入学編
セイントメシアの子供たち
エクジコウ率いるトンドルの月からの惑星ヘブン侵攻は食い止められた。しかし皇帝を失ったプラント帝国、首都を失ったリズ連邦共和国協同連合は崩壊した。その代わりに御蓮やアプルーエ国家群が隆盛した。
エースパイロットの多くを失い、村井幸太郎すら失った村井研究所は一時期勢力を落とした。
マキータ・テーリッツはトンドルの侵略を食い止めた英雄として祭り上げられた。この戦いの真実を知るものは多くはない。
エクジコウを倒しアームヘッドは当初の目的を遂げた。だが...アームヘッドは未だにこの星で隆盛を続けている。
人類同士の争いは終わる。奴らが目覚めたのだ。
マキータ・テーリッツと村井雪那の子供たちの物語...。
「セイントメシアの子供たち」
(ティガー・K・テーリッツ編)
新光皇暦2028年
僕が生まれた頃からアームヘッドは存在していた。だんだん、アームヘッドが当たり前の存在になっていく。かつておじいちゃんのセイントメシアが世界に名を轟かせたのも昔の話で、今ではもっと凄いアームヘッドがたくさんいる。トンドルの月の技術が入ってきたからね。父と母は今トンドルにいる。
トンドルとの和平を結ぶための視察だという。家には姉と両親が僕らを任せた帽子とマントのいつも寝ている男だけだ。僕は家にいても仕方がないと思い、外へ出てきている。今アームヘッドのコクピットの中だ。アームヘッドは今ではこの九姫市で一般に普及し、一般道を歩くことも申請があればできる。
マーニというアームヘッドは僕の設計だ。このお出かけはいわば定期テストのようなものだ。だが思いがけず戦闘テストもすることになってしまった。
◉
マーニを街の格納庫に駐機し、僕は目的地へとむかった。この皇京都、九姫市ではアームヘッド推進事業先端地域としてこのようなコイン格納庫が点在しアームヘッドの民間利用が進んでいる。九姫市には村井研究所も存在し、そのことがこの地域に強くアームヘッドが根付いている理由の一つとなっている。
格納庫は三十分300縁と高めなので急がねばならない。(縁とは御蓮の通貨である。円とほぼ同価値と思っていただきたい。なおプラントではプラント縁、リズではオル、アプルーエでは共通通貨のエイプなどが存在している。リズやプラントは崩壊したが崩壊後も通貨は同一である。)
目的地、伝説のカッフェレストラン。ジョニーのλ江だ。かつてエイワズが素人時代、ウエイトレスとして働いていたという。「ラッシャイ」店主が無愛想に出迎える。店主が席に案内する。「おや...」店主がこちらを見直す。「どうかしましたか?」「あんたあ、テーリッツさんのせがれかい?」
「父を知っているんですか」「あの人はエイワズちゃんと仲が良かった、よく奥さんをつれて仲間や敵と談笑しながらドーナツを食べてたんだ、あんたもドーナツかい」「いえ、ハンバーグをお願いします」衝撃の事実!父と今をときめくアイドルのエイワズちゃんが知り合いだったなんて!問い詰めねば!
