916話 罪を歌う偽りの命

 立て続けに変事が起こったため、膠着こうちゃく状態となっている。

 どう対応すべきか、誰も先が読めず立ち尽くす。

 痛みを感じたとき、反射的に反応するだけ。

 そのような状態だ。


 俺としても、待ちの状態になる。

 予測して先手を打つのは不可能だ。


 思わず欠伸がでる。


 皆から、白い目で見られてしまった。

 隣で暇そうにしていたアーデルヘイトが笑いだす。


「旦那さまが欠伸なんて珍しいですね」


「暇ですから」


 アーデルヘイトは頰を赤くしてモジモジする。


「それならまだ明るいけどお……」


 キアラがわざとらしいせき払いをした。

 アーデルヘイトは急に真顔に戻る。


「な……なんでもありません」


 モルガンが珍しく、天を仰ぐ。


「この緊張感のなさは理解不能です。

ラヴェンナ卿。

先手を打たなくても宜しいので?

全員が硬直しているなら、主導権を握る好機かと思います」


 それも、ひとつの見識だろう。

 だが主導権に囚われると、主導権を取った瞬間息切れする。

 主導権を取るのは、勝つための手段でしかないのだ。


「握れるならね。

ところがなにが、どう連鎖するか読み切れません。

状況が変わってからでいいでしょう。

そもそも私が焦って動く必要はありますか?」


 モルガンは慇懃無礼に一礼する。

 キアラは最初の頃、この態度に憤然としていた。

 もう諦めたらしい。

 俺にとって態度はどうでもよかった。

 重要なのは役に立つかどうかだ。


「これは失礼。

たしかに慌てるのはラヴェンナ卿以外でしたな。

では誰が、最初に動くとお考えで?

旧ギルドは教皇によって壊滅寸前。

世界主義も各地の支部に、捜査の手が及び青息吐息。

進歩派も放送による暴露で頭脳だったノミコスが急死。

ひつと魔物は、いつもの馴れ合いを繰り返しています。

可能性としては聖ひつ関係ではないかと思いますが」


 あくまで常識的な予測だな。


「ひとつ忘れていますよ」


 モルガンは怪訝な顔で、眉をひそめる。


「それは一体?」


「クレシダ嬢です。

彼女は舞台で私と踊っているつもりです。

ところが演奏が止まってしまった。

大変不本意でしょうね」


「踊りを再開するために、なにか仕掛けると?」


 ほぼ確実に仕掛けてくる。

 どれだけの規模かは分からないが……。


「まあ……なにをしてくるかまでは分かりませんがね」


 モルガンは腕組みをして、厳しい顔をする。


「どうもクレシダの動機が理解出来ませんな」


「理屈や計算でクレシダ嬢を捉えようとしても、決して捕まえることは出来ません」


「つまり理性や計算の外で動くと?」


 完全に理性を無視しない。

 計算などと密接に絡んでくるが……。


「『面白そうだから』で動きますよ。

あとは『刺激的だから』とか。

まあ快楽の一種です」


「酔狂なこと極まれりですな」


 そもそもクレシダは、計算ずくで俺と対峙たいじしないだろう。

 特別扱いを望んでいるのだ。

 世界を舞台にして特別扱いを求めるなら、損得は後回しになる。


「損得が強い動機なら、ずっと楽ですよ。

快楽が最も強い動機だからこそ怖いのです。

だからこそ理解出来ない人は、クレシダ嬢を狂人だと思うでしょうね」


「ラヴェンナ卿は違う認識だと?」


 狂っているなら楽だ。

 相手は自滅するだけ。

 そうではない。

 極めて理性的に問題を引き起こす。

 それを材料に構ってアピールをしてくる。

 勘弁してほしいよ。


「正気過ぎて、狂っているように見えるだけだと思います。

理性を追求し続けて、快楽に行き着く……。

うまく説明は出来ませんが。

何事も行き過ぎれば、裏返ると思います。

公正を突き詰めると、不公正になるでしょう?

