Ally-29:既出なる★ARAI(あるいは、DNCって/小粋なBABY知ってるかい?)


 場は何故か、戦場のような様態を呈してくるようであり……ッ!!


 暗き地の底にて、唐突にジョリーヌさんたる巨人族の末裔のような人から、「勝負」なるものを仕掛けられた僕らであったけれど、


 まったくもって何でか分からない……なぜ勝負をしなければならないかということも、なぜその勝負に負けたら僕の身柄を差し出さなければならないかということも……


 傍観者のようで実は当事者、というような、ありがちな推理小説ミステリの真犯人のような立ち位置の僕であるものの、かと言って何をすることも出来やしなさそう……


「お、おうおらぃッ!! なちょこっ? そん『でぷぎおうくりさんてぇも』ばたるもんごつはァッ!? わ、わか、分かるようとばに説明すんだじゃきぃっ!!」


 場を仕切るのはいつも、ブレない御大の斬り込み踏みだしなのであり。首から上がヤンキー、首から下はメイドというまだ普段の方が娑婆感があったことを再認識するに足る出で立ちながら、やはり積極的に何事にも乗っかるところは乗っかり、シメるべきところではシメてくる我らが心強き団長と言えなくもなかったけれど、僕をこの釜底に放り込んだ下手人でもあるわけで、当の僕はいつもながらの複雑な気持ちだ。それにしても珍妙奇天烈なその「勝負名」を一言一句違わないとは、そういう要らんとこにも長けているよね……


 そんな事を考えている場合じゃあない。


「ぬこっこっこっこっこぉ、ぃよくぞ聞いてくれたのわねぃ……今からやるところの『D★G★K』とは……ッ、『己のダメだったエピソードを猛る魂がままにさらけ吐き出し、世間の評価によって数値化されたそれを電流へと変換して、相手の菊一文字目掛け撃ち放ち合って雌雄を決する』という、極めて正統なるッ、魂の殴り合いなのであ~るッ!!」


 尋常じゃない見た目の人が、尋常を一ミリも感じさせないような言葉を大上段から振りかぶりざまにがんがす打ち降ろしてくるよ怖いよ……そして何と言うか固有名詞の略し方がどなたかに酷似しているよそれも怖いよ……


 しかして。狂気に満ちた説明の中でも最も引っかかったのはやはり「電流」の一語であり。今までは外面そとヅラだけがやばいのかと思っていたというか思いこもうとしていたのだけれど、内面もご多分に漏れず「狂」と「凶」の字がみっしりと隙間なく生えそしてそよいでいる……電流を撃ち放たれるって割と尋常じゃあない。


 刹那だった。


「フ……聞いたことがある」


 場に居合わせた面々誰もが、どう反応リアクトしていいのか、そもそも反応自体していいものなのか、今からでも遅くはないからまわれ右して脱兎的退却をかますべきなのか、諸々の判断が沈黙の中で絡み合い、何も結論を出せないまま(あのアライくんでさえも!!)硬直を続ける嫌な空気の中で口を開いたのは、初登場からこっち、添え物的に二ミリほどしか出番はなく、発した言葉にしても合計140字に収まるくらいの呟きツイートしかしてこなかったと思われる、尋常さではひけを取らない、毛根のベクトルが前面に集中するという、転写ミスなのか気の遠くなるほどの太古の昔にそれにより絶滅を免れた輝かしい功績が時を経て残念に隔世発現したのかそれは後世の研究に委ねられるだろう的なところの、髪人こと、黄郎キイローこと、安手の金色に染められたでろりとした髪がみっちりと顔面前に賑わっていて未だにその御尊顔をまともに見たいわけでは無いけど見たことは無い、本日はペラペラのメイド服を性懲りもなくその細身に纏った、三ツ輪 伊右衛朗イエロウ氏そのひとなのであった……


 し、知っちょほるのか黄郎キイロォーッ!? という、御大からの多分に芝居めいたしゃがれ声が掛かったことここに至り、なんか巧妙なやらせにも思えなくもなくなってきているけれど。いや、だとしても三ツ輪さんだけは……この混沌の場より無事救出エスコートしなければならない……ッ


「……自らの胸の奥底に潜み眠る、思い出すたびに胃から何かがせり上がってしまうかのような、夜中に布団の中で目が冴えてしまうかのような、そういったキッツいキッツい過去の体験記憶……『ダメエピソード』イコール『DEP』をッ!! 自ら撃ち放ち他者と共有することで、昇華させる、魂の浄化の儀式……それが『DEP戯王デプぎおう』と聞いたことがある……フフ、まさかこんなところで出会うとは……』


 髪人氏が……ここにきて初めて輝きを……鈍く発し始めている……


 んぬっふっふぅ~知ってんのがいるんだったら話は早いわねぇん、とのねばりつく言葉と共に、


「!!」


 巨人ジョリーヌさんが無駄に艶めかしく動き、仕切りパーテーションの一部を扉のように向こう側へと押し開く。そこには、


「……!!」


 壁に掛けられた巨大なモニター、そしてその前に置かれた長方形の簡素なテーブル。その長辺を間に挟んで短辺のそれぞれに、それとは対照的にゆったりと座り心地の良さそうなみっちりとした質感のひとりがけのソファが相対して設置されている。何だこれ……机の上には電気スタンドのような形だけどおそらく設置型スタンドマイクと思われるものが双方の椅子の前に置いてあり、そのさらに前には赤く円い、実物を見たことは無かったけど、クイズ番組とかで使用されそうな「早押し解答ボタン」のようなものが鎮座していたのだけれど。


「『撃ち放ち合って雌雄を』、とか言っちゃったけどぉん、今回は特別!! アンタらがた五人のうちのひとりでもが!! 『100人の評価者』たちから『75%以上』の評点を勝ち取れたのならぁ~ん? さっきのテレビを一万でお譲りしてやるっつー寸法よぉん。どよ? もぉ何かアドバンテージあげ過ぎぃぃぃ、やらない手は無い、わよのねぇん……?」


 分からーん、ところが大部分ではあるものの、自分の「スピーチ」を評価される、みたいなことだろうか……と、


「フ、無論……自分がいちばん先に挑戦する。そしてそれで終わらせる。それだけのこと……」


 か、髪人が格好いいことをのたまっている……てっきり三ツ輪さんの賑やかしとして登場し、そのまま退場フェードアウトするだけと思われた人畜無害の人材がここに来て……!! 何かを為そうとしているよ一体どういう磁場が働いたのだろう……


 ともかく。


 余裕の体で画面モニターに相対するようにソファに深く腰かけた黄郎氏。さらに余裕ぶってその有り余る前髪を右手指で下から梳いてからすっと肘掛けに置いたのだけれど、それを待っていたかのように、その右手首を固定せんばかりに、虚構フィクションでしかお目にかかることのない、座った者を拘束するための金属の「輪」がしゅばと現れがちりと嵌まっていくよさらにその両足首をも固定する輪が出て来るよどういう機構なのかさっぱり分からないけどやっぱりこれヤバみしか感じないよ……


 一気に鉄火場へと引きずり込まれた我らが一行だったけれど、今はイエロウ氏の、この得体の知れない「勝負」とやらを知ってる風な体と、その自信からくるのであろう余裕の態度に任せるしかない……


 どうなるッ?

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