ハンバーグが運ばれてくる。ハンバーグは家ではほとんど食べたことがない。父が嫌いだからだ。母が父と喧嘩したときは晩御飯がハンバーグになったっけ。「オッピョポッポオポ!」奇声!思考が中断される。「よく来るんですよ、暴アームヘッド族っていうんですかね」なるほど、店が寂れている理由か。
うーん、これから入り浸り。常連になろうとしてたけどなあ。あわよくばエイワズちゃんに会えるかもと思ったけど、考え直そう...。あいつらはスネークストロベリーの連中だ。上腕二頭筋に蛇とイチゴのタトゥー、伝説のイチゴ先輩を崇める新興のアームヘッド不良だ。ああいうのは皇京では珍しい。
アームヘッドが民間に浸透し始め、一部の不良はアームヘッドを所有し警察の頭痛の種となっているらしい。まあ無視すればいい。「おい!もやし野郎!」げ。心臓が高鳴る。「何ですか?」なんとか震えずに声が出せた。「パスタもうまいぞ!」あんがい気さくなのか?「あ…はい」さっさと食べて帰ろう。まさかこんな場所になっているとは。バタン!扉が開く。「チーッス」
「礼三郎先輩!」金色のリーゼントの不良だ!学ランのボタンは当然閉めていない!「うーん、お前ら元気か?」礼三郎と呼ばれた男が尋ねた。「オッピョポッポオポ!」なんだ、これ挨拶なのか。「よし!いい声だ!」逃げよう!ハンバーグをかっこむ。「うん、なんだ、あのもやし?」礼三郎先輩が僕に興味を持ってしまった!「新入りっす!」違う。「新入り、挨拶は」え。「…おぴょおぴょ?」「なんだあそれは?」礼三郎の圧に肝が冷える。
帰ろう。素早く席をたち、会計を済ませ、ドアへむかう。
扉を勢いよく開け飛び出すように逃げる!だが!目前に誰か!ぶつかる!...柔らかい!何度も聞いたあの声!「あらあら元気ね?」エイワズちゃん!え?「...ルーン・エイワズ?」僕は思わず声に出す。それにしても凄い!柔らかいなんて!彼女はアームヘッドだ、人間型ファントムだ。この柔らかさ、完全に人間と同じだ。
菊田武蔵博士は天才だ。村井研究所の戦闘技術偏重のアームヘッドととは訳が違うのだ。彼女のファンなのはそういった技術への憧憬であり、やましい理由は微塵もないのだ、ないです。「もう...帰っちゃうの?」エイワズちゃんの御手が僕の頬を触る。やましい気持ちはない。「そういえば忘れ物が」
「ふふっ、そうね」僕は席に戻る。「オッピョポッポオポ!」雑音も気にならない。え?エイワズちゃんが僕の席の前に?「あなた、アームヘッド設計士って聞いたわ」嬉しい。「ええ、ティガー…。ティガー・幸太郎・テーリッツっていいます」「ねえティガー...。今度私もメンテナンスして...」エイワズの頬が染まる。
「え?」耳を疑って思わず聞き返してしまった。「冗談よ…でも、あなたの技術には興味があるわね」「アームヘッドに興味がおありですか?」「プッ」エイワズちゃんが吹き出す。「それは、あなた。あなたに人間に興味があるのって聞くようなものよ。面白いわね」「すみません...」「いいわ...。ところで」「オッピョポッポオポ!」
奇声!「のろけてんじゃねーぞ!新入り!」違うっていってるでしょ。礼三郎先輩のハイキックが僕の頭を狙う。はやい!「ぐわ…。あれ?」キックが止まる。「邪魔してくれてんじゃねえわよ」エイワズちゃん、いやエイワズが礼三郎先輩を睨む。怖い...。エイワズは礼三郎先輩の足を掴んでいる!
ミシッミシッ。礼三郎先輩の足から異音!まずいぞ!人間型ファントムの握力はゴリラ並みと聞く!「止めて!」僕はエイワズの柔腕を掴み礼三郎先輩の足から引きはなそうとする。「何をするの?」エイワズが睨む!「折れちゃうよ!」「...だから?」「オッピョポッポオポ...」弱気な声!
先輩は自分に気合いをいれるが声も儚い。「止めて」「...、ゴメンね」エイワズは礼三郎先輩ではなく僕に謝った。「折れてはいないはずよ」礼三郎先輩に冷たくいい放った。帰るか...。
◉
マーニは手足の長いアームヘッドだ。セイントメシア系列の赤と白のブラッディカラーリングだがセイントメシアフォースと同様ダイナミックフェザーはオミットされている。主要武器のクアンタブルライトブレードダガーは研究所に置いてきてある。戦闘目的ではないからだ。それにアームヘッドの武器の携帯は違法だ。
それでもアームホーンはあるし、脚部のクロウは固定武装として許可されているので最低限の自衛は可能だ。もちろんそれが必要になるほどここの治安が悪いとは思いたくない。「コクピットには乗れないの?」エイワズだ。僕に着いてきた。正直彼女がちょっと怖くなったのだがさっきのは見間違えだと信じたい。
「これ完全に一人乗りなんですよ」マーニのコクピットはパイロットと一体化し覆う形式となっており、アウェイクニングバリアーとあわせてパイロットを守る。「ざんねーん、ツーリングがしたかったわ」本当かなぁ?「今度二人乗りの作って見ます!」「まあ、嬉しい!楽しみだわ!」僕に向けた輝くような笑顔が素敵...。
さっきのはやはり見間違えなのだ。こんな可愛いこが悪いはずがない。きっとびっくりしていただけだ。「今度私を観に来てね」手に暖かい感触...。コンサートのチケットだ。「オッピョッポッポー!」奇声!格納庫の入り口にアームヘッド!量産型の弥生系に見えるが大きく肥大化した手!「見つけたぞ!」礼三郎先輩だ!
