Ally-39:収束なる★ARAI(あるいは、令和○○草紙/吹き抜けろ碧の閃コー)


「ジロー動画が撮っちゃれやがやぁッ!! こいらぁ何かてら立ち技がば齧っとら知らんざげ、素人女にシメ落とされちゃがるサマを三十秒くらいの面白動画に仕立てて爆散しちゃるがにぎよぉッ!!」


 いやぁ。もうオチかけてるような……がっつり入っちゃってるもん……とか思う間もなく、


「……」


 あっさりその細マッチョは膝を折り、白目で横倒しになっていく。オラァ、連れてけがばぁッと、周りで委縮していた仲間ツレたちに向けて言い放つと、最後、脇腹にふんとカラフルスニーカーの爪先をねじ入れてから、よたよたとこちらに向けて二三歩よろめいてきた。


「……」


 図らずも、お互い強制ウインク状態で向き合って開いた右目同士が合ってしまうのだけれど。何か分からないけど鼻から同時に息を吐きつつ苦笑し合ってしまった。この部屋前の廊下に落ちていた金色の「万博記念メダル」を制服スラックスのポケットから手渡す。と、あちゃばぁ、落としちょったんげなぁ、と、御大はまたおもねるようなへりくだるような微妙な照れ笑いをしてくるのだけれど。目印として落としてくれていたのだったら、僕らは頼られていたってことになる。僕も照れくさくなって、へっへという笑い声を重なり合わせてしまうのだけれど。


 そんな傍から見ると何とも言えない感じだろう輩たちに向けて、ちょっと二人とも大丈夫っ、との天上のラビオリが如くに、何といういたわりと友愛じゃが層状になった(どういう状態だろう)言葉をかけてくれたのは、先般どえらけねゃあ必殺技を放った水色の力天使デュナミスなのだけれど。そのままよいしょと言いながら机の天板から降りて来る。


「た、大したこつがば無かちょよ、ぁもジローも、ちぃとカスっただけじゃがげに、そ、そいよりもシアンのの、あんの御開帳パック○まん○がには、ど、度肝抜かれちゃっとがにあ、あっ、あっあっあっあ」


 腫れあがった頬が痛そうだけど、御大は最大限気張ってか、そんな弱々しいながらも可笑しくて堪らない、みたいな笑い声を上げるのだけれど。


「も、もうぅ、しょうがなかったんだし、あでも今日は見せてもいいやつ穿いて来てて良かったなぁってもうっ!! 言わせないでよぉ、え、えへ、え、えっえっえっ」


 三ツ輪さんの方も慣れてなさそうなノリツッコミをかますと、そんな風に張り合うかのように奇妙な笑い声を立てるのだけれど。


 強いな、ふたりとも。


 さりげなく横目で、三ツ輪さんのその顔を視界の端に何気なく入れてみたら。


 えっえっえっえ、と口で言いながら、その顔は見た事もないほど、ぐしゃぐしゃに歪められていて。


「……助かったがばい、流石は副団長がばるこつはあるじゃじ」


 アライくんが、その柔らかそうな焦げ茶色の髪ごと小さい頭を自分の胸元までぐいと引き寄せると、


 ふえええ、よかったよぉ……みたいに震える声を抑えながら泣き始めてしまったから。


 僕はその場にいるのも何だから、輩たちが去ってがらんとした部屋から廊下に出ていこうとする。と、


「……」


 何故か室内に戻ってきた猿人氏と髪人氏と鉢合わせてしまう。双方、先ほどまで集団とやり合っていた時の余裕そうな顔はどこへやら、何かに怯えるように委縮した感じだ。どうしたの? と思う間もなく、その後ろから現れた人物に思わず息を飲んでしまう。


「……」


 リコ御姉様おねいさまだった。その見目麗しい顔は蒼白で、険しい表情のまま固まっていたのだけど。まさかこれから元老院中枢との決着ラストバトルが……?


