199話 使者は何故か女性だらけ

 魔族の使者が到着したので、応接室に通してもらう。

 使者は女性とのことだが、この世界は交渉に女性を出す決まりでもあるのか?

 ミルとキアラ、護衛のジュールをつれて応接室に向かう。

 途中で素朴な疑問が俺の口からもれた。


「なぜか使者は女性ばかりですね」


 ミルが膨れっ面になった。


「アルは男だからね。

甘く見られてるとか、そのまま愛人になって取り入るとか考えてるんでしょ」


 キアラは苦笑したが、目が笑っていなかった。


「お姉さま以外に、お兄さまを渡す気にはなりませんわね。

私がお兄さまの愛人になった後なら考慮しますけど」


 だから、さらっとタブーを無視するのやめようよ。

 ジュールまでやれやれといった感じで苦笑した。


「本当にご主君は猛烈に愛されていますね」


「それはうれしいのですけどね。

そんな状態で他の女性を差し出すとか言われても困るのですよ」


 話はそこで終わり、俺たちは黙って応接室に入った。


 そこにいたのは10代だろうか、黒髪の黒い目、少し褐色気味の肌、身長は高めで細身の少し幼い感じがする魔族の女性だった。


 少女を使者とか、ますますそのセンが強く感じる。

 使者が立ったので、着席を促す。


「私が領主のアルフレード・デッラ・スカラです」


 魔族が真面目な顔で一礼した。


「一族の使いとして参りました。

クリームヒルト・カーラーと申します。

このたびはお会いいただき、ありがとうございます」


「カーラー殿、御用向きをお伺いしても?」


「はい。

ラヴェンナは種族問わず来る者を受け入れています。

戦った後ですら、敗者を受け入れることは驚きですが。

私たちも、ラヴェンナに合流すべきか議論百出してまとまりません。

そこでラヴェンナの方針について確認をしたいのです」


「方針ですか?」


「はい、いろいろと相反する噂を聞きました。

実情を外から調べようにも、ガードが堅くてそれも難しい。

直接会って真偽を確認するしかない、との結論に至りました」


 誰かが噂を流しているのか、何にせよまずは話を進めるべきだな。


「まず、ラヴェンナへの移住を希望する場合は市民として、従来の市民と同等の立場で受け入れます。

移住をしない場合は、相互不可侵条約を結びます」


「聞きなれない言葉ですが、それはどのような意味でしょうか」


「お互いの領域には手を出さない。

外部からの扇動も行わない。

つまり、お互いの存在を認めて尊重することです」


 たったそれだけといった感じで、クリームヒルトが首をかしげた。


「他の選択肢はないのですか?」


「同盟はこちらの持ち出しが必然的に多くなりますからね。

それは対等とは言えません」


「そうなのですか?」


「こちらは敵から攻撃される方面は限られています。

そして防御に徹していれば負けることはないでしょう」


 クリームヒルトは少し警戒したようだ。

 表情は変えないが、わずかに目が鋭くなる。


「大変な自信ですね」


「先の戦いの話は御存じでしょう。

それが答えです」


「なるほど、それで無理に戦う必要はないと」


 淡々と俺はうなずいた。


「あなたたちが相互不可侵で足りないのであれば……わかりますね」


 ただ守ってくれは認めない。

 単純な理屈だ。

 ところが勝手に自分たちの力を決められては困るといった感じで、クリームヒルトは小さく首を振った。


「ですがまだそうは言っていません。

まだ全ての可能性をお伺いしただけです」


「確かにそうですね。

同盟の選択肢はないとだけ思ってください」


「同盟を結んで、共に攻勢に出ることはお考えにならないのですか?」


 それは今の時点では不可能だと思っている俺は首を振った。


「必要もないのに相手を攻めることもないでしょう」


「危険を取り除くために攻撃はされないのですか?」


 それはむちゃだ。

 少し大げさに俺は肩をすくめた。


「それを言い出すとキリがありませんからね。

攻撃したがる人の方便にすぎないと私は思いますよ。

明確な攻撃の意図が見えたなら話は変わりますが」


 クリームヒルトが俺の真意を知ろうとじっと見つめてきた。

 よく見ると彼女、大人と子供の境目で何とも不可思議な魅力があるな。

 そしてクリームヒルトが口を開く。


「では何のために、この地方に移住されたのですか?

支配地域を広げたいのであれば理解できます。

ですがラヴェンナは支配ではなく、取り込んでいって強大になっていますよね。

そんな概念は聞いたことがありません」


「今の世界で肩身の狭い人も法を守れば生きていける。

そんな世界が欲しくなったのですよ」


 さすがにクリームヒルトが驚いた顔を浮かべて、俺をマジマジと見た。


「し、失礼しました。

余りに突拍子もない話で驚いてしまいました」


「でしょうね。

もうその反応も慣れました」


「一度、持ち帰って合流するかを検討させていただいてもよろしいでしょうか」


「結構ですよ」


 初めて熱意と好奇心をあらわにして、クリームヒルトが身を乗り出した。


「つきましては、一度町を見てもよろしいでしょうか。

自分の目で確かめてみたいのです」


 こちらにとってもその方が都合はいいからな。


「では、護衛をつけますのでご自由にどうぞ。

ですが個人の家や部屋への立ち入りだけは認められません」


「そうなのですか?」


 ラヴェンナでは当然のことなのだがな。


「無許可では、私でも入れませんよ」


 領主はどこにでも入れると思っていたクリームヒルトの目が点になった。

 ミルとキアラは笑いを堪えるのに必死だったようだ。

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