Ally-34:飽和なる★ARAI(あるいは、翼折れども/for ONEビジョン)
十月とは言え、残暑はまだねまるように厳しく。僕なんかはまだ半袖のワイシャツでも事足りる。というか未だむわり空気が体を包み込むように巻き付き漂うようで、汗っかきには当分肩身の狭い日々が続く……
「……」
そんな中、「第六十五回
クラス単位での
ただそんな自由味あふれるコンテンツが許されるようになったのは、五年前の「文化祭実行委員会」の功績に因るところが全てだとこの学校に通う人間なら誰もが知ってると思う。その「委員会」の面々も、はじめは面白おかしくやれればOKみたいな、リア充的思考のノリで何でもやってやれいでやってみたところ、思いのほかハマってしまい、その熱がさらに周りをも巻き込んで、非常に活気のあるものへと昇華された結果とのことらしい。そういうのって意外にバカにならない。どんなに計算して企画してもポシャる時はポシャるのがこういう水ものだから。その流れを汲んでさらに自由に本格的に、進化しているのがこの「久遠祭」。実際去年もおととしも地方局が取材に来ている。
だからこれはかなり誇れる「奇跡」なんだと、はじめてそれに内部の人間として関わることになる我ら一年にも、ここ一か月くらいは熱にうかされたかのような雰囲気が蔓延している。
が。
「あ、あんのくじ引き……不正があったとしか、お、思われちょんばるにあ」
御大がそう歯噛みをするのも無理はないと思う。放課後。本日より「祭」の準備は各自進めてよいとのお達しがあったので意気込んでいた我ら五人であるものの。
自主企画は使用できる資材や予算なんかはもう清々しいほどにゼロであるわけで、それはどこも同じで自腹を切って費用は用立てるのだけれど、「場所」だけは与えられる。そしてその割り振りは「厳正なる」くじにて決められた……との名目だったけれど、とは言え、いまアライくんと僕がその入り口で立ち尽くしたのは、旧棟の四階の西側奥の「
やられた感は拭えない。
「……アカ
僕らの後ろから小顔を覗き込ませてきた三ツ輪さんが軽いため息と一緒にそう言葉を漏らすけれど、何と言うか、無理に感情を抑えているような不自然さをもその天上のプラリネのような(甘ぁぁいッ)言葉の端々には感じ取れた。というかちょっと、そのなだらかな
出逢いから五か月弱。三ツ輪さんとの距離は、確実に縮まっているように僕は感じている。いや勘違いかも知れないけど。でもこの「1Q85祭」絡みの諸々で、結構たくさんの時間を過ごせた、共有できた。僕も割と自然に話すことが出来るようになっていたし。彼女の方も何でもないようなことを何でもないように話してくれるようになってる……も、もちろん友達としてなんだけれどね、それ以上はやっぱ踏み込めないよね……
そんな僕のどうともならない思いは置いといて。
あてがわれた、教室的には「前方」……五線譜が走る黒板と一段上がった壇にはピアノがでんと置かれ、音響設備もみっしりと並べてある。それらを使う予定の無い僕らにとってははっきり邪魔なだけだけど。うぅん、狙ったかのようないやらしさだ。教室前後はいつぞやの「地下店舗」で見たような簡易的なパーテーションで仕切られるのみ。後方は最終日の野外イベントで使う機材の置き場兼スタッフの休憩所になるらしい。
三ツ輪さんが懸念しているように、あの恐ろしい御姉様方の謀略……? もともと「元老院」っていうのは「文化祭実行委員会」から派生した組織だという。アライくんが正面切って「恐喝」してからこっち、何も音沙汰なく、表面上は何事も無く進んでいたから油断していたけど……
「あ、相手のいちばん嫌がるやり方で完膚なきまでに叩き伏せるが、姉貴らのやり方だぜ。ま、間違いねえ」
「フ……どうする団長……このままおめおめと引き下がるかい……?」
離れの倉庫から例の大型ブラウン管テレビが梱包された箱を、台車にて二人がかりで運んで来てくれた猿人氏と髪人氏が背後からそんな風な言葉を投げかけてくるけど。あんまりこの二人との距離感は変わらない……というか変えたくはないな……
「……」
とか思ってたらあれ? いつもなら御大の激昂荒ぶる
「お、おうげ、こんなくらぁ、
……なんか、無理あるような……聞き慣れない単語も無理さハンパないのだけれど、それプラス無理やり自分も「作って持ってって」いるような感じ……どうしちゃったの?
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