Ally-12:円滑なる★ARAI(あるいは、超・即是/エグジドエグジス)


 混沌が混沌を呼ぶという、僕の中では最近、極めて自然な摂理的なこととさえ思えてきた事態が、この昼下がりの食堂内で渦を巻くようにして今まさに起こっている……


 何事かと、もう僕らの周りには人だかりすら出来ている状況なのだけれど、うぅぅん、ファミコンから端を発してここまでの火の手が回るなんて考えてもいなかったよ……


 僕とアライくんの目の前で揉めている三ツ輪三姉弟さんきょうだい……アライくんとつるみ出してからは、毎日が脱力係数の高い非日常感というか「1985年感」にどっぷり染められつつある僕だけれど、いま現在のこれは正気と狂気の分水嶺に片足爪先立ちでもしているかのような不安定さであり、どちらに転じるのか、いまだその答えを見せようとしていない……揺蕩っている……


 すなわち、我らが「1Q85団(初耳)」に、三ツ輪さんが加入し、三人でキャッキャウフフするだけのほんわか日常系に移行シフトするか、(答え①)


 惹かれ合った奇人変人が織りなす、世紀末に逆行するかのような甘味度ゼロの近未来サイバーパンクギャグコメディが紡がれる破滅の未来に叩き込まれるのか、(答え②)


 場は……未だ揺蕩っている……世界を、司る者は、まだ決めかねているとでも……言うのか……ッ(それとも何も考えてはいないのか……ッ)


 刹那、だった……


「ちょっと、何やってるのっ」


 渦巻く瘴気を散らし飛ばすかのように、天上のすめらぎのような(どういうものだろう)声が響き渡るのだけれど、あれ? 三ツ輪さんが他ふたりと押し合いながら未だ揉めている方とは逆側から聴こえてきたぞ? でもそれは三ツ輪さんの声みたいだったけど……誰?


「しーちゃん!!」


 続いて咎めるような声と共に人垣から現れたのはあれ? 三ツ輪さん……だった。あれれれ、おかしいですな。僕の視界の右側では確かに三ツ輪さんが他の劣等遺伝子たちを排除せんと押し出そうとしている。なのにその左側からも三ツ輪さん……? とうとう毎度毎度体重を掛けてくるかのように重くのしかかってくる諸々のストレスが、僕の脳をバグらせてきてしまったのだろうか……


「リコねえ……だってこの……」


 右の三ツ輪さんが、その声の主に振り返り、そう訴えるような言葉を発する。心なしかちょっと涙ぐんでいるように見えるけれど、その破壊力は言うまでもなく凄まじい。周りで、ぐわっ、とか、エヒィ、みたいな腐った声を上げながら萌死ほうししていく同志たちのくずおれる姿がちらほら確認できる……


「なんか騒ぎがとかって来たら身内ってもう……学校なんだから、それもこんなところで姉弟喧嘩なんかしないの。ほら、もう行って。あ……ごめんなさい? 妹たちが迷惑かけたみたいで……」


 と傍観者的立ち位置だった僕に、左の三ツ輪さんがいきなりそんな優しげなる声を掛けてきたのであった……!! よく見ると、右の三ツ輪さんよりも背は高く……出るとこはさらに出ている感じ……顔も少し大人びているような……さらに注視してみると、制服ブレザーの襟元には「Ⅲ」の徽章。すなわち、


 三年の先輩……もっと言うと三ツ輪さんの御姉様おねいさま……自分で思ってて、その甘美な響きに一瞬くら、となってしまうけれども。


 ……聞いたことがあるッ!!


 三ツ輪三姉弟の上に、「三ツ輪三姉妹さんしまい」が光臨するということをッ!!(なぜ忘れていたのだろう)


 そしてその「三姉妹」がッ、この学校を裏から牛耳る「元老院げんろういん」なる非公式の組織を作り上げているということもッ!!(それもつい忘れていた)


「あ、や……その僕らは、その……三ツ輪さんをですね、そのえと、僕らの活動にですね、ちょと勧誘というか、あー、ちょっとやってみてはどうですか、っていうような感じでお話しさせていただいてただけでして……」


 完全に気圧された体の僕は、そんなへりくだりまくりな言葉をしどろもどろで何とか返すのがやっとだったものの。が、その時、


「そーゆー活動は、うちらの許可を取ってからにして欲しいんやけどなぁ、地味ぃな小太りくん」


 さらにの衝撃が、僕らを襲ったわけで。


「……というか、どのみちウチのシアンはそんなワケの分からない活動? なんかには入れさせたりはしないけど」


 さらにさらにの衝撃。どよめく人垣がどこか畏怖を秘めつつ自然と割れていき、そこから静かな歩様で進み出て来たのは、


「……」

「……」


 先ほど霹靂が如く僕の脳内にその存在を結んだ、三ツ輪三姉妹の残りのお二方なのであった……


 「リコ姉」、と三ツ輪さんに呼ばれていた「お姉様」と、顔かたちは瓜みっつ。その制服の上からも分かるしなやかでさらに豊潤たる稜線を描くボディライン……三女神、三女神がこの場末の食堂に降臨したよ何だよこれ……


 しかし、その整った顔と顔に浮かんでいるのは、はっきりと僕を見下してきている表情だ。にやにや笑いともうひとつは無感情。僕が普段から接し慣れている顔貌ではある。


「ま、ま、ひとまず全部ぜぇんぶ無かったことにしといたるさかいに、とっとと去ねちゅうこった、小太りくん」


 エセい関西弁を操る方……向かっていちばん左の「三ツ輪さん」は、完全に僕を小馬鹿にしてきている。それにしても外見はほぼ同じなのに、受ける印象がこうまで違うなんて……でも僕はもうその連なることでさらに映えていくかのような美しさの連鎖に逆に委縮してしまうほどだよ……


 僕らの三ツ輪さんが何か言おうとしてくれるけど、「リコ姉」さんに制されているのが見てとれた……そしてすべてが……遠くに感じられていく……


 やっぱり、僕には訪れなかった……神様もここぞのところではぴしゃり抑えてくるよね……天界メジャークラスにはそれがあるから凄いよね……


 はあじゃあまあこれで……みたいに半笑いと真顔の中間みたいなへつらいかたで、僕はアライくんを促してこの盛りに盛られたかのような場を辞そうとするけれど。


 刹那、せつなせつなだった……


「ぼ、ぼんちりぬすがゴトば抜かんしゃざがでがぁッ!! 本人ほんメコが入っちゃりとぉ、言うとりおぅすが。おこらがこそ、すっこみんがるどっとちょあッ!!」


 完全に5速ハイトップに入った感じの胴間声が僕の背後から、場に押し付ける圧力のようなもの、その全てを跳ねのけるような感じで響き渡る……


 一抹の清々しさをも感じた僕であったけれど、振り返った先にはすんごい憤怒を顔面中に巡らせた般若と鬼瓦の交雑種ハイブリッドのような途轍もない顔があったわけで。


 ま……まずい!! アライくんは友人ぼくが小馬鹿にされたことよりも、自分がないがしろ気味にされていることを怒るタイプ!!


 ……アライくんは、円滑には物事を運ぼうとはしない。

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