Ally-40:誰得なる★ARAI(あるいは、バックtoザ/ナインティーネリファーイ)
十月十一日、土曜。「第六十五回 久里浜北高等学校 久遠祭」は予定通り開催の運びとなった。
九時に講堂で校長の訓辞、のち十時から一般開放されるのだけれど、僕ら「1Q85団」は水曜にあったひと悶着からこっち、急激に寒さがやって来た中で夜風に当たっていたことにより風邪を発症してしまった僕が自宅待機を余儀なくされ、御大の渡米準備の手続き等がにわかに忙しくなって(全然やってなかったそうだ)、団全体で集まる事は出来ていなかった。ので、当日も当日の今朝、急いで最終準備をみんなでちゃかっとやってしまおうとの事になっていたのだった。
六時五十五分着という、普段よりだいぶ早い時間に京急久里浜の駅に降りると、改札出口とかには結構うちの高校のひとらしき集団がちらほら見受けられた。みんな追い込みで準備をやるんだろう、祭りの前の、得体の知れない高揚感みたいなのが学校に着く前から辺りを包んでいるようで、僕もなんかそわそわしてきた。徹夜明けで体全体が熱を持っていることもあって、何か興奮が下腹部あたりから突き上げて来るような……いや、そんな不審な感覚に囚われている場合じゃない。
―ジローくん、熱は? 当日までには絶対直さなきゃダメだよ?
三十八度のうかされた頭だったけど、はっきり覚えている……
三ツ輪さんとは、その後もメールとかでやり取りはたくさんした。初めて話した5月の時からはもう考えられないほどのことだったけど。でも僕らの話題は自然にアライくんの事になっていることが多くて。
つまりは、すぐそこまで来ている喪失感から目を逸らしたかっただけなのかも知れない。
いやいや、
「……」
リュックに差していた模造紙の「剣」を抜き放ち、天に掲げてみる。丁寧に執拗に巻かれたその紙の分量は四六判(1091mm×788mm)で十二枚……昨夜僕が寝ずに仕上げた「1985年のできごと」……その敢えての黒一色のマーカーにて、密度の濃い内容を写経が如く書き連ねた渾身の曼荼羅が今、僕のこの手に……フフフ、これを見たらみんな驚くぞ……
寝込んで迷惑かけてしまった分を取り戻せればいいな、とか思いつつ「剣」をふりふり、学校までのなだらかな坂道を意気揚々と、まだ若干痛みの残る左膝をかばいながら進む。
天気は秋晴れ。気温はようやく平年並みまで下がり、心地よく冷ややかな風が吹きつける。絶好の祭り日和だ。よぅしやるぞぅ、と腹に力を込めた、
刹那、オブジアース、だった……
「お、おぅげ、ジローやんげが。な、何ら
久しぶりに聞いたその
「お……」
思考も顔筋も声帯も全て活動を一瞬止める。植え込みの陰からおずおずと姿を現したのは、思てたんと
「……」
上下紺×紺のオーソドックスと言えなくもないセーラー服。スカーフも紺地に真っ白な線が幾重にも入ったこれまた地味な意匠のもの。しかしてハイソックスと革靴は真っ黒で統一され、膝上くらいの丈のスカートとの間でしっとりと艶めく褐色の絶対領域を強調しているかのように厳然たる比率でそこに在り……
その上には、その左頬の腫れもほとんど引いて、滑らかなサンバーン色の均整の取れた
ちょっと大脳の演算能力が追い付かなくなった僕は、何と言っていいか分からないままに立ち尽くすのだけれど。せっかくのハレの舞台じゃが、中学ん時のでキメてきたんよ……との言葉が僕の停止した時間の中を揺蕩ってくる……
かろうじてその髪型が、レイヤーのサイドが顔横でくるりと外側に巻いた往年の聖子ちゃんカットであったことが、全身を通しての昭和AV的背徳感を醸してくることで逆に差し水のように僕に平常をもたらしてくれたのだけれど。
しかしそれを差し引いてもこれは……ちょっと前までは普通に合わせられていた目線ですら覚束なくなっている……というか僕はとんだ節穴くんだったよ……
ろ、露店の奴らも準備しとるとこだがばい、試しで作っとるやろう、たご焼きだい、焼ぎぞばだいにありつけるやもしれっじ急ぐどば、との言葉に、ああ中身は変わってないのかな、とか思わされ、何ていうかよく分からないけど救われた感があってこちらも
刹那、アンダーザブルースカイ、だった……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます