216話 英雄に必要な要素
前回の代表者会議場で俺が皆に成長しろと言ってから、急に細かい話が上がってこなくなった。
良し悪しだな……。
情報の遮断が起こっても困る。
だが、下手に首を突っ込むと良くない。
当面は座視しつつ、各部署で発生した難題の件数だけ報告してもらうか。
それより最優先事項を片付けよう。
俺の仕掛けが有効なうちに、ドリエウスを動かす必要がある。
そこで、チャールズを呼び出す。
呼ばれたチャールズは興味深そうに俺を見た。
「何か仕掛けるつもりですかな、御主君」
「ええ、ドリエウスの背中を押してあげます。
獣人の捕虜に分かるように、戦闘準備を進めてください。
いずれにせよ、敵が攻めてきたら軍隊は動かす必要がありますからね」
「軍隊とおっしゃるからには騎士団のみではないのですな」
「ええ、種族混合の戦闘部隊を主戦力にします。
今後、騎士団は遊撃部隊になるでしょう」
チャールズがそれを聞くと、少し考え込んだ。
「どうされました? 部隊編成で手間取っていますか?」
チャールズは軽く首を振った。
「いえ、そうなると…騎士団を別のヤツに任せて、私は全軍を統括したほうがいいかと思いましてね」
「そうですね、ロッシ卿にお任せしますよ。
私に断りは不要です」
「私は騎士団長を降りてロベルトを後任にします。
幾ら任せるとおっしゃっても…騎士団の人事について、私の一存で決めるのは無理でしょう」
それもそうだな、思わず苦笑した。
「確かに…ではそのように取り計らってください。
副団長は、新団長に人選を一任しますよ。
今後は、軍事省のトップに騎士団長の人事も…」
チャールズが珍しく俺を遮った。
「それは時期尚早でしょうな。
それに騎士は兵隊と違います。
それとは別に…御主君からの叙任式が無くなると全員落胆しますよ。
もう少し、御主君は自身の価値や重みを自覚すべきですな。
替えが利く存在ではないのですよ」
ミルとキアラも激しくうなずいている。
形勢が悪い…思わず頭をかく。
「そこはおいおい、意識するようにしていきますよ。
ですが性分もあるので…」
「そこらにいる領主と同じにしろとは言っていません。
御主君らしいやり方で配慮してください」
駄目だ、この戦いは勝ち目が無い。
俺は両手を挙げて降参のポーズをとる。
「分かりました…忠告には従いますよ」
チャールズはニヤリと笑った。
「結構、ではもろもろの人選は進めますので、騎士団長の任命式の準備はお任せしますよ」
「いや、ロッシ卿の任命式は無かったでしょう」
チャールズがあきれたように俺を見た。
「忠告に従うのでは? 任命者が誰かをハッキリさせるのは、騎士にとっては大事なのですよ。
私の任命式が無かったのは貸しにしておきますよ」
チャールズがそう言い残して出ていった。
いや、お前も式典嫌なだけだろ…。
俺はため息をつきつつキアラを見た。
「キアラ、騎士団長任命式の手順を、本家に問い合わせてください。
私が生まれているときにはもう、ルスティコ卿でしたからね」
キアラは苦笑気味でうなずいた。
「分かりましたわ、元の方法を参考にして…ラヴェンナ式を決めれば良いですわね。
当然、お兄さまにも参加してもらいますわよ」
ミルも立ち上がった。
「私も参加するわよ!」
ミルを出さないとか有り得ないから大丈夫だよ…。
「で、では…本家からの資料が届いてからこの件は対応しましょう。
私はちょっと出掛けてきます」
ミルがジト目で俺を見た。
「アル…逃げる気じゃないわよね」
「いえ、ちょっと諸悪の根源に苦情を申し立てに行きます」
2人からの白い目を無視して、部屋を出る。
向かったのは
「おや、早かったねぇ」
俺はぶぜんとした顔になる。
「結果を予想して爆弾を投げるのは…やめてほしいのですが」
「おや…では仕掛けが決まって、坊やへの評価が信仰レベルになってから押さえる気だったのかね?」
大げさすぎるだろう。
俺は思わず肩をすくめた。
「そこまで評価が上がるとは思えませんがね」
「坊やはあきれるくらい自己評価が低いね。
逆よりはずっとマシ…と言いたいところだが、バランスが悪すぎるさ。
そうなればロクな結果にならないと思うがね」
周りはどうも俺を過大評価するな。
「そうですかね」
「自分のことは分からないもんさ。
少なくとも途中参加のアタシから見れば、皆の坊やへの態度は信仰一歩手前だよ」
思わず頭をかく。
その点から突かれると…俺の主観での反論は難しい。
でも、信仰ってわりにはおもちゃになってないか?
