第10話 12月3日

春、夏、秋、そして冬・・。


私がこの地に来てから数か月が経った。


そして今日、私は、織田 玲から大神 玲オオガミ アキラになる。



この日までの生活は、一言では言い表せない程ハードなものだった。


織田玲となった日から、礼儀作法、習い事の他、組員の人達と一緒に喧嘩も

覚えた。その辺の才能はあったのか、今では幹部の人達と互角に手合わせ

出来るまでになっていた。


高校は、龍生、兄の宗志、数馬と一緒の私立の高校に編入した。


勿論、お互いに素顔のままだ。


学校は、数馬といつも一緒にいるので妬みの視線は多いが、宗志の妹という

こともあり陰でコソコソ言う声はあっても、誰も表立っては言うものもいなく、

平穏に過ごしている。




この地に戻ってからの龍生は私を驚かせてばかりだった。


ボサボサ頭の地味男の正体は、目鼻立ちの整ったハーフのように彫の深い顔

キリっとした眉からは意志の強さが感じられ、長い睫毛にパッチリとした二重

漆黒の鋭い瞳は、全てのものを見透かすような力を感じる。


存在の薄い地味男は何処へやら、その場にいるだけで誰をも黙らす程のオーラ

を纏って存在していた。


『帝王』


それが、この地での龍生の呼び名だった。




私は、帝王の隣に並ぶ努力を惜しまなかった。




12月3日、今日、龍生は18歳になる。






織田宗志said



大神組の大広間には、大勢の黒スーツの男達が集まっていた。


大広間の上座には、羽織袴に身を包んだ龍生と白無垢に綿帽子を被った玲


2人はとても幸せそうだ。


そんな二人を見ながら、俺はあの日からの事を思いだしていた。




数か月前の寒い日、3年間の自由の身を満喫しているはずの俺の幼馴染で主の

龍生がいきなり戻って来た。


本家にて主要なメンツが揃うと龍生は口を開いた。


「俺の我儘でこの地を離れていたが、戻ってこようと思う。

 俺の唯一を見つけた、数日中に連れて来るつもりだ。

 俺にはまだ力が足りない、皆の力が必要だ。

 俺を助けてくれ、この通りだ頼みます。」


龍生は、頭を畳につけ下げていた。


俺は只々その姿を茫然と見つめていた。




この地を去るまでの龍生はかなりの俺様で、冷酷、無慈悲、そのくせ誰もが

振り向く容姿に群がる女は後を絶たなかった。

そんな女をホテルに連れ込むが、顔も見ずに事が済めば、組のものにくれて

やり、二度と自分に近づけなくさせるという鬼畜のような面も持っていた。

そんな龍生を周りは畏怖の念もこめ『帝王』と呼んでいた。


このまま荒れた生活が続くと思っていた時、龍生が組長に「3年間の自由」

を申し出た。


組長は何か思う所があったのか、すんなりと了承し、それからもうすぐ2年に

なろうかという時、何の前触れもなく龍生が戻ってきたのだった。



この2年に何がこうも龍生を変えたのか・・・。


間違っても人に頭を下げるような奴ではなかった。


龍生が現れてから3日、慌ただしく準備が進められていった。


次の日、現れた龍生の隣には『玲』がいた。



この女が龍生を変えた女・・・



玲は綺麗な女だった。


165㎝の身長にスラっと伸びた手足はモデルのようで、腰まで伸びたアッシュ

グレーの髪にグレーの瞳、長い睫毛に二重の切れ長の目。

透き通るような色白の肌に色づくぷっくりとした唇。


そして・・・


全てを捨てて、龍生と生きる覚悟・・・




それから玲は俺の妹になった。




この日までの数か月、正直逃げたくなることも多かったはずだが、泣き言

ひとつ言わずにあらゆる課題をクリアしていく姿に、一目惚れのような

淡い恋心は、死ぬまで護り抜くという兄としての俺の覚悟もを決めさせる

には十分なものだった。



「幸せになれ・・・」




織田宗志said end


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