怠惰を極めると、勤勉になるわけです」


 モルガンは妙に感心した顔でうなずく。


「なんとも哲学的です。

ラヴェンナ卿はもし領主でなければ、思想家にでもなっていましたか?」


 そこまで情熱的ではない。

 なにせ、根が怠け者なのだ。


「他人に広めようとすら思いません。

ひとりで生きて、適当に野垂れ死んでいたかもしれませんよ。

まあ……違う現在を想定しても、詮無きことです」


「妄想に耽溺する暇はないと。

ラヴェンナ卿は後悔などとは無縁に見えますな。

立ち止まるより歩き続けるのでは?」


「後悔しても意味はありません。

悔いならいくつもありますが」


 まあ……この世界に生まれてきたことは後悔している。

 どうしてこうなったのだか。

 絶対口に出来ないが。


「また難しい言い回しですなぁ……」


「そうですかね。

悔いは過ちを反省することです。

次につなげる考えでしょう?

後悔はあとになってから、失敗だったと悔やむことですよ。

これは立ち止まる考えだと思います」


「なるほど。

立ち止まる暇があれば、前に進めと」


「言葉遊びですよ。

ルルーシュ殿も暇を持て余しているようですね」


 モルガンは真面目腐って一礼する。


「なかなか諫言することがありませんから。

困った主人です。

心底から諫言を求める主人には、諫めることがない。

諫言を拒否する主人になら、いくらでも諫めることがある。

世の中ままならないものですな。

ただ……無為に時間を浪費するのは、宜しくありません。

ひとつ私の知的好奇心を満たしていただきましょう。

ラヴェンナの統治についてお伺いしても?」


 モルガンにすれば、ラヴェンナ統治は謎だらけか。


「構いませんよ」


「調べたところ……。

ラヴェンナでは、職人や技術者の待遇が大変よい。

他所とは比べものにならないほどです。

普通は待遇を抑えることで、値段を下げるでしょう。

ところがラヴェンナでは、好待遇故の高価格です。

それでいて誰からも、不満の声はあがらない。

安かろう並であろうを望む者は多いと思います。

なにか秘訣ひけつでも?」


 そこが気になったのか。

 難しい話ではない。


「安かろうなら……悪かろうですね。

並を期待するのは、贅沢に過ぎるものです。

まあ……多くの人が陥る錯覚ですね。

それはいいでしょう。

秘訣ひけつというほど大袈裟なものではありません。

簡単な方法があるだけです」


 モルガンは怪訝な顔で眉をひそめる。


「ほう……。

簡単とは……聞き捨てならないお言葉ですな。

私は考えても……まったく思いつかなかったのです。

さど高度な仕組みで統治しているのだろうとしか」


「そんな高度な統治は不可能ですよ。

理由はひとつ。

税が安いからです」


 モルガンの目が点になる。

 予想外だったらしい。


「はて……税が安いことと、職人の好待遇に、どのような関係が?」


「税が安いとは、市民の使える金が増えます。

つまり高くても払える。

しかもラヴェンナでは、ひたすら貯金するより、適度に使ったほうが得ですからね。

臨時徴税などありません」


 モルガンは首をかしげる。

 無理もないか。

 この世界では、まだ経済成長に関する知見は浅い。

 如何に搾り取るかの技術においては、なかなかのものだが……。


「たしか物価を、緩やかにあげているとか?」


「そうです。

使える額を増やして使ったほうが得なら?

おのずと経済は回ります。

待遇がいいので、過度に個人のやり甲斐や義務感などに依存する必要はない。

なり手不足に陥ることはないでしょう?

そうなれば自然と競争が起こり、切磋琢磨せっさたくまします。

当然価格帯で質は分かれますが、全体の質は向上するでしょう。

使える額が多くて、値段に見合った質が保証されている。

それなら市民も支払うことに、文句はないでしょう?」


 モルガンはアゴに、手を当てて考え込む。


「ふむ……。

他所とは真逆の理屈ですな。

人件費を削って安くするのが常識です。

労働者には『君の仕事は世の中に必要なのだ』など、誠意ある言葉を報酬とするでしょう。

それで大体は我慢して働きますからね。

そもそもラヴェンナの景気がいいのも不可解です。

普通は塩など必需品を専売にして、収入を確保するものでしょう。

その資金で市場を整備し、発展させるのが常識です」


「誠意は言葉ではなくお金ですよ。

そもそも庶民の生活が困窮しては税どころではありません。

専売にしても、闇商人が跋扈するだけです。

その取り締まりに、どれだけ金を掛けるのですか?

