384話 発明の転用

 本家からの手紙を、キアラから受け取る。

 キアラの表情から見て、大した問題ではないようだ。

 情報系に関して元々、適正があったのだろう。


 ある部分に関しては、俺より上になっている。

 もちろん、そこから未来を見据えた方策は、俺の範疇だが……。


 そしてもう一つやっておきたいことがある。

 それは、手紙を見てからにしよう。

 手紙に、目を通すも一瞬動きがとまった。


 俺の動きを見て、キアラがめざとく気がついた。


「お兄さま、何かありましたの?」


「よくある話ですけど……。

何も無いことが問題なのですよ」


 キアラの顔が、一瞬険しくなる。


「王位継承問題が膠着状態になっているのではありませんの?」


「問題が水面下に潜ったのでしょう。

つまり、まっとうな手段以外での解決を目指す方向性が出てきたということです」


「今って3人でしたっけ」


「ええ、庶長子、本妻の長子、末弟です」


 ミルが俺の隣に歩いてきた。


「本家は誰を支援しているの?」


「誰ではありません。

個人ではなく従来の慣習を支持するはずです。

父上にも私からアドバイスしましたし、返事もそれに賛同していました」


「慣習? 人でなくて良いの?」


 ミルの疑問は、常識的なものだろう。

 議論や話を深める上で、常識的な話はとても大事だ。

 全員がその前提を、元に話を進めていく。


「スカラ家は、大貴族で持てるもの。

そうなると騒乱は損でしかないのですよ。

今以上利益を求めるのは、王位を求めるのと同義なのです。

ですから、ここで妥当なのは、損をしない……つまり現状維持なわけです」


「でも慣習の支持って、本妻の長子よね。

人の支持にならないの?」


「いえ、本妻の長子が死ねば末弟の支持です。

つまるところ、誰の支持もしないわけですね」


 ミルはその言葉に首をかしげる。


「それって、新しい国王からにらまれない?」


「多少はね。

ですが、あくまで秩序の側に立つわけです。

糾弾もしづらいのですよ。

そして、新国王は、体制固めを急ぐでしょう。

その際に、大貴族で倒すのに苦労する相手。

それなら取り込んでしまった方が、安定には役立つでしょう。

あくまで相手が理性的であれば……ですけど」


 魔族の奇襲があったので、そこの判断は保留つきになる。

 キアラは大きなため息をついた。


「仮に新国王が理性的でも、部下が暴走することもありえますわ。

これを機会に、自分の利益を拡大しようとしますから」


「どちらにせよ誰の側につくと、スカラ家だけが血を流す矢面に立たされるのです。

そして恨みを集中させて処断。

これが新国王にとってはベストシナリオです。

与える領地もたくさん、目の上のたんこぶも処置できて万々歳となります」


 いつの間にか、オフェリーがミルの後ろに立っていた。


「アルフレードさま。

仮にアルフレードさまが亡くなっていた場合、私たちはどんな手段を選ぶと思っていたのですか?」


 あ、そこ言っちゃう?

 ミルとキアラが無表情になっちゃったよ……。

 ともかく黙っていると大変だ。


「最悪、独立しても良いんじゃないですか?

ここに攻めて来るのが難しいですし、海軍も徐々にできつつあります。

ラヴェンナに関わりすぎると、他の国に後背を突かれるでしょう。

そこまでの選択肢が選べる準備はしたはずです」


 オフェリーは空気を読まずに感心した表情でうなずいている。


「なるほど。

海軍の創設を急いでいたのはそんな……モガモガ」


 オフェリーはミルに、口をふさがれた。

 キアラもオフェリーの手を、がっちり握った。


「オフェリーさん、ちょっと隣の部屋でお話しましょうか……」

「お姉さま、私もぜひ同席したいですわ」


 オフェリーが驚いた顔で、何かを言おうとしている。

 抵抗むなしく、2人に連行されていった。


 あれは説教コースだな。

 別に間違ったことを聞いていないが、俺の死に関連するワードを口走るのは危険だと思われているらしい。

 俺より、周囲が気にするパターンだな。

 他人事のように考えていると、オニーシムが入ってきた。


「アレンスキー殿、どうかされましたか」


 オニーシムが渋い顔でうなずいた。


「以前、ご領主が言った線路の話を覚えているか?