「エイワズちゃん、逃げて」「ありがとう…。気を付けて」エイワズが裏口から逃げる!「あっお前待て!シガツツイタチ、女を追え!俺はコイツをとっちめる!」カスタム弥生がエイワズを追う!「どういうつもりですか?」「しね!この俺様のアームヘッド!レイザーブロウでな!」礼三郎のレイザーブロウ...。
礼三郎先輩のアームヘッド、レイザーブロウは弥生のカスタムタイプだ。ギザギザの不格好な大きな両拳が目を引く。御蓮は弥生を量産し過ぎた。どういうわけかこのようにアームヘッド不良の手に渡ったものもある。ここで戦うつもりだろうか。格納庫は露天で、簡素なハンガー以外は特になにもない。
しかしここは利用者の少ない駅の近くで建物も少ないとはいえ人もいるはず、他の人に被害が出たら警察も黙ってはいまい、いやもう出動しているかも知れない。手を出さなければまだ被害者だ。しかし被害は見過ごせない。「ここで戦うと危ないぞ!」危ないのはお前らの将来とかだ。「やれ」先輩が呟く。
四機の舎弟カスタム弥生がメタリック棒を投擲した。メタリック棒が赤いレーザー光学リング形成をし、警告!「今よりアームヘッドレスリングを開始します。お客様はリングより離れてご鑑賞ください」レスリングの横流し品!通称喧嘩棒だ!喧嘩棒はアームヘッド不良が喧嘩するときに用いられる!違法だ!
耳に不快な警告音!「まだお客様がいます!危険!危険!直ちに出てください!」駅前道路に杖の老人!必死に逃げる!だが、逃げられない!「やれ、オテアライ」先輩の無慈悲な言葉!「オッピョ!」舎弟カスタム弥生が老人に向かう!「止めろ!」僕は叫ぶ!舎弟カスタム弥生は老人に手を向けた!「ひえええええ」
「さあ、おじいさん、ここは危ないからこの手の上に乗ってください、一緒に外に出ましょう」老人がオテアライ(たぶん名前)の舎弟カスタム弥生の手のひらに乗る。「よし、はやくいけ」先輩が指示する。良かった、そこまでクズじゃないのか。「で、何を止めろって?」「いや…」「ボコボコにするのは止めん!」やっぱりクズだ...。
レイザーブロウと舎弟カスタム三機がマーニの前に立つ。「ピーピー、武器の使用は反則敗けです、直ちに武器の使用を止めてください!」喧嘩棒の警告!だがアームヘッドレスリングではないのだ!「五月蝿いあの棒の音声を切れ、侵入者警告のみonにしろよ」「オッピョ!」「さあやろうぜ」先輩が迫る!
真面目にやりあう必要はあるだろうか...。エイワズちゃんを追った奴とおじいさんを助けた奴も戻ってくれば不利!警察も来る...。逃げが良いのでは?レイザーブロウのパンチ!思考の隙を突かれた!それに不格好な大きさに似合わず速い!ハリボテのハッタリ仕様か!だが!意外にも重いパンチ!
マーニが吹っ飛ばされコクピットの僕にもフィードバック!「これが俺様の調和能力ビッグレッドよ!拳やふれた物を軽くする能力!」マーニが駅前スクラップ置き場に激突!「へい!もやし。起きているか?」先輩の挑発!「オッピョ!先輩はアームヘッドを極めしお方、不思議パワーも持っている!土下座して謝らないと怖いぞ!」舎弟の警告!
そのセリフに思わずカチンと来てしまった。この程度で?アームヘッドを極めた?ふざけるな!「僕はブラッディフェザーだ!」「はあん」マーニは起き上がらず、そのままビークルモードにモーフ移行する。このまま突撃だ!このふざけた野郎をぶちのめしてやる!「警告!リングに乱入者です!」喧嘩棒の警告!ピーポーパーポー!警察だ!