「信仰なんて望んでいないのですけどね…」
「ま、諦めるんだね。
もしかして、アーデルヘイトを抱かないのはその自己評価の低さのせいかね?」
まだ諦めてないのか…そんな理由じゃないし。
「いえ、私は複数を愛するより一人に全力投球が好きなのですよ」
「英雄、色を好むって言うけどね。
坊やはそんなガラじゃない…そう自己評価してそうだねぇ」
英雄なんてガラじゃねぇ。
英雄になるには大事なパーツが俺に欠けている。
「英雄ではないでしょう。
私には必要不可欠な要素が有りませんから」
「ほう、その顔からすると色欲…ではなさそうだね」
俺は自嘲気味に笑った。
「闘争心ですよ。
リスクを恐れずに、大胆な攻撃に出られる。
結果が悪く出ても恐れずに、また大胆な手を選択できる。
そして…平和なときには居場所を失う。
そんな争いのエネルギーが私には少ないのです」
俺に一番欠けてる部分だ。
追い込まれないとリスクをとった選択ができない。
戦争だって性に合わない。
政治家でも英雄と呼ばれるようなチャーチルなんて、若い頃は戦争に首を突っ込みまくっていた。
第二次世界大戦が終了しそうになると「自殺したくなる」と思うくらい、闘争心に満ちあふれたタイプだ。
俺とは真逆だな。
俺はチャーチルの前任で、戦争が始まってからボロクソにたたかれたチェンバレンのようなタイプだ。
「なるほどねぇ…、でもアンタは黙っていれば気楽な大貴族の三男坊だよ。
ところが自主的に辺境の領主をやってるじゃないか。
直接的な戦闘をしないだけで、それ以外ではじゅうぶんに闘争心があるさ。
闘争心の向き先は直接戦闘だけ…なんて思ってないだろうね」
領主をやっているのは、ミルやキアラのような人の居場所が欲しかっただけだ。
転生から始まって、巡礼で使徒の所業を見て追い込まれただけの話。
この話は人にできないから…好き好んで理想の世界を造っているように見られている。
どうにも最近、各地で形勢が悪いな…。
「随分私のことを分析しているようですが、そんなに面白いのですか?」
珍しく
「いや、坊やを見てるとだね、建前を本気で信じて…それを守ろうとして死んでしまった息子を思い出すのさ。」
確かに息子がいても不思議ではない。
昔はかなりの美人だったと思う。
それなら言い寄ってくる男には困らなかったろう。
そして使徒降臨が近くなければ、この世界の結婚率は相当高い。
「そんなに似ているのですか?」
「馬鹿を言うんじゃないよ、息子のほうがずっと男前でかわいかったさ」
外見の話はしてねぇよ。
「幾らプランケット殿でも、自分の息子はかわいいでしょう」
「幾らは余計だよ。
息子もアタシと同じで騎士だったのさ。
騎士の建前は知っているだろ」
「主君に忠義を誓って、力の無い民を守るですね」
「そう、建前ではね」
今度は
ただの昔話ではないだろうな、俺に注意喚起をするための話のネタか。
自覚は無いのだが…俺はそんなに危なっかしいのかねぇ。
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