第17話 腹の虫

 なんだか気まずくなってしまってから、すっかり皆黙ってしまい、無言でコントローラーを交互に回しながら皆で順番に格闘という名の乱闘を画面内で繰り返す。当然、相変わらずプレイするキャラクターが力尽きる間際の服装はもう服として機能を果たしておらず、ほぼ裸と言っても間違いではないだろう。


 南と早尾が無言で画面に向き合い、コントローラーをカチッカチッと扱うのを見ていると、なんの気なしに時計が気になりチラリと確認すると、短針が既に2と3の間に位置するのを理解する直前に、ぐぅ〜っと、無言でゲームをしている部屋ではよく響いた。

 ゲームのキャラクターの掛け声やBgmを前にしても負けない腹の虫の音を、聞かなかったフリを出来るほどに控えめな音ではなかった。


 俺も早尾も、その発生源が何処であるかは確認をしなくとも分かったので、その発生源の方を見てみれば、すっかりゲームのことなんて忘れてしまったように顔を俯いてしまっていた。

 顔は下を向いていてどのような表情をしているのか俺達には確認のしようはなかったが、耳どころか首まで真っ赤に染めてしまったその肌から彼女の心情は死ぬほどに伝わってきた。今の彼女の心中はきっと穏やかではなく吹き荒れており、それこそ死にたい一心かも知れない。


「あー、お腹空いたし、時間見れば二時越してるし……、遅いけど昼ご飯にしようか?」


「うっさい!!確認すんな!飯行こ!ほら早く!」


 早尾が気を利かしたつもりが、どうしても気づかなかったフリをして欲しかったらしく、顔を真っ赤にさせて急いで彼女はカバンを肩から斜めにかけて急いで部屋を出ていってしまった。

 バタン!、と力強く閉まった扉の奥からは階段で1階まで降りる音がドコドコドコと部屋まで聞こえてきた。腹の音が鳴ってしまったのが相当恥ずかしいかったのだろうことが家に響き渡る彼女の足音からうかがえた。

 ってか、ここ早尾の家なんだけどそんなに強引に扉閉めたら壊れるぞ……。


 俺も早尾も、ふっと静かに笑みをこぼしてからよっこいしょと重たい腰を持ち上げて、ゲームのカセットやらコントローラーやら部屋に広げていた色々を手際よく片付けていく。その際、俺が勝手に本棚から引き出していた漫画やらも丁寧に元の場所へと戻していく。

 その本棚に写真立てが飾られているのが視界に入った。スイカやらカブトムシやらが写真たての縁に飾り付けされている小学生っぽさを感じる写真たての中に入れられている写真の中にはまだ痩せていて小さい頃の、つまり随分昔の早尾の姿と、妹だろうか?麦わら帽子が良く似合いそうな、綺麗で長い黒髪と白いワンピースに身を包んだ少女がうつっていた。


 どこかで見たことがあるような気がするその少女を、誰だったかと頭の中の引き出しを開けている最中に、早尾から「南さんが下で待っているから早く行こう」と言われたので、気の所為だということにして大して気にすることも無く俺も早尾に続いて1階に続く階段を降りるのだった。


 降りた先の玄関の壁に掛けられている鏡で前髪をセットしていた南は俺たちの姿を見るなり、「来るのが遅い!」と怒られた。


 部屋片付け手伝ってくれたらもっと早く済んだんだけどと嫌味を言う気にならなかった。トップカーストの彼女の腹の音を聞けたので、この理不尽な説教でチャラにしようと心の中だけに閉まっておいた。

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