白黒のカラーリングにパトロールランプ、警察仕様の弥生トルーパーだ!警察がアームヘッド犯罪に対抗し、導入した正規品だ!三機。「はあん、ウザいぜ」レイザーブロウは投降する気配を見せない!「僕はこの人たちに急に襲われました!女の子も一人襲われています!」「坊や、下がってなさい!」弥生トルーパーが指示を出す。
よし、これで僕は無関係。公権力の安心感...。だがレイザーブロウが弥生トルーパーを一機破壊!素早い動きだ!「こうむしっこ...」さらに破壊!残りの一機の弥生トルーパーは二人のパイロットを回収し撤退!なんたるスピードとパワー...。「チビったか?」「いい加減にしろよ...」
レイザーブロウは思ったよりも強い!恐らく逃げても追い付かれる!ならば...戦うしかない!
◉
強敵レイザーブロウと対峙するマーニ。舎弟は様子を見ている。レイザーブロウが仕掛ける重力自在パンチだ。軽い動きと重い威力を両立。しかし!一度見ている!通常あり得ない動きだ!だがそれとわかればマーニならかわせる!マーニはセイントメシアの子供だ!「はあん?」先輩のいぶかしみ!外れた!
マーニがレイザーブロウの顔面にパンチ!威力はないが意趣返しだ!「お返しだ!」「はあああん」レイザーブロウがさらに連撃!バックステップ!射程外へ!そしてビークルモーフ変形移行、クロウキックをお見舞い!命中!レイザーブロウが吹っ飛び舎弟カスタム弥生にぶつかる!「オッピョーン!」礼三郎先輩の叫び!
「てめえ、...。やるぞお前ら」「オッピョ!」舎弟カスタム弥生が反応!袋叩きフォーメーションか?だが対多数はマーニの十八番だ!意外!舎弟カスタム弥生は攻撃には参加しない!「オッピョポッポッポ!」「オッピョポッポッポ!」「オッピョポッポッポ!」跳ねる舎弟カスタム弥生!鬱陶しい!
圧倒的鬱陶しさ。これが戦術か?確かにただ参戦するより鬱陶しい。「これがノイジーブロウよ!」得意げな先輩!「ふざけ...」「オッピョポッポッポ!」「オッピョポッポッポ!」「オッピョポッポッポ!」鬱陶しい!だが集中が乱れればレイザーブロウを見極めれない。ならば...。先輩迫る!
レイザーブロウを無視!ハエめいた舎弟カスタム弥生を潰す!「オッピョ!?」気付き...、狙われた舎弟カスタム弥生が跳ねてかわす!「!?」飛翔して追う!マーニに空中戦を挑むのは愚かだ!射程カスタム弥生の脚をもいだ!「オッピョーン!」舎弟カスタム弥生の首をつかみ、落下ダメージからは守ってやる!
「おのれい...。来い!」舎弟カスタム弥生の生き残り二機が集合...。「先輩はあれをやる気だ...」首つかまれ舎弟カスタム弥生パイロットの通信!レイザーブロウは舎弟と手を繋ぎ三機でジャンプ!体重を軽くしかなりの高さだ!「これがアームヘッド落下傘攻撃!必殺技よ!」舎弟落下傘!
舎弟カスタム弥生がレイザーブロウの手を離れると体重が戻る!セイントメシアも得意とした、上からの攻撃だ!しかも時間差で三機!一機目をいなす!「オッピョポッポッポ!」集中をみだしにくる!二機目!かわす!だがすぐ裏に先輩!「オッピョポッポッポ!これで終わりよ!」レイザーブロウの攻撃だ!
レイザーブロウは吹っ飛ばされた。「オピョ?」新手のアームヘッド!「喧嘩棒に反応はないぞ!」「坊やたちオイタはお仕舞いよ」「宝生さん!」アームヘッド、オーディンだ。レイザーブロウがオーディンに向かう。オーディンが消える!気づくと三機の不良アームヘッドは戦闘不能!「で、ティガー?」
怖いぞ!「僕は巻き込まれただけで...」「あなたも補導するわよ、ノリノリで戦闘したでしょ」「いえ...」「何が違うの?」怖い!「ええと...」「まあいいわ、若いうちはやんちゃでいいのよ」よかった...。「で?ここへなにしに来たの?」続く受難...。
セイントメシアの子供たち、終わり
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