第3話 美乃里

美乃里がガーディアンにやってきたのは、一か月程前になる。


私がいつものように、Barの2階で律、類、樹といるとバタバタと足音が聞こえ


響と朝陽、そして足を擦りむき、頬が腫れた女の子が入ってきた。


聞くと繁華街で男に絡まれていたのを、2人が助けたということだった。


女の子は、初めビクビクしていたが、女の私がいて少し落ち着いたようだった。


よく見ると、小さくてとっても可愛い子だった。



手当が終わると帰るという女の子を響が「送る」と声を掛けた。


私達は、響の行動に驚いた。


何故なら響をはじめ、幹部のメンバーは女に対して警戒心が強い。


寄ってくる女は多いが、自分から声を掛けるなんて見たことが無かった。


女の子と響が部屋を出ていくと類が「響にもようやく春がきたのか?」と


言いだすと、皆でニヤニヤしだした。



次の日、女の子がBarにお礼にとお菓子を持って訪れると響が隣に座るように

声をかけ、優しい目をしながら話していた。


その日も、響が送り、戻ってくると「付き合うことになった」と報告した


私も他の皆も、一緒になって喜んだ。


それから、毎日Barに女の子も来て、一緒に過ごすようになった。


明るく可愛い女の子は、幹部やメンバーの皆の大事なお姫様になった。


それが、美乃里。



だが・・・二週間程経ち、私がお手洗いに行くと美乃里がいた。


「玲ちゃん、お願いがあるんだけど・・・ここから、出て行ってくれない。」


「え、どういうこと?」


「ここには、女は私がいればいいと思うの。玲ちゃんって邪魔なの」


「・・・邪魔?」


「そう、邪魔。早く出ていってね。」


笑顔で言う彼女の言葉が信じられなかった。



でも、それはその日を境に毎日続くようになった。


私は、一人になりたくなくて、毎日Barに行き、美乃里が来ると帰ようにして、

当たり障りがないように過ごしていた。


私の居場所をなくしたくないと思っていた。





学校から帰り部屋に着くと着替えてガーディアンに行こうと外に出た。


「ねぇ、話があるの、ちょっといい?」美乃里だった。


頷き後をついていくと向かいの公園に入った。


「まだ、出ていかないの?ガーディアンに二人も姫はいらないのよ。」


「私は姫ではないし、あなたに関係ないと思うけど」


「あんたの存在がイヤなの!早く出て行かなければ後悔するわよ」


「もう、関係ないでしょ。いい加減にして!」


私は馬鹿馬鹿しくなり、公園を後にした。




美乃里が私の後姿を見ながら、ニイッと口角を上げていたとは気がつく

はずもなかった。



それから3日後


いつものようにガーディアンのBarの二階で寛いでいた。


バタバタと階段を上がる足音が聞こえた。


「大変です!美乃里さんが攫われました!」


「あ゛!!どういうことだ!」


「いきなり車が現れて!」


「樹、GPSは!」


「大丈夫だ!埠頭の方に向かっているな」


「お前ら、行くぞ!」


「「 あぁ!」」


バタバタと皆が出て行く。


私は、ただ皆が出て行くのを見守るしかなかった。



それから1時間程が過ぎただろうか・・・また、階下が騒がしくなった。


バタン!


