243話 趣味丸出し

 ゆるゆると、都市ラヴェンナに向けて移動を続けている。

 遠目に懐かしいラヴェンナがみえてきた。

 4カ月くらいか、離れていたのは。


 冬も近いのだが、温暖なのでそこまで寒くはない。

 帰ってきたと感慨深いものがある。

 感傷に浸るより現状の確認と、魔族との戦い等、いろいろ準備をしたいことがある。


 そして、アーデルヘイトを問い詰めることも忘れていない。

 馬車からずっと眺めていても早く着くことはない。


 おとなしく馬車に引っ込んで、思案に浸る。

 この手の研究はされてないから、果たしてうまくいくか。

 

 適正となる人材もいるのか。

 悩んでも仕方がないな。

 まずは行動あるのみ。

 

 

 長いこと考えにふけっていると馬車が止まった。

 町に着いたらしい。


 馬車を降りると走ってきた、ミルとキアラに抱きつかれた。

 危うく転びそうになるが、なんとか踏みとどまる。


 ミルは満面の笑顔で俺に顔を近づけてきた。


「お帰り、アル」


 頭をかこうとしたら、2人に抱きつかれて手があげられない。


「ただいま、ミル」


 そして、キアラの抱きつく力がさらに増す。

 キアラは潤んだ目で俺に顔を近づけた。


「お兄さま、お帰りなさい」


「ただいま、キアラ」


 このままだと動けない。


「2人とも離れてもらって良いかな? 感動の再会はあとでゆっくりとしよう」


 ミルとキアラは割合素直に離れてくれた。

 そのあとで首都の警護をしていたロベルトとデルフィーヌ夫人が前に出てきた。


「ご主君、お疲れさまでした!」


「ご領主さま、お帰りなさいませ」


 俺はちょっと照れ臭くなって頭をかいた。


「ただいま、留守の守りご苦労さまでした」



 そこに、何も知らないアーデルヘイトがのこのことやってきた。


「アルフレードさま、お帰りなさい」


「ただいま…ところでアーデルヘイトさん…一つ聞きたいことがあるのですが」


 アーデルヘイトがキョトンとした顔になった。


「何かありました?」


 何かじゃねぇよ!


「派遣してもらったルイさんのことです…」


 アーデルヘイトがパッと笑顔になった。


「ああ、ルイさんですよね! すごいですよね、あの筋肉!」


 確かにすごいよ! すごく暑苦しいよ!


「どうして、彼を派遣したのですか…?」


 アーデルヘイトは全く悪びれない表情だ。

 むしろ天真らんまんといっても良い。


「優秀だからですよ。

本人の意欲も十分です!」


 そうじゃねぇ。


「いえ、あの筋肉は…?」


「頑張って鍛えてたみたいですよね。

あれをみたら病気も逃げていくと思いますよ!」


 あれに違和感を覚えないのか?


「アーデルヘイトさんは、あの筋肉をみてなんとも思わなかったのですか?」


 アーデルヘイトがかわいらしく首をかしげた。

 そしてまばゆいばかりの笑顔になった。


「すてきですよね!」


 …はい?


「すてき…ですか?」


 アーデルヘイトが力強くうなずいた。


「お医者さんは男の人だったら、たくましい方が良いですよね。

とっても安心感があります!」

 

 安心感突き抜けて不安感しかないのだが…。


「そ、そうなんですか…」


「そうですよ! 男の人だって、女性の胸とかスタイルをみるじゃないですか。

女の人はたくましさをみますよ」


 そ、そうなのか。

 俺の動揺に気がついて、アーデルヘイトははっと何かに気がついた顔になった。


「あ、アルフレードさまは別枠だから大丈夫です!」


 そうじゃねぇよ!


「では、アーデルヘイトさんは彼が適任と思っているのですね?」


 アーデルヘイトは満面の笑みでうなずいた。


「はい、われながら会心の人事です!」


 目まいがしてきた…。


「彼のようなマッチョばかり増えて、良いことあるのですか?」


 アーデルヘイトがキョトンとした。

 何を分かりきったことを聞くのか、そんな顔だ。


「良いことずくめですよ? アルフレードさま…良いですか?」


「は、はい?」


 アーデルヘイトは俺にビシっと指を突きつけた。


「筋肉が嫌いな女の人はいません! 胸が嫌いな男の人はいないでしょう?

なくても構わない…でも、あるのが嫌だという人はみたことがありません!」


 駄目だ…論理が飛躍しすぎている。

 趣味丸出しじゃねぇか。

 極端すぎるだろう!

 デルフィーヌは…駄目だ同意するに決まっている。



 そうだ、ミルとキアラなら…。

 俺は救いを求める目で2人をみた。


 それをみてミルは苦笑した。


「アルはそのままで良いわよ」


 キアラもほほ笑んでいた。


「お兄さまはそのままで良いです」


 アーデルヘイトはそこで止まらなかった。

 2人にビシっと指を指す。


「アルフレードさま以外の男性ならどうですか!」


 ミルとキアラはお互い顔を見合わせて、同時に口を開いた。


「それなら…あった方が良いかな」「それなら…あって困りませんわね」


 お前ら…限度ってものがあるだろぉぉぉ。

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