198話 祭りの後は宿題が待っている

 狂乱の祝勝会が終わった。

 代表者会議で、一つ議題が出てきた。

 代表者の人数増員で、席の一つを猫人に与えてほしいとのこと。

 少なくとも、先の戦いで一緒に戦ったので、是非にとの話であった。


 さすがに、戦争の後でも、席を与えないと問題があるのは理解していた。

 だが、代表者の増員に、俺は口を挟まないと伝えている。

 全員で決めたことは受け入れるとだけ伝えた。


 その他の組織手直しとして、俺から要望をだした。


「祭りも終わりましたので、皆さんに宿題をだします」


 全員が一斉に警戒する。

 宿題をだす教師の顔で、最初の課題をだした。


「2人の秘書を補佐する秘書補佐官が必要です。

筋力を使う仕事の割り当てが、少なめな女性を中心に選定してください」


 ミルとキアラはうなずいた。

 そのまま、俺はキアラを見た。


「諜報機関の活動方針を伝えます」


「はい、お兄さま」


「壊滅したであろう猫人族の調査、ただし疫病が収束したか不明なので、無理をしない方法での調査をしてください。

そしてドリエウスの勢力範囲外での地図作製。

他勢力の位置確認が必要になります。

計画立案と実施をお任せします」


 そして都市開発大臣のルードヴィゴを見た。


「都市開発省ですが、範囲が都市に限らなくなっているので、開発省に名称を変えます。

それと図書館の設立をお願いします。

文字が読めても使う機会がないと、余り意味がないのと、学習意欲が湧きませんからね。

娯楽の一つとしても必要です。

また、住民の知力向上も目的とします。

あわせて、代表者会議の議事録や布告文なども収蔵します」


 開発大臣のルードヴィゴが、ムンクの叫びのような顔になった。

 思わず吹き出しそうになる。

 せきばらいして、民政大臣のラボ・ヴィッラーニを見た。


「バイアへの定期馬車の設置を手配してください、ただの温泉町としても利用しますので」


 ラボは黙ってうなずいた。

 次にエイブラハムとトウコを見た。

 俺の視線を感じて、2人は背筋を伸ばす。


「元集落への移住許可をだします。

砦になっているので、そこを町のように整備してください。

有翼族は希望者がいないのと、もともと直接的な勢力圏でないので今回は見送ります」


 エイブラハムとトウコはホッとしたようだ。

 どうやら、希望は結構あったらしい。


 次に水産大臣ジョゼフ・パオリと開発大臣ルードヴィゴに視線を送る。


「港と町は、川でつながっているので、船を使っての水運の活用を目指します。

将来的に町にも、水路で荷物を運べるようにしたいです」


 開発大臣ルードヴィゴの顔が、ムンクから楳図かずおの漫画に出てくる人のような顔になった。

 笑いを堪えて、移民大臣オラシオを見る。

 オラシオは、そろそろ出番だろうと身構えていた。


「冒険者のリタイア組を受け入れるため、移民省に窓口を設立します。

ローザさんは顧問的な位置づけにとどめて、窓口はリタイア組の移民から選んでください」


 肩透かしといった感じでホッとしたらしい。

 一部は安堵したが、大多数が大量の宿題にうんざりした表情になっている。


 諸君、祭りの後は宿題が待っているものだよ。

 俺としては、このような形の意見は皆からだしてほしい。

 もう少し、代表者会議が大きくなったら考えよう。


                 ◆◇◆◇◆

 

 後日、最前線の砦から、報告があった。


 魔族からの使者がきて、遺体の回収と死んだ獣人たちの埋葬許可を求めてきたことだ。

 俺の指示どおり承諾したが、伝えるべき情報がでてきたと。

 死んだ指揮官は、族長の妹だ。

 必要なこと以外は話さなかったので、それ以外の情報は得られなかったが。


 聞いたときは、思わず渋い顔をしそうになってしまった。


 相手からの開戦理由としては、ありきたりの話だ。

 魔族と戦うにしても、方法はわからない。


 そして、既に俺たちは警戒されている。

 魔族の数は不明だが、魔物を抑えているなら、そこまで少ないことはないだろう。

 仮に勝った場合、魔物が押し寄せてくる可能性まである。


 駄目だ……情報がいる。


 不明なことを悩んでいても仕方ない。

 そして現在は考えられることが、実に少ない。


 魔族にしても、ドリエウスの領地を飛び越えて軍をだせるか。

 兵站でも大きな負担がかかる。


 そこだけは、明るい材料か。

 俺たちは平坦な道路で輸送力が高く、長期戦では断然こちらが有利。

 当面は、被害を抑えて、1人当たりの戦力を向上させるしかないな。


 そのあたりは、チャールズに丸投げしよう。

 うん、それがいい。


 悩んでいると、前回の勝利の影響が出てきた。


 別の部族が接触してきた。

 種族は魔族とのことである。

 デスピナのことがある。

 単純に……はい合流とはいかないな。

 どちらにせよ、会って話をする必要がある。


 ここに魔族がいたら、デスピナはここには来なかったろう。

 存在を知らないはず。

 知らないからと……夫妻の頭越しに魔族との話し合いをしたら、ジラルド夫妻は不信感をもつだろう。

 納得してもらえるかわからない。

 だが説明はすべきだと思っている。


                  ◆◇◆◇◆


 説明が必要と感じたのでジラルド夫妻を呼んでもらう。

 夫妻そろっての呼び出しは、何か特別なことがあるのだろうと察しているのだろう。

 少し緊張していた。


「いい話か悪い話か……わかりません。

ですがローザ夫妻に知らせるべきことがあります」


 2人がうなずいたのを見て、口を開く。


「魔族……と言っても、奥地にいる部族ではないようです。

われわれに接触してきました」


 魔族と聞いて、2人に緊張が走った。

 何か言いそうになった2人を、手で制して話を続ける。


「デスピナさんのことは、彼らに伝えます。

その上でわれわれと、手を結ぶのか確認します。

私としてはお二人に知らせないまま、話をすべきでないと思いました。

なのでわざわざ来てもらったのですよ」


 黙って、彼らの反応を待つ。

 夫妻はお互いを顔を見合わせ、うなずき合った。

 ジラルドが真剣な目で俺を見据える。


「以前に領主さまに言っていただいたことは信じています。

それは今までの行為からも正しいと確信しています」


 デスピナもジラルド同様に真剣だ。

 だが怒りや恐怖、嫌悪感は感じなかった。


「ですので、領主さまの判断に従います。

それと事前に、私たちに知らせていただいたことも、領主さまの誠意だと分かっています」


 内心ホッとした。

 トラウマが強ければ、拒否反応が自然とでるかもしれない。

 無条件に拒絶するほどではないか。

 内心の安堵は隠しつつ、俺は表情を改めた。


「信じていただいて……ありがとうございます。

改めて言います。

ご家族……当然お子さんも含めてです。

不当な扱いを受けることはないとお約束しますよ」


 夫妻は、頭を下げて出ていった。


                  ◆◇◆◇◆


 キアラが俺の隣にやって来てほほ笑んだ。


「やっぱりお兄さまはお優しいですわね」


「いえ、最初に誓約したことを守っただけですよ。

優しいわけではありません」


 ミルとキアラが、顔を見合わせた。


『『ハイハイ』』


 と実に、心のこもってない返事をしてきた。

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