民心を安定させたいなら、減税が確実ですよ。

税を取らないから、自分たちでやれることはやれ……が私の姿勢です」


「不要な介入を避けて、出費を減らすわけですか」


「そうです。

しかも税が安いとなれば、市民は人生を楽しむことが出来る。

なくても楽しめる人はいますが、あればより多くの人が楽しめるでしょう?

それは民心の安定につながり、治安がよくなる。

安全が保証されることは、経済活動を活発にする必須要因です。

つまり消費が活発になるでしょう。

これには市民が税を強く意識しない程度に、広く浅く取ることが肝要でしてね。

そうなれば自然と税収は増えます。

余計なこともしないから支出も減るでしょう?

これが金と手間の掛からない簡単な統治方法ですよ」


 モルガンは今一納得出来ないようだ。

 個性はないが渋い顔をしている。


「言われてみればそうですがね。

かなり勇気の要ることだと思います。

重税を課して困窮しているところに回すのが、普通の発想ですなぁ……。

なにが起こるか分からない。

だからこそ税という手札を多く揃えるでしょう?」


「それこそ無駄ですよ。

集めることと……分配先を探すこと。

さらには配る。

どれも金と労力が掛かります。

この統治機構を維持するのに……どれだけの金が必要になりますか?

まったく以て無駄だらけですよ。

私が市民なら『多く搾り取って配るくらいなら……最初から税を安くしてくれ』と思いますよ。

あとは自分で勝手にやるとね」


 モルガンは破顔大笑する。

 この男の琴線に響いたらしい。

 なにが響いたのかは分からないが……。


「そのような言葉を、統治者の口から聞くのははじめてです。

たしかに簡単な理屈ですが、実行は難しいでしょう。

なにせ重税は、統治者にとって力の象徴でもありますからな。

仮に税を軽くしても、成果がなければ非難は必至でしょう。

それなら手元に、多く集めて安心したいと思います」


「それは最も頭の悪い統治方法ですよ。

せいぜい支配欲を満足させる程度の効果しかありません。

それもごく一部の。

目的と手段を取り違えている馬鹿の発想です。

税は社会を円滑に回すための手段でしかありません。

賃金を払わずに、人を働かせたいとか……。

休ませずに働かせれば利益が増すなどと、同種の発想です。

想像力の欠如も甚だしい。

それで問題が解決するほど世の中単純ではありません。

子供からやり直せといいたくなりますね」


 なんだろう。

 無性に、腹が立ってきた。

 何故かは分からないが……。

 兎に角腹が立つ。


 モルガンは目を細める。


「私も大概ですが、ラヴェンナ卿は遙かに辛辣しんらつですな。

多くの統治者は馬鹿となりますか」


 俺は自分の頭を指さす。


「なんのために頭があるのですか。

重税に頼らず知恵を絞り、統治を安定させる。

そうでなければ、尊敬などされません。

社会的地位も向上しませんよ。

徴税人を尊敬する馬鹿などいないでしょう」


「なるほど。

統治しているなら、相応の能力を示せと」


「ただまあ……。

これはラヴェンナでしか出来ません。

他所では不可能ですよ。

習慣がないのと、流通の未成熟。

教育の不備など、いろいろな要素がありますからね。

なのでラヴェンナで安易な重税に頼る人は馬鹿だと思います。

他所は事情が異なりますよ」


「ラヴェンナ卿の言葉を理解出来る統治者が、どれだけいるのやら……。

理解出来ればなにかの指針にはなるでしょうに。

つまりラヴェンナにおいて増税は不可と」


 それは極端な考えだな。

