第7話 本の一コマに過ぎない青春の色
ようやく泣き止み、落ち着いたオタク君に念の為一声かける。
「落ち着いたか?」
「うん…」
幼児退行してしまったのか、大人しく返事をするオタク君。正直、気持ち悪い。
そして今日、朝から放課後までオタク君がずっと俺の横に居たのは記憶に難しくなかったが、代わりに南に誘いの返事をした姿は記憶にない。
「なぁ、朝は遅刻の件があったから言えなかったかもしれないが、返事はしたのか?」
「…はぁ?何訳の分からんことを仰るのか。今日はタカナ氏の横にずっと居ずわっておったでは無いか」
「まぁ、そうだな。てか、それ今日に限らずいつもだろーが」
「よかったのか?」
「良かったも何も…。遅刻の件が本当だったとして、その際タカナ氏が返事をした可能性が無きにしも非ず…」
「あー、なるどね」
何してんだよ隙見て返事しろやって思ったが、オタク君からすれば、俺と南が一緒に登校して来ているのは恐らく事実のことだろうと見越し、俺が誘いの返事をその時に返している可能性は十分にあったわけだ。
というか、南は南でその事忘れていると思うしな…。
「ハードル高いけどさ、明日…授業の合間か昼休みに言うよ!」
告白でもするかのように意気込む彼に思わず苦笑する。とは言っても彼からすれば、彼女に話し掛けるという行為そのものもが告白と同等のものなのかもしれない。
「あぁ、頑張れよ。応援、してるぜ」
フンスと鼻息を荒らげるオタク君に、落ち着いたら話そうかと考えていた話題を出すことにする。
「そう言えば、羨ましい羨ましいと言っているオタク君にいいお土産があるぞ」
「wktk!なんでござろう?」
さっきより数倍鼻息を荒らげる。鼻息がいきよいよく増した分、反動でオタク君の処理を行えていない鼻毛がフワフワとだらしなく揺れる。…処理しろよ。
「実はな、南のやつ。オタク系趣味わんちゃん嫌いじゃないかも知れないんだよ」
「マジっすかーーー!」
「お、おう。マジ──」
「ひゃっほーい!勝つる!勝つる!これは勝ったな風呂入ってくる!!」
「だからそれやめろ!恥ずかしいんだっての…、叫ぶな叫ぶな!」
フラグの様な物が聞こえたかもしれないが、いくらウチの学生が居ないとはいえ人自体は
ヒソヒソと話す様な主婦さんは居ないものの不審者を見るようなをして此方を見ている。
俺がどれだけ手で制しても、まさかの情報に彼のテンションはヒートアップで爆上げの
「オタク君、その癖止めないと南に真っ先に嫌われんぞマジで…」
ぼそっと言った言葉に、オタク君の肩が視界の隅で跳ねるのが映った。
恐る恐る此方を見て、震える唇から震えた声を上げる。
「ま、まじ?」
「まじ」
さっきの威勢はどこえやら。途端に落ち着きを取り戻したオタク君に生気が失われた。あ、肩が落ちた。本当に、喜怒哀楽が激しいやつだ。正直、飽きない。しかし鬱陶しいのもまた事実。
「正直、なとこだ。だがそんなのオタク君の心の持ちようですぐにでも変えれる」
バシャリと水溜まりを踏んでしまったことで自分の顔が歪む。生憎運動靴は濡れたものの、浸水は拒み、靴下は守られた。靴下濡れてぐじゅぐじゅ鳴るの、あれ嫌だよな。なんか不快感やばい。朝も踏んだな、水溜まり。
「まじ?」
「まじ」
先と打って変わって、目がキラキラと輝かしい程に眩い。
自分の落ち度に改善の処置があると分かれば堪らなく嬉しいのは分かるものだが。わかり易すぎる。
本当に、心の揺れが激しいやつだ。自分に素直なやつだなと
「よし。じゃあ覚悟して聞け。まず1つ、それは動作の一つ一つが暑苦しく邪魔くさいことだ。次に2つ目、心の揺れが激しいのは結構。しかし声が大きすぎる。もう少し周りに気を使ってだな──」
「…これ、いつまで続くのん?」
太陽は傾き、次第に空の色は濃い紅色に変わり行く。反対の色は薄い紺色が特徴的だ。
下校時間に響く2人の姿は、暖かい空気を
場違いな程に大声を上げていた時と違って、彼らの様子は、穏やかな一日のほんの数ページに過ぎないだろう。
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