅー、暑かったでござるな。やっと一息付けるでござる。ふぅー」
相変わらず早尾は息を切らし、ふぅーふぅーと息を荒らげて一息?ついている。1人だと不審者認定された挙句通報までされそうな様子をしている。正直、暑苦しい。
「あー、私ドリンクバーと野菜盛りハンバーグ頼んどいて?ちょっとトイレ行くから」
そう伝言を残して、肩がけカバンを椅子に置いてそのままスマートフォンを片手に返事を聞く前にトイレの方まで歩いて行ってしまった。
「タカナ氏はどうするぽ?」
「んー、そうだな。俺は、このステーキとポテト揚げで」
「おー!奇遇〜。僕もだお」
相変わずおかしな語尾だなと思いながら外の景色を眺めていた。
見ているものは外の景色ではなく、先ほど早尾の部屋の本棚に立てかけられてあった写真たてに入っていた写真のことだった。
その写真に写っているものは別に不思議なものであったりおかしいものなんかでは断じてなかった。それでも何故か、気になるのだ。
あの写真に早尾と一緒に写っていた少女、腰まで伸びた長い黒髪と白いワンピースが似合うあの子は誰なのか。早尾の妹だろうか。だが早尾に妹が居るという話はこれまで聞いたことがなかった。もしかして幼なじみだろうか?
考えても考えても答えは見つからず、分からないことを幾ら考えても仕方ないと思い、早尾にいざ聞いてみようとした時だった。
いつの間にかベルを鳴らしていた早尾はこの席まで注文をうかがいに来た店員に、俺達の代わりに注文をスラスラと手馴れたように頼んでいく。
その姿は頼れる兄貴と言った感じで、これまでは一切そう感じたことなど1度もなかったが、一回意識してしまうとそうではないのだろうかと思い始めて、あの少女はだとすると妹なのか?とまた考え込んでしまう。
「タカナ氏?どうしたでござる?大丈夫なりか?」
「……あぁ、いや、なに?大丈夫だ。暑さでぼーっとしてた」
「そう?ならいいけど」
早尾は俺が大丈夫だと言ったからそれ以上に深堀や追求することもなくそこで話は終わった。
俺も、早尾に妹が居ようがいなかろうが特にあの少女と俺に関係はないだろうと踏ん切りをつけて、南もトイレから戻っまで来た様子だったので、交代ごうたいでドリンクバーでジュースをコップに好きな分量注いだ。
俺は無難にコーラが好きだ。
ジュースを遠慮することなくがぶがぶ飲んでいると、南がスマホを指先でシュッシュっと器用に動かき恐らくメールの返信をこなす。器用だなーと思いながら見ていると、それに気づいたのか俺の事をじっと見た後に、言うの忘れてた見ないな顔をしてから口を開いた。
「あ、この後三浦来るからよろ〜」
軽い調子で友達気ますと突然言われ、俺も早尾も思わず絶句。
別に男2人で女子1人だと、その女子がもう1人仲間を呼ぶのは不思議なことではないが、問題はそこではなく前にあった。部屋の中で少し気まずい空気が流れていたことを思い出し、そのことが原因だと男子二人は思ったのだ。申し訳ない気持ちと少し残念な気持ちになりながらも、生返事で返した。
「三浦さんって、どんな人ですか?」
「カリンー?んー、そだなー」
やけに間延びした話し方が耳に残った。
三浦さんの名前はそういえばカリンだったなと思い出しながら南に耳を傾ける。少し興味があったからだ。
「オシャレがとにかくヤバいってのと、足も綺麗で長い。なんかモデルやってるんじゃね?ってくらい凄いかなー?」
「南さんも凄く綺麗ですよ!」
「お、まじ?あざす」
三浦さんの特徴を聞いていると、そういえばあの時、と少し気になったことを思い出した。
俺と早尾で南の属するギャルグループまで行った時だった。三浦さんからやけにじーっと見られていたような気がしたのだ。
俺が三浦さんを見ると、今見たみたいな顔で逆に見つめ続けてくるもんだからこっちが返って恥ずかしくなって目を逸らしたくらいだった。
あれは何だったんだろうかと考えていると、横に人が立ったのがわかった。
もしかして店員さんが昼飯を持ってきてくれたのか、それとも三浦さんが先に来たのか、と思ってそのまま見上げる形で横に向いた時だった。
俺は誰だか知らない人がメンチ切ってるように睨みを聞かせ此方を──というよりかは、俺の横にいる早尾のことを睨んでいた。
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