 必要なときはある。

 安易な重税は愚策というだけだ。


「そうとも限りません。

将来経済規模が大きくなってからの話ですが……。

景気がよくなりすぎると、金が余ります。

そうすると使い道を求めて、価値の定まらないものに付加価値を付けて、売買をするでしょう。

絵や骨董こっとう品……ワインなんかでしょうか」


「お恥ずかしながら……私の理解が追いつきません。

何故金が余ると、価値の定まらないものに付加価値が付くのですか?」


「景気がいいとは、皆が活発に消費をすることです。

ただし従来の必需品を売っても、然程儲けはでない。

需要は限られますからね。

どうしても相対的に判断してしまい、周囲の儲けと比較して焦ります。

そこで商人が結託して麦を10倍の値段で売ったら、どうなります?

10倍でも市民は暮らしていけるほどに豊かだとして……。

市民は商人を襲うと思いませんか?」


「ただのボッタクリですからなぁ……。

暴動必至ですね」


「以前の価格を知っているから当然です。

買い手の自尊心は傷つき、恨みが募るでしょう。

それなら元々、価値の分かりにくいものに値付けするほうが利口では?

買い手は『価値のある商品を買った』と自慢出来ます。

それなら自尊心を満たせる。

所詮はきょ需なので、自己満足が大切です。

きっと怪しげな目利きが、竹の子のように沸いてきますよ」


 モルガンの眉間が険しくなる。


「なるほど。

金が余っているから、そのようなものは投機の対象になるわけですか」


「価値の分かっているものを釣り上げると、憎悪を買います。

金貨1枚の利益で、金貨5枚分くらいの憎悪がついてきますよ。

憎悪の袋が満杯になると、命を落とすでしょうね。

それでは効率が宜しくありません。

儲けるためにやっているのですから」


「5倍の憎悪ですか?」


 適当に言ったのだがな。

 客観的な根拠はない。

 漠然とした感想だよ。


「立派な根拠はありませんが……。

まず……ぼったくられたと怒るでしょう。

そして損をしたと不満が溜まる。

そのせいで、他に買えるものが買えなくなったと怒りが増す。

『不当な手段で儲けている連中が、野放しになっている』と怒るでしょう。

そして『奴等は社会にとって害悪だから排除せよ』と正義を刺激する。

まあ……ざっと考えて売った値段に比例して、これだけの憎悪を買うわけです」


「しかも人数分ですか。

たしかに憎悪を許容出来る革袋は、簡単にはち切れるでしょうね。

命がけになるくらいなら、他の儲けを探すほうが合理的ですな」


きょ需なら、そう恨まれません。

無視することも出来ますし、なにより元の値段が分からない。

恨みは然程でもありません。

この絵は金貨100枚などと、権威ある有識者が値付けすると、それが価値となります。

虚栄心の対象になるか、より高値で好事家に売るでしょう。

本当の価値などないのですから」


 モルガンは感心した顔でうなずいている。


「芸術に興味を示さない者にとっては、銅貨1枚の価値もない。

好事家にとっては金貨100枚の価値があるかもしれないと。

なかなか奥深い話ですなぁ。

もしやラヴェンナで教えているのですか?」


 ふと気になったのでキアラを見ると……一心不乱にメモを取っている。

 だと思ったよ。

 こうやって広まるのだろうなぁ……。

 ただ重税のくだりが外に広まると不味いから、あとで釘を刺しておこう。


「さすがにそこまでは、手が回りません。

私の個人的な臆測ですよ。

兎も角……きょ需が、莫大ばくだいな利益を生むと知れば、どうなりますか?