 では無かった。


 シアン大丈夫? アライくん……だよね、ごめんね本当にごめん……と、感情を抑えつけたような感じのままでそう室内を横切りつつ言葉を発すると、左手奥のこじんまりとしたドアに真っすぐに向かう御姉様。


「……!!」


 えええ、躊躇せずに蹴り開けたよ……まさかこの続きの間にいたのって……僕は慌ててその背中を追う。


「……」

「……」


 やっぱり。雑多な物置のような小部屋には、所在なさげに立ち尽くすアカネさんとアオイさんの姿があって。


「……何やってんの」


 御姉様の背中から冷たさをその狭い空間全部に伝導させんばかりの碧色のオーラが立ち昇っているのを、確かに僕は見た。


 いやちゃうねんてアイツら勝手に、とか言い訳をしようとした向かって左はアオイさんだろうか、その同じ見た目の流麗な顔のあたりで、


「!!」


 スパァン、といい音が鳴ったかと思ったら、御姉様の神速の平手ビンタが飛んでいたわけで。み、見えなかった……


「……言い訳トカ、そうイウ場ジャねんダヨ……」


 地の底から響いてくるかのような、聞く者すべての背筋をぞわつかせるような、煉獄の死宮殿バルハラが如くの(意味は分からないけどとにかく怖ろしい)声にも戦慄ではあったものの、顔が見る間に腫れてきたアオイさんはと言うと、相対している御姉様の形相(こちらからは見えないが見えなくてよかった)にさらにの恐怖を覚えているようで、静かにその場に崩れるようにして両膝を突くと、あ、ほんますんませんでした、と小声で言うのであった。そして、


「アカネも」


 御姉様が向きを変えてもう一人に促すけど、こちらは完全に不貞腐れてそっぽ向いた無言のままだ。でももう何か手馴れているのだろうか、その横顔に向けても迷いなく神速の一発が入る。しかし、


「……!!」


 怒りの形相を浮かばせたアカネさんが反撃の右を振りかぶってくる。けどそれを難なく自分の左腕でブロックすると、カウンターの平手ビンタがまたもその今度は逆側の頬を打ち鳴らしているのであった……それでも意地で無言のまま掴みかかってくるアカネさん……が、それをも軽くいなしてその華奢なる左腕を後ろに極め上げつつ壁に押し当てると、右腕も左手で抑えつけて拘束状態へスムースに移行させ、抵抗かなわなくなったその相手目掛けて、謝レ、謝レ、と感情の抜け落ちたイカれた機械音声じみた声と共に、上から振り下ろすようなチョッピング平手かべパンにて躊躇なく打擲を続けておる……や、やばぁぁあああいッ、


ジロ「も、ももももういいですってばッ!! もう充分反省の色は十全にッ!! この私の目には映っておりますぞぉっ」


リコ「……コイツは根性ババ色やサカイ……心の根ッコから屈服スルマデヤラントカンノヨ……」


シア「リコ姉ッ!? 落ち着いてって!! もうアカ姉限界だから!! 身体的にも精神的にも逃げ場を塞いじゃうのやめよう? 相手がね、どうともしようが無くなるから!! ね、ねえ届いてるの私の言の葉ッ? も、もぉぉやめたげてよぉぉぅ!!」


アラ「そ、そうじゃがば、もう目ぇば見開いて零れ落とさんように必死じゃし、唇のわななきも一向に止まって無かじゃし、気道がば震えんように不自然なほどの深呼吸を繰り返すばようになっちょるがでもうあかんがじッ!!」


 結局、


 むわぁぁああああああん、との低いサイレンのような唸り泣き声と共に、ごべんだざーい、との、やっぱり決壊してしまったアカネさんからの詫びの言葉が入って、ようやくことここに至るまでの事態は収束した(と思われる)わけで。


 その後の交渉によっても、我が団が「祭」で使用できる部屋は変わらなかったものの、半分ではなく三分の二まで使ってよいとなったけれど、あまり改善というほどのものは見られなかったものの。


 とにかく無事に「祭」を開けるということが大事だと、僕は今そう思っているわけで。一緒にいられる残りの日々を大切に、忘れられないものにするために。


 そして、当日の朝を迎えたわけで。

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