鉄の線をひいて、その上に車輪を乗せれば良いって、話まで報告をしたろう」


「ええ」


 オニーシムが腕組みをした。


「できはしたが、効果がさほど無くてな。

従来の馬車に比べて、そこまで成果が出ない。

利点としては揺れないことだが……。

ラヴェンナの道路は、そもそも平たんでこれもメリットが乏しい。

と言うわけで没だな」


 仕方ないよな。

 でも、これは将来への種まきだ。


「分かりました。

他に使い道があれば良かったのですが……」


 オニーシムがニヤリと笑った。


「そこで考えた。

馬車が使えないところなら有効だろう。

人力でも従来よりはるかに運べる量は増える」


 お、さらに進んでくれたか。

 俺は、自然と身を乗り出した。


「ほうほう……それで?」


「鉱山で使えると思ってな。

以前は鉱石を持ち運びしていたが、鉱山内で線路をひいて台車に載せた。

これでえらく効率が良くなった。

なので役には立ったぞ。

その報告だな」


 トロッコに転用したか。


「大変結構です。

役に立ったのなら何よりですよ」


「あとは工房で、試作品をつくったが、子供のオモチャになっとるな」


「怪我にだけは気をつけてください……」


 魔力を利用した内燃機関、次世代に期待しますか。

 そもそも、ここの鉄は、内燃機関に耐えられるのか。

 基礎学問が育てば、誰かたどり着くだろう。

 今は種まきだ。


 そういえば思い出した。


「爆発はどうなりました?」


 オニーシムは一転渋い顔になった。


「爆発する素材が、うまくいかなくてな。

花火までしかいけないな。

威力がどうしてもな……」


 さすがに、一気にダイナマイトまでいっても、手に余るだろう。

 そもそもニトロなんて造れるのだろうか。

 この世界には魔力がある。

 物質の形成に大きく影響しているだろう。

 だから、全く転生前と同じと思わない方が良い。


「気長にやってください。

その拍子に、別の発明ができるかもしれません」


「うむ、そうさせてもらおう……。

おっとついでに、頼みがあってきたのだ」


「新しい研究ですか?」


 オニーシムが手を振った。


「違う違う。

一族の女どもは、もう居着いている。

アイツラも仕事が欲しいらしい。

家事以外の仕事を、他の女たちがしているのを見てショックを受けていてな。

ちょっと町で、いろいろあったろう。

落ち着いてから頼むと約束したのだよ」


 まあ、俺を非難するセリフにあったくらい変わったことなのだろうが……。

 優秀であれば性別や種族は関係ない。

 使えるものは使っていく。


「構いませんが……特技かやりたいことってありますか?」


 オニーシムが髭をいじりながら、目をつむった。


「料理が得意かの。

あとは……手先は器用だからな。

物作りは得意だ。

だが発明は不得手だな。

頭は固い! とにかく岩より硬い!」


 どうやら思うところがあるらしい。

 思わず笑ってしまった。


「なるほど、分かりました」


 補佐官の話は、俺の管轄外だ。

 2人に任せよう。

 こうやって、いろいろな変化は続くわけか。

 これが、良い方向に向かってくれれば良いが……。


「ちなみに、なにか面白いアイデアは無いか? 気分転換に何か研究をしたい」


「そうですね……。

魔族領に変わった湖があるのをご存じですか?」


「いや」


「アスファルトの湖です。

そこの成分を調べて、人為的に同じものがつくれるか試してみませんか?」


 オニーシムが首をかしげた。


「アスファルトは確か接着剤として使われていたな。

量産して何を引っ付けるのだ」


「いえ、それだけとは限らないではありませんか。

建物の建築にも有効ではありますけどね」


 道路の舗装までたどり着けるか。

 お手並み拝見といこうか。

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