本来生活で必要とされるものが軽視されます。

そのほうが儲かりますからね。

農家も絵の売買に、手を染めるかもしれません」


 モルガンは呆れた顔で首をふる。


「欲の力は恐ろしいですな。

それこそ家や農地を売って、売買に手をだしかねないと。

売る阿呆に買う阿呆。

同じ阿呆なら売らなきゃ損損……とでも言いますか」


 本人は利口だと思ってやっているさ。

 阿呆だと思ったら、手をださない。

 まあ……そうやって手をださない人が馬鹿にされるのだが。


「欲は人の理性を、瞬時に溶かしますからね。

ただ……無理な付加価値は、いずれ破綻するでしょう。

そもそも虚構の価値なのです。

需要に上限はありますが、供給はほぼ無制限に増えるのですから。

ある日突然、無価値になることもありえる。

そうなれば経済は大混乱に陥り、建て直すのに10年以上は必要でしょう。

好景気が行き過ぎて、きょ需が爆発しそうになったら抑止する必要があります。

そこで増税が有効な武器となるでしょう」


「つまり増税は、意図的に冷や水を浴びせるときに使うと。

これを他所に指摘しようものなら、袋叩きにあいますな」


「理屈をこね回して、増収を企んでも大概失敗します。

計画通りにいくほうが稀なのです。

単純な理屈であれば、単純に反映されやすいでしょう?

連鎖的なダメージも及びにくい。

そもそもの話ですが……。

辺境のラヴェンナで、重税を課そうものなら反乱祭りです。

むしろ今のほうが、前よりマシだと考えてもらうようにすればいい。

楽で確実な統治方法でしょう?」


 モルガンは納得顔でうなずく。


「なるほど。

どうやら顧問としての職責を全うするには、経済の勉強も必要なようですな。

精進するとしましょう」


 俺は専門的な知識を持つ学者ではない。

 単純な原理しか知らないのだ。

 まあ……経済がまだ単純だから通用しているのだろう。



 突然上空に映像が浮かぶ。

 モルガンは映像を見て首をかしげる。


「おや……クレシダが放送にでる日でしたかな?」


 どうやら暇な時間は終わりのようだ。


「いえ。

どうやら動き始めるようですね」


 なにやら意味のない挨拶ではじまった。

 これだけで終わるはずはないだろう。

 そう思っていたら、クレシダの笑みが深くなる。

 さて……なにを仕掛けてくるのやら。


『皆さん。

ここ最近、大事件ばかりで困っているでしょう?

主に救いを求めたジャン=クリストフ・ラ・サールが、啓示を受け取ったそうです。

ですが断念なことに、ラ・サールは多忙のため放送にでられません。

そこで私が彼の言葉を伝えましょう。

数多の不幸を祓う祝福された言葉だそうです。

では……ヌ・アルヌ・ザマール・サッル・バラートゥ』


 やられた……。

 思わず、舌打ちをしてしまう。


「先手を打たれました。

此方こちらの手を潰しに来るとは」


 モルガンはいぶかしげに、眉をひそめる。


「聞いたことがない呪文ですな。

もしや呪いですか?」


 俺に使われる前に、先手を打ってきたか。

 強引に状況を動かすつもりだ。


「ホムンクルスの停止呪文です。

思い切った手を打ってきましたよ」


 しかもラ・サールの責任にしてしまっている。

 実に狡猾だよ。


 ラ・サールの名声は奇跡の人としてうなぎ登り。

 最近、恍惚こうこつ状態に陥るときがあると、噂で聞いていたが……。

 クレシダめ……薬物を仕込んだな。

 恍惚こうこつ状態になると、本人の記憶がないらしい。

 状況を動かすのと、ラ・サールの始末を同時にやるつもりだ。

 クレシダは満面の笑みを浮かべている。


『これは罪を歌う偽りの命を消し去るおまじない。

貴方たちに取り憑く悪霊を消す力があるそうです。

きっと不幸を吹き飛ばしてくれると思いますわ。

またラ・サールが、啓示を受け取ったらお知らせします。

では……ごきげんよう』


 ホムンクルスに刻まれている名前は『アルヌザマール歌うサッル偽りバラートゥ生命』だ。

 

 罪を歌う偽りの命。


 そう訳すわけだ。

 これは、ホムンクルスを止めるだけでは終わらない気がする。

 このクレシダからの愛の言葉を、どう処理したものか……。

 面倒臭いなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る