209話 渡る世間は鬼ばかり

 クリームヒルトが到着前に、代表会議の人員追加の原案が俺に上がってきた。

 

 俺が案を受け入れることは明言してある。

 だが、何も言わずに受け入れるとは言っていない。

 

 一つだけ条件……とまでいかないが意識してもらうことがあった。

 人員の選定理由を述べられること。


 なんとなくとか、意味不明な理由を認めるために受け入れる、と言ったわけではない。

 彼らで考えて導き出した結論は受け入れる。


 そのあたりは、ミルとキアラが手綱を握ってくれていたので問題はなかった。

 おかげで全員がきりきり舞いしたわけだが。

 

 そしてミルとキアラの補佐官の選定もあと少しまできている。

 それぞれ3名ほどほしいが最終的な人選は、クリームヒルトの一団が到着してから決めたいとのこと。

 使徒がらみで、不遇な目に遭った人たちには目を掛けてあげたいようだ。

 一任してあるので俺に許可は不要とだけ伝えた。

 

 親衛隊の増員に関しては難航していた。

 有翼族と猫人と魔族を加えるまでは良い。

 それ以外の人員の種族バランスをどうするか、ジュールが俺に困り果てた揚げ句に相談してきた。


「御主君、親衛隊の規模を現在の4名から20名程度にしたいと思っています。

種族構成をどうすべきか……考えあぐねています。

どのようにしたら良いでしょうか?」


 なまじ種族平等を唱えているから、それに引きずられているな。


「疎外感を与えないように、各種族から2名は最低ラインとしましょう。

それ以外は目的を達成できるような構成で構いませんよ」


「承知しました。

現在いる3名は副隊長格にして、それぞれに人員を割り当てる感じでよろしいでしょうか。

それとも副隊長も平等を心がけた方が良いでしょうか?」


 そこまで平等にこだわるとかえって不平等になる。

 何事もバランス感覚だな。

 こればっかりは経験を蓄積していかないと駄目だろう。


 俺は首を振った。


「親衛隊の枠としては、各種族に最低限の席は用意して良いでしょう。

親衛隊内部の階級や割り当てに関しては、適材適所を貫いてください。

適材適所の意味に関しては、ジュール卿の判断に委ねますよ」


 ジュールは、俺の判断を委ねるといった言葉に緊張したようだ。


「承知しました……

私自身で考えるようにとのことですね」


 力む余りに行き過ぎても困るな。

 俺は気軽な感じでジュールに話しかける。


「なんでも自分一人で考えなくても良いですよ。

ロッシ卿や現在の親衛隊の面々と相談して、判断基準を決めても良いでしょう。

時には人の知恵を借りるのも立派な識見ですよ」


 ジュールは自分が力んでいたことに気がついたようで、頭をかいて照れ笑いをした。


「そうでした、やはりですが……」


「どうかしましたか?」


「ご主君、17歳と主張されるのは無理がありますよ」


 おい。


「17歳です」


 仕事をしていたミルとキアラがあきれたような顔になった。


「アル……。

いい加減無駄な抵抗はやめた方がいいわよ」


「お兄さま、見苦しいですわ」


 ひどいやつらだ。

 俺は大げさに天を仰ぐ。


「渡る世間は鬼ばかり、私がグレたらどうする気ですか」


 ミル、キアラ、ジュールの3人はなんとも言いがたい微妙な表情になった。

 そんな微妙な空気を破るかのように、慌ただしくデルフィーヌが駆け込んできた。


「領主さま、ど、ど、どうしたら良いのでしょうか」


「どうされましたか? 結婚生活は順調と聞いていますが」


 デルフィーヌは、ちょっと頰を赤らめてのろけそうになったが、すぐに現実に戻ったようだ。


「そうではありません! いきなり教育省を設立するって……どういうことですか!」


 昨日は体調不良でデルフィーヌは、代表者会議を欠席していたのだ。

 昨日の会議で俺は教育省の新設を指示したのだ。

 別に不意打ちを狙ったわけでなく、純粋に宣言しようとして忘れていただけなのだが……。

 デルフィーヌの欠席で思い出しただけだ。

 マガリ性悪婆は、子供のお守りから解放されると思ってニヤリとしたが、『そこの顧問も務めてもらいます』といった俺の宣告に白目をむいていた。

 ロベルトは、妻が要職に任命されるのを聞いてうれしそうにしていたが……。

 本人は仰天したということだな。


「いきなりではないですよ。

前から言ってましたよね。」


「い、いえそうですけど…。

どうして今なんですか? 大臣なんてどうしていいのか分かりませんよ!」


 俺は肩をすくめた。


「クリームヒルト嬢の一団に、読み書きができる人が多数いると聞いていたのです。

教育省をつくっておけば、人材の確保で他の省に対して主張もできるじゃないですか」


 省の下部組織だと、人材確保の説得力も弱くなる。

 特に読み書きができる人材は貴重で争奪戦だ。

 ハンディは消しておく必要がある。

 そんな俺の気も知らないデルフィーヌが頭を抱えた。


「それは分かりますけど……どうしたら良いのですか!

どんな組織をつくれば良いのか、まるでチンプンカンプンですよ!」


「それは初だから……そうでしょうね。」


「皆が領主さまのように……年齢不詳な頭脳で、簡単に組織をつくれるわけないじゃないですか!」


 おい、最近俺の扱いひどくなってね? 他の3人は笑いを堪えてるし。


「一人で全部やろうとするから、そうテンパるのですよ。

直近で新設の省をつくったアーデルヘイトさんと、万能顧問のプランケット殿に相談すればいいのですよ」


しばし硬直したあと、ハッとしたような顔になった。


「そ、そうですね……。

相談してみます!」


「あと、御主人にも相談されては? 頼られるとメルキオルリ卿も喜びますよ」


 デルフィーヌはコクコクとうなずいた。


「そうですね! 相談してみます!」


 デルフィーヌは意気揚々と出て行った。 

 見送ったあとで、俺はため息をついた。


「皆、自主的に考えてくれるのは良いのですがね。

力みすぎているような…」


 ミルがジト目で俺を見てため息をついた


「あれだけ発破を掛けたら、みんな力むわよ」


 俺か? 俺のせいか?

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