Ally-14:空虚なる★ARAI(あるいは、降臨グ女神の/ジョルトカウンティター)
「熱く語られたところで、別にそっちにも決定権は無い。所詮そっちも『他人』だからな」
三ツ輪1さんのもっともな冷たい言葉が今度も水面に広がる波紋が如くに場に広がっていく。もうどうなってるのだか分からないほどに濃い時空間が展開しておる……いったい何がどうしてこうなってしまったのだらう……
「三ツ輪の。
しかしその正論っぽそうな言葉は一顧だにせず、アライくんは
「し~あ~ん~? あんまクソみたいなんと付き合うなぁ言うとったやろ~? けっったいな頭しとるで見てみい? こんなと歩いとったら、見てるこっちの方が恥ずかしなるわ」
三ツ輪2さんの遠慮なくわざとらしい悪意に満ちた言葉が、周りの取り巻きたちのこれ聞こえよがしの無理ある爆笑と共に、僕らに浴びせられるけど。
割と僕も、もう委縮はしていなかった。急速に頭の中は冷えて来ていた。そうだよ、例えアライくんの活動が意味不明であれ、三ツ輪さんが自分の意思でそれを選んだんだ。止める権利は誰にもないはず。それに神様の棒球をこれ以上見送るなんてことはしないぞぉぉぉぉぉぉおおおおお、次郎よここ一番の勇気を絞りひねくり出せぇぇぇぇ……
「ててて提案がありまぁすッ!!」
場の空気を打ち破る……それはアライくんのお家芸ではあったけど、その一派(なのだろうか)たる僕だって、たぶん出来るはずだ。……腹から、腹から声を出すんだッ!!
「却下」
しかして、いつの間にか場の中央……アライくんと正面で対峙するように、しなやかな立ち姿で腕を組み、こちらを斜に構えた氷の視線にて睥睨していた三ツ輪1さんが即座に斬り伏せるような言葉を発してくる。ぐう。やはり……僕では無理だぁ……
そんな、ちょっとどうともなりそうも無い場に……
「ちょっと待って
……女神は降臨した。
逡巡の様子の
「聞いてどうする。どの道こいつらの意見を汲むことなど無いから無駄だ。そうやって八方にいい顔するのも大概にしろ、
「アカネ」と呼ばれた三ツ輪1さんは、それでも動じない……それらまったく同じ顔が僕の目の前で境に鏡があるかのように向き合っている……それも超絶美麗な顔と顔が……でもアカネさんの方を注視していると、何か
「せやでー、いい子ちゃんぶってのその博愛っぷりもまあ、あざとい通り越して薄ら気持ち悪いゆう評判や。まま、さすが何とかっちゅう双子の出涸らしの方と付き合うとるヒトは、はっは、言うコトが違いますわなぁ……」
三ツ輪2さんもそんな感じでふらふらと
「ば、バカ、
そのアカネさんが、保っていた無表情から初めてそれを崩した……ッ!! 美しい顔が焦りと恐怖に少し彩られたように、僕には見えた。ど、どうしたというんだ……? 僕らはもう人畜無害な傍観者でいるしかないけど……
刹那、だった……
「え? なんて? え? 蒼衣え?」
始まりは、リコ御姉様(碧子さんというのか……)の、そんな微笑み混じりの聞き返しだった。でもよく分からないけど、僕の背筋には瞬間、冷たい電気のような、そのような何とも言い難い悪寒が走ったのだけれど。え?
リコ御姉様は、微笑だけど、どこか不自然な笑顔で固まったまま、これまた不自然なほどに右耳の後ろにぴんと指を伸ばした右手を当ててるという、わざとらしいほどの聞こえませんよポーズを取ってアオイさんの方へと一歩、また一歩と踏み込んでいっている……その歩様も、初期型ASIMOよりもぎこちなく人間らしさが感じられないという何とも言えない不気味さを醸しているよ怖いよ……
「あ、やあ……はは!! 何ちゅうか、ちゃうねんて。えぇうん……ま、まあ、話くらい聞いてもええかなーなんて思えてきたわぁ……な、な、朱音はん……?」
それに応対するアオイさんの人を喰ったような美麗な顔からも、今まで常に貼り付いていた余裕というものがどんどん剥がれ落ちてきているように見える……
「え? そんなこと聞いてないけど? え? それより『出涸らし』え?」
どんどんと三女神の顔と顔が接近しつつある……外観は同じ顔なれど、浮かんでいる表情は恐怖・焦燥のふたりと、もう一人は何と表現したら良いのだろう……笑顔なのだけれど目は笑っていなく、人間とロボットの間に横たわる「不気味の谷」をさらに深淵まで掘り進んだような根源的な恐怖を揺さぶる真顔を呈しているよマジで怖ろしいよ……
「え? え『出涸らし』、て、え? え『双子の』て、え? え、駿介くん? え駿介えくんのことえ?」
だんだんと「え」の数が増えて来るにつれ、辺りは今日いちの歯止めの効かなさそうなのっぴきならない瘴気のようなものに包まれていくような気がして、がちがち何かうるさいと思ったら自分の歯が打ち鳴らされる音だった。
先ほどまでのほんわか空気は消し飛び、辺りには声にならないどよめきのようなものが、下へ下へと堆積していくかのようであり。アオイさんの顔から血の気が引いて青い通り越して白みがかってきて、さらにあうあうと酸素を求めるかのようにその艶やかな唇も歪む。
当の僕は目の下あたりが両側とも引き攣れきっていて、心底怯えているのに逆に半笑いに見えるだろうおへちゃな顔を晒したまま、それでも何も言えず何も行動も出来ずに佇むばかりなのだけれど。
さらにの、途轍もない場が展開されたわけで……
「駿介くんノコトカ……? 駿介くんのコトカぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
リコ御姉様の、先ほどまでとは豹変したかのような、感情の無い、まるで1985年往時のロボット音声のような金切る声が響き渡ったかと思った瞬間、
「あ……ッ、が……ッ!!」
アオイさんの左腕は外側に捻り上げられ背後に回され、がっちりと極められていたのであった……ッ!!
「……何デ、駿介クンの悪口まデ言わレナイトいケナイ? 駿介くンがあなタ達に何かしタの……?」
美人の、表情のぞろ抜けた
やめろ碧子ッ、と、アカネさんがリコ御姉様に掴みかかろうとするけど。
「……!!」
それを全く意に介さずに軽くいなすと、空いていた右手で相手の右手首を造作もなく掴み上げ、またしても後ろ手に捻り極め上げてしまう。
「あナタたちが好き勝手やルから、私がいろいろなトこに謝らナイといけなインでしょ……なのニなに……? 誰が八方に
抑揚の無い声が、場にいる皆の精神をズタボロにしていく……そ、そこまで言うてへぇんっ、とのアオイさんの果敢なき言の葉は。
……確カに薄ら
うぅぅん、もうどうなんのこれぇ状態の僕だったけれど、そう言えばアライくんは……? またこのないがしろにされ感に、憤りを覚えているのでは……と不安になって確認しようと左方向を振り向いた。が。
「……」
……
アライくんが空虚な表情をすると、逆に人間味があるような顔になることに今日僕は気づいた……(だから?)。
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