361話 政治嫌いの使徒は有り難い

 さらに、数ヶ月経過。

 結局、選挙は押し切ったようだ。

 その話を聞いて、ミルとキアラは顔を見合わせた。

 オフェリーは諦めた顔をしている。


「これはどう、ラヴェンナに影響するのでしょうか」


「出だしは本人が、熱心に監視するから、当面は大過なく動くでしょう。

問題は使徒が飽きてきたときです。

とにかく彼は、ニュースになることを解決すれば、世の中うまくいくと思っているのでしょう。

すぐに別のことに興味が移ります。

当面は動揺し始めた、経済界についてでしょうね」


 既に黄金があふれ出して、商人の間にも動揺が生まれ始めている。

 それだけじゃない。

 土地や財宝の価値が跳ね上がり始めている。

 目先の利く人たちが買いあさり始めたからだろう。

 ゆっくりでと頼んでいたドリエウスの財宝が、あっさり処理できたのだ。


 勿論イザボーから、許可を求められたが、判断を任せるとして委ねたのだ。

 もっと引っ張れば、高く売れるが逆に目立つ。

 高く売れ始めているので、財宝が市場にあふれ始めたからだ。

 全体からすれば、微々たる量なので目立たない。


 欲張ると、ろくなことがない。


「ユウさまが自分の顔を模した金貨を乱発し始めたのが、ちょっと怖いです」

 

「まあ、自己顕示欲としては分かりやすいですね。

その程度なら、かわいいものです」


「この後どうなるでしょうか」


「まず問題を解決しようとします。

ですが、問題が多発して、力でねじ伏せることは無理がありますね。

最初はまず、土地の売買を禁止するように、教会に布告を出させるでしょう。

ですが、教会は世俗の権限に干渉できません。

そうなるので、王家や貴族に圧力をかけます。

きりがないので、見せしめにどこかを攻撃するでしょう」


「ラヴェンナにですか?」


「いえ、たたく理由がないのと、見せしめにしてもここは辺境です。

なので大きな所をたたきます。

そうでないと、他の貴族や王家に恐れをなして、辺境でごまかしたと思われるのを嫌います。

彼は虚栄心の塊です。

野心との釣り合いがとれていませんが」


 キアラは野心といった言葉に首をかしげた。


「野心ならあふれていると思いますけど」


「いえ、良かれと思ってやっているのです。

明確な目標があって進むのは野心です。

よかれと思ってやるのは、虚栄心に属します」


 キアラは、頭を振った。


「お兄さま学はまだまだ、奥が深いですわ」


「ともかく、強引にでも止めるでしょう。

ところがそれでも止まりません。

地下に潜っての取引になるでしょう。

結局は止まりませんよ。

むしろ地下に潜ることによって、制御が効かなくなって被害が増します」


 ミルがうんざりした顔になった。


「結局力のない人が、被害に遭うのね」


「残念ながら、政治の失敗は、弱者から被害を受けます。

そして統治者が、それに気がつくのは、もっと上が被害を受けてからなのです。

それを避けたいなら、間違いが起こらないように日々注視しないといけないのです」


「だからアルは、真面目な領主ほど大変だって言ってるのよね」


 オフェリーはじっと外を見ている。


「アルフレードさまのような統治者は見たことがありません。

近いのはスカラ本家の方たちですね。

ユウさまのような人はたまにいますけど…。

ユウさまの失政は、いつ頃ハッキリするのでしょうか?」


「既に教会は、見越して慌てているでしょう。

従来の使徒は、政治に興味に持たずにクローズな世界でやっていました。

だから使徒と、良好な関係を保つだけで良かったのです。

使徒の政治嫌いなんて、表向きは渋い顔をしても、内心は安堵していたでしょうね。

いろいろな意味で、彼は規格外です。

過去の対処方法もないから困惑しているでしょうね」


 オフェリーは俺に似たため息をついた。


「マリーの手紙も、泣き言が多くなっています。

ユウさま自身が理想の世界をつくると張り切っていて止められないと」


「ある意味単純な理想ほど、止められないのですよ。

総論賛成、各論反対になるのですが…。

考えがない人ほど、総論だけで話は完結するのですよ。

各論に反対されると、総論に反対されたと思い込みますからね。

いつ彼が、失敗を悟るかは分かりません。

他の要素まで読み切れないのです」


「悟ったらどうするのでしょう」


「見ないようにして、別の問題を解決しようとしますね」


 別の問題と聞いて、全員が暗い顔になる。

 俺のことを指しているのが、丸わかりだからだ。

 この件について、俺に決定権はない。

 世界にとって良いことは、彼が早期に失敗して誰かに殺される。

 そうすれば、混乱は大きいもののなんとか収束する。


 長引くと、本当に収拾がつかなくなって、世界が壊滅する。

 生き残るのは、使徒の周囲だけ。

 これが、最悪のパターンだ。

 

 俺は、全員を見渡す。


「ともかく私たちは、やるべきことをやるだけですよ。

皆の生活を維持するのが、私たちの役目です。

外ばかりに注意しても、仕方ありませんからね」


 外の問題は、俺がきっちり片付ける。

 だから皆は、住民の生活を守ってほしい。

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