232話 終わるまでは帰れない

 数日間、プリュタニスと会話を重ねていた。

 まるで教師になったような気分だ。

 

 行軍が止まった。


 チャールズが進軍停止を命じたようだ。

 馬車を降りてみると、ドリエウスの居城がみえた。

 

 遠いから詳しくはみえないが、既に鎮火はしている。

 周囲の獣人の集落も一部、焼け落ちているようだ。


 プリュタニスも俺の隣で、険しい視線のまま城をみていた。


「燃えたようですね。

町の中はみてみないと分かりません。

獣人の住居の火事は…飛び火ではないですね。

脱出のときに、獣人に襲われないよう、放火したみたいですね」


 御丁寧に課題は残してくれたものだ。

 安全が確認できるまで待つしかないなと、馬車に戻った。


 しばらくすると、伝令がやってきた。


「御報告します! 住民の代表がやってきてわれわれに、降伏を申し出てきています」


 俺はプリュタニスと無言でうなずきあって、馬車から降りた。

 

「プリュタニスとそちらに向かうと、ロッシ卿に伝えてください」


 馬を勧められたが、断って歩くことにする。

 正直、乗馬ってあまり得意ではない…。

 プリュタニスには、騎乗させて先に行ってもらう。

 

 俺がつくまでに、最低限の意識合わせだけしてもらおう。

 別の護衛を連れ歩きながら、軍の様子を確認する。


 多少の緊張状態が続いているからな。

 少しばかりの疲労がみえる。

 数日間の休息で軽減されるにしても、ここは敵地だ。


 あまり悠長にもしていられないか。

 今後の指針を考えつつ、プリュタニスを見つけたのでそこに向かう。

 

 俺の姿をみて、プリュタニスが俺に寄ってきた。


「アルフレードさま、父はやはり人間だけをつれて脱出したようです。

周囲の獣人、全てアルフレードさまに従うと申し出ています」


「その件は、受け入れても良いでしょう。

ですが獣人が空き巣をしなかったのですか?」


 プリュタニスが苦笑した。

 なにか過去にあったのか。


「以前に父がわざと町を開けたフリをしたのですよ。

それにつられて獣人たちが泥棒をたくらんだのですが、当然失敗しました。

結果、一族皆殺しにされているのです。

ですので、怖くて入れなかったようです。

アルフレードさまの軍がここまで迫って、ようやくもぬけの殻だと気がついたようです。

泥棒しようにも間に合いませんよ」


 プリュタニスはそういって肩をすくめた。

 俺も苦笑しつつうなずく。


「それより問題は、焼き払った町に何が残っているか…ですね。

支配地域の地図でもあれば大助かりです」


「地図でしたら、私の部屋が焼け残っていればそこにあります。

疎まれていたので、宮殿には住めませんでした。

ここでは幸いなことに、宮殿の外に屋敷があります」


 俺を探して、チャールズがこちらにやってきた。


「御主君、町を調査させてもよろしいですかな?」


「ええ、ただ…井戸には多分毒が入っていると思われます。

仮に食糧が残っていても毒が入っていないか、そのあたりも注意してください。

あと、プリュタニスの屋敷が残っているか調べたいので、彼にも護衛をつけてください」


「承知しました。

軍はここで待機させますか?」


「待機場所は町の中以外で、ロッシ卿の判断にお任せします」


 まだ、町に入るのは危険だ。

 最悪、獣人が一斉に蜂起して包囲されると、損害がしゃれにならない。

 受け入れるといったが信用したわけではない。

 

 そこは、仮に策を練っていても空振りさせる。

 そんな方向で対処すれば良い。


 今回は移民の問題もあるので、オラシオも同行している。

 そのオラシオが俺のところにやってきた。


「御領主、彼らの対応は先の打ち合わせどおりでいいのか?」


「ええ。

既存の集団ごとに分散させます。

砦を町に変更する手伝いと、道路の敷設の労働力とします。

もしかしたら、別途で労働力が必要になるかもしれません。

そのときは、追って指示します。

食糧に関しては、ロッシ卿の調査を待ちましょう。

獣人たちが飢えていたら、こちらで持ってきている食糧を分け与えてください」


 オラシオは無言でうなずくと、移民省の部下をつれて獣人たちのところに向かった。

 当面の措置はこれで良い。


 問題はドリエウスがどこに逃げたか。

 今回俺が出てきたのは、戦いを正式に終わらせるためだ。

 動き出したからには、きっちりトドメをさす。


 獣人たちを受け入れたからには、ドリエウス側との戦いを終わらせないと内部に爆弾を抱えたままになる。


 だが、無理な力攻めは全く考えていない。

 敵の城の前に築城して長期の包囲すら考えている。

 毛利元就の尼子攻めに似た形だな。

 長期戦になるが、この場合は仕方ない。


 エンジニア集団にも正式に仕事を開始してもらう。

 ドリエウスも攻めてきて、いきなり都市計画をするとは思わないだろうな。


 第二の首都を違う場所につくる。

 ラヴェンナから奥地の統治は遠すぎる。

 ここは戦略上の要所にはなり得ない。

 いろいろ、恨みが積もった土地だ。


 投降してきた獣人たちも、新しい町なら比較的切り替えができるだろう。


 プリュタニスの地図があれば良いが…なければ調べるしかないな。

 どちらにせよ、先生がここにくるときに見つけた、大きな川があった場所。

 あそこが良い。

 今の首都と運河でつなぎたい。

 こんなことを考えているときだけは楽しい。

 

 気は進まないが、戦いを先に片付けなくてはな。

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