扉が開き入ってきたのは、樹、類、律の3人だった。


「・・・美乃里ちゃんは?」


「危ないところだったが、取りあえずは無事だ。

 今は、響の部屋にいる。」


ハーフリムのメガネをクイっと上げながら樹が言った。


「俺達はこれから調べ物がある。玲は帰った方がいい」


「うん、分かった。取りあえず、美乃里ちゃんが無事で良かった。」


「あぁ、玲も気をつけて帰れよ」類が声をかける。


「うん、じゃあね。」



この会話の後、私の運命が変わることなど全く想像していなかった私は


ただただ、美乃里の無事にホッとしていたのだった。



次の日の学校は異様な空気が立ち込めていた。


私を見る目が、いつもより険しい。


私を見ては、コソコソと話す人も目についた。


時々、「姫が・・」「ガーディアン・・」などの声が聞こえる。



その原因が分かったのは、2時間目が終わった後だった。



「早坂さん、ちょっといい?」


いつも私に悪態をつく3年の先輩が教室にきた。


周りを囲まれ、開き教室に連れてこられた。


「何なんですか。」


「あんた、ガーディアンの姫を攫って襲わせようとしたんだって」


「はッ!何ですかそれ!」


「しらばっくれないで!あんたが姫を攫った連中と会っている動画が

 あるのよ!」


そう言って見せられた動画には、私そっくりの女の後ろ姿とガラの悪い

男が話している姿が映っていた。


「こんなの知らない!私じゃない!」


「ハッ!誰がどう見てもあんたじゃないの!汚い女!最低!」


罵声と共に、左頬に痛みを感じた。


それが合図かのように、蹴りや拳が続き、気がついた時には

空き教室に一人横たわっていた。



痛む身体を引きずりながら辿り着いたのは、いつもの図書室だった。


緑色の引き戸を開け椅子に座ると、低いハスキーボイス


「随分と派手にやられたね。」


「龍生も知ってるの?」


「動画のこと?」


「うん」


「上手く撮れてたね。」


「そうだね。でも、私じゃない。」


「あぁ、玲はそんな事する奴じゃないって分かってる。

 誰かに嵌められたのかもな」


え!?そんな私を嵌めるようなことをしてどうしたいの?


私にはそこまでする理由が分からなかった。



「こんな手の込んだ動画まで撮って、何がしたいのかな?」


「それは、そいつじゃないと分からない。

 でも、多分ガーディアン絡みだという事だけは確かだな。

 もし、何かあったら俺に言って。」


「助けてくれるの?」


「あぁ、必ず」



私の頭をポンポンと優しく撫でながら、目線を合わせて優しく微笑む龍生


らしくないと思いながらも、涙が頬を濡らす


「分かった・・・ありがとう。」




私は、そのまま気を失ったらしい、気がつくと保健室のベットで寝ていた。


龍生が運んでくれたのだろうか?


養護の先生がタクシーを呼び、その日はなんとか家に帰った。



結局、殴られたことにより熱が出てしまい3日寝込んでしまった。


やっと、ベットから起き出してスマホを見ると画面は真っ暗。


「ヤバイ!充電してなかった・・・」


スマホを充電器に繋ぎ、何か飲もうと冷蔵庫を開けるが何も無い。


「ハ~、コンビニ行くか。」


寝起きだが、お洒落する気力もなく、青あざの出来た顔をマスクで隠し

寝ぐせの頭は帽子で隠して外に出た。


アパートの階段を降りると、両腕をいきなり掴まれた。


「キャ!何!?」


「黙ってついて来い。」見ると朝陽と律だった。


終始無言のまま車に乗せられ、着いたのはガーディアンのBar。


いつものように2階に上がるが、周りの視線が突き刺さるような鋭さを

感じる。


部屋に入ると、ソファーに座らせられる。


「何で連れて来られたか分かるよな。」響の低い声


「分からない。」


「あ゛!なぁ、お前が美乃里を攫うように指示したのか?」


「そんな事してない!」


「美乃里を陰でイジメてたのか?」


「私はやってない!」


「なぁ、そんなに美乃里が羨ましかったのか?」


「別にそんな風に思ってない。」


「証拠があるんだぞ!それでも、しらばっくれるのかよ!」


「だって、私はやってないもの!」


「正直に言えば許そうかとも思ったが、無駄だったな。

 お前は追放だ!もう、俺達の前に顔も見せるな、クズが!」


「玲、見損なったよ。お前も他の女たちと一緒だな。」朝陽


「何で素直に認めないの!最低だよ!」類


「殴る前に早くいなくなってくれ!」律


「あなたは、もう少し利口だと思っていましたが、見損ないました」樹




「・・そう、私の事は信じないんだね。分かった。

 今まで居場所をくれてありがとう。・・さようなら。」




________私は大切な居場所を失った







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