400話 相性は大事

 王都との連絡は、かなりタイムラグがあるし時間もかかる。

 だが、戦争の話題の伝達速度は実に早い。

 内容は正確ではなく、話題性重視で眉唾物な話にすぎない。

 内容も噂の域を出ないわけだ。

 

 話の内容は兵数が大袈裟に盛られている。

 それだけでなく軍隊も突然現れる。

 そんな噂でもかき集めて、客観的な情報と組み合わせると、ある程度内容も見えてくる。

 さらにフロケ商会に調査して貰った内容も加味する。


 やっていることは、二次創作の軍記物と実地調査の結果をすりあわせて、戦いの実態を探ること。

 軍事省で専門の部門を設立して、この手の情報を精査させており、一応の結果がでたとの報告を受けた。

 俺は軍事省を訪れて、チャールズと調査結果の話をしている。

 結果に添付された元となる情報の要約を見て、自然と渋い顔になった。

 

「うわさ話は尾ひれがつきますが…。

ちょっと尾ひれが、胴体より大きくなっていますね」


 チャールズは皮肉な笑いを浮かべている。


「そのほうが、話題性は十分ですがね。

それに尾ひれがついて、実態がつかめなくなれば…戦っているほうとしては、有り難い話でしょうな」


「功績が、大袈裟に語られると嬉しいわけですか。

確かに彼は、若くて覇気にあふれる英雄ですからね。

当然、名誉心も強いでしょう。

そんな英雄の敵役候補なんて…なりたくはありませんがね」


 俺のボヤキを、チャールズは鼻で笑う。

 使徒襲撃騒動から俺に対しての当たりが、若干強い…。

 心当たりはあるので、強く言えないのがつらいところだ。


「敵役になりたくてなる物好きなんておらんでしょう。

御主君は、使徒やら英雄から目の敵にされる体質をお持ちのようですな。

多分…勝手に敵役にされますよ。

実に困った人だ。

そのうち神にも、目の敵にされるのではないですかな?」


 もうなっているよ…。

 ともかく分の悪い話からは、話題をそらそう。


「それより…プランケット殿から推薦のあった、気の毒な人の話です。

戦いぶりを専門家としては、どう見ますか?」


 チャールズは腕組みをして、少し考えこんだ。


「結果だけみると負け続けていますがね。

6回も戦って負けられる。

つまり勝てないとみたら、早々に軍を引き上げていますな」


「ええ、軍を全うする能力は高いでしょう。

6回戦っても部下がついてくるなら、人望も厚いと思います。

むしろ主君側に、問題がありますね」


「そうですな、最後の戦いが1番損害は大きいわけですが…。

主君の家宰が戦場に出てきて、無理に戦わせたといったところでしょう。

まあ…よくある光景ですがね。

実態を知らずに戦えと言うのは気楽なものです。

敗戦の責任を取らないなら尚更ですな」


 俺との認識は一致している。

 チャールズは前の主君がひどかったから、このあたりの嗅覚は鋭いのだろう。


「採用はロッシ卿の判断に委ねたいと思います」


 チャールズは俺を、いぶかしげな顔で見ている。

 俺が彼を評価しているから、採用の決断を下すと思ったのだろう。


「どちらでも良いとおっしゃるので?」


 本音を言えば採用して良いと思っている。

 だが…俺が考えを口にだすと、チャールズの判断に影響を与えてしまう。


「いくら優秀だといっても、人には相性があります。

組織にも個性がありましてね…。

組織の個性とその人の才能の質が合わないと、かえってマイナスになるときもありますからね」


 組織の実態を知らずに、人を押しつけても駄目になる可能性がある。

 仲良しグループを作るのではない。

 ラヴェンナ騎士団は兵站を重視する。

 さらに成果を得るためなら、騎士のプライドを無視するような迷彩までする。

 騎士としてのプライドが才能に直結している人を、混ぜると衝突ばかりしてマイナスになる。

 領主の推薦で採用するなら尚更だ。


 たたき上げで、才能の質が違うのは構わない。

 それは組織の中で、自分を生かしているからだ。

 組織としてもたたき上げなら、発言力も違ってくるので意見も尊重される。

 うまく付き合っているという証左だ。

 チャールズは俺の言葉に、ニヤリと笑った。


「ならば採用をお勧めしますよ。

御主君なら使いこなせるでしょう。

このベルナルド・ガリンド卿をね。

どう使いこなすか、楽しみにしていますよ」


「このガリンド卿が、私の言うことを聞いてくれるかですね。

ではプランケット殿に話してきますよ」


 俺の評価ポイントは、負け続けてもやけにならずにベストを尽くしている点だ。

 あとは、本人と話して考えよう。

 何カ月後に、こちらに来るかは不明だが…。




 数日後、ジョクス商会のヴィヴィアンが訪問してきた。

 俺が希望していた本を持ってきたのだ。


 ヴィヴィアンは受け取った本に目を通す俺を、じっと見ている。


「アルフレードさま、いかがでしょうか?」


「ええ、大変結構です。

では前回お話しした額を支払います。

それともう一つ探してほしい本があるのです」


 ヴィヴィアンは探してほしい本と聞いて、眉をひそめた。

 一般に、領主から探してほしいと依頼される品物となると、簡単に手に入るものではない。

 難易度は高いと判断したのだろう


「題名などはお分かりでしょうか?」


「いえ、特定のジャンルです。

過去の伝承や神話を記したものが欲しいのです。

百科事典には要約があるだけですからね」


「過去とはどれくらいでしょうか」


 こんな依頼を出すのは、いささか気が引けるのだが…。


「1000年以上前です」


 ヴィヴィアンの目が、点になった。


「えらく古い話に、興味をもたれるのですな…。

仮にあったとしても、内容の正確さは保証できません」


「構いませんよ。

昨日のことだって、正確な話は難しいのです。

ましてや1000年前は…」


 ヴィヴィアンは俺の言葉にうなずいた。


「いろいろ探すのに、お時間を頂きます。

加えて相応に費用がかかるでしょう」


「最初に代金をお渡しします。

大体の相場を教えてください。

足りないようなら進み具合を含めて、報告をお願いします。

それで続行の判断をしましょう。

もし見つからなくても、費用の半額は返却しなくて良いです」


 全額渡して成否に関わらずだと、サボる可能性がある。

 高難易度すぎて見つかる率が低い。

 ついで程度でしか探さないだろう。

 それでは俺が払い損だ。


 かといって見つからないと必要経費のみ支払うでは、条件が厳しすぎる。

 これも最初から諦めるだろう。


 半額とは温情ではない。

 俺が優良顧客と分かれば付き合いを深めようとする。

 つまり頑張ってくれるわけだ。



「承知しました。

では全力を尽くさせていただきます」


 あの、特殊なダンジョンの魔物に類する情報があれば良いけど…。

 教会が知っていればオフェリーが何か言ってくる。

 何も言わないのであるとしたら、教会が力を持つ前の情報になる。

 当てにならないけど、何もしないよりマシ。

 俺の趣味で本を集めるけど、ついでだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る