第19話あっ、はい。
気がついたらそこに母親の姿はなく、沈黙だけが鎮座するばかり。
「………」
「………………………」
こうなると何を言っていいのやらわからん。
「あ、なんだっけ、なんか言ってたよね」
これでいいのか?こんなので、ドギマギしてるのが丸わかりじゃないか…気まずいなぁ。
「インターンも嘘…」
ええー、じゃあ何がホントなんすかええ?
「あの…ね。言いたいことがあっただけなの…一言。」
なんでさらにドギマギするようなこと言うかバッカチンボケコラー。
告白でもされるのか?俺は、なあ、なあなあ。
いや落ち着け?絶対その線は無い騙されてはいけない、流されてはいけない、場の空気にあてられて慌ててはいけない。きっとまた罰ゲームなり嘘なりドッキリなりなのだろう。
期待をしてはいけない、自分が傷つくから、相手が俺の不幸で楽しむから。
過去にあった記憶や経験は良いものより悪いものの方が随分と尾を引く。
嫌な記憶、鮮明に脳裏で再生されるトラウマ。
「あ、のね?そんな大したことじゃないかもだけど、ね?その、あ、ありがとう!」
「えっ?」
ありがとう?なんで?お礼?言われるようなことしたのか?いつ?どこで?俺が?
予想の真反対を付かれて脳がフリーズする。
「えっ、と。そのありがとうって…」
なにが?何に対して?なんで?
ふと言葉につまる素直に思ったことを言っていいのだろうか。この人はいい人なのかもしれない、この人は俺を騙さないのかもしれない。
淡い期待が胸に広がる。
トラウマがあったのに、似たようなシチュエーションで散々コケにされたのに。
信じていいのだろうか。まだ確実な関係は築けていない、対して仲良くなってはいない。
まだこの人が完全に分からない、なのにどうしてこうも簡単にこの人は大丈夫だと思いたい、そう思ってしまうのだろう。
「グループを、ね?一緒になったじゃない。その時私を見て変な顔も嫌な顔もしなかった、言わなかった。それが、その、嬉しくて…」
揺れる、これも後でより滑稽な俺を笑うための演技なのだろうか、わからない。
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