173話 Boar Letter

 兎さんとの合流前に決めておきたい話がある。

 ずっと続いていたイノシシとの触れ合い。

 俺もそうだが……みんなウンザリしている。

 イノシシの話を終わらせる方向で話をする。


「皆さんもうゴールしたいでしょう」


チャールズが苦笑した。


「可能ならすぐにでも手切れにしたいですな」


 公衆衛生省新設でキリキリ舞いしていて、疲労困憊のアーデルヘイトはつぶやいた。


「もう、ゴールしていいよね……」


「明確なゴールに向けて進むとしましょうか。

夢にイノシシがでてくる前に」


 先生がうなだれる。


「もう……遅せぇよ」


 チャールズが俺を見て苦笑した。


「で、その蜃気楼のゴールをどう具現化するのですかね」


 ゴールが見えればまだ気持ちの持ちようも変わるだろう。


「すぐではないですが、明確には見えています」


 先生がさっさと言えと言わんばかりだ。


「で、どうするんだ」


「イノシシが別の部族にも追い立てられているようです。

連携できないかと思っています」


 連携手段に心当たりがないキアラは首をかしげる。


「耳目からの報告はまだですわよ」



 俺は詳細の説明をする。


「同じことをしている相手がいます。

こちらの存在を知らせれば接触しやすくなるでしょう」


 先生は気が付いたようだ。


「つまり、イノシシを追い立て合うのか」


 チャールズが遠い目をする。


「メンヘラ女を押し付け合うような感じですかな……」


 過去にあったのかよ!

 イノシシはメンヘラではないのだが……。

 先生が珍しくノリ気。


「俺も手伝うわ」


「珍しいですね、先生がそこまでやる気を出すのは」


 先生が白い目を向けてくる。


「坊主は他のことも考えているからマシだ。

俺は便利屋だ……つまりな」


 先生が身を乗り出す。


「イノシシの話だけしか来ないんだよ!!!!!!!!!」


 あ、なるほどと思っているとさらに突っ込まれる。


「坊主……今気が付いたろ……」


 俺はせきばらいしてごまかす。


「過去は振り返らずに、未来を見ましょうか」


 アーデルヘイトとマガリ性悪婆から白い目で見られている気がする。


「別部族と連携してイノシシを駆除します。

2方面から実行すれば効率も上がるでしょう

追い立て方としては旧農地を奇麗にします。

すべてを焼き払う必要はありません。

適度に炎で追い立ててください」


 チャールズが確認をしてくる。


「ひたすら追い返せばいいのですな」


「イノシシのお手紙を2、3通やり取りすれば、向こうから接触をしてくるでしょう」


 黙っていたトウコが俺に向き直る。


「こちらから接触はしなくていいのか?」


「可能ならそれがいいのですがね……相手の位置がつかめていないのです。

ですから派遣しようがないのですよ」


「探せばいいのではないのか」


 可能ではあるのだが……俺は腕組みした。


「今、イノシシが暴れているので、危ないのですよね」


 トウコは今一納得がいかないようだ。


「しかし、こちらから先に接触した方が、情報は多く得られるのではないか?」


 いい所ついてきたな。

 せっかくいい意見がでたのだ。

 皆にも実現方法をきいてみよう。

 俺の独断で決めても成長しない。

 俺頼りが加速するだけだからな。


「確かにそうですね……位置をある程度特定できないでしょうかね」


 オラシオが口を開く。


「部隊を派遣する距離を伸ばせば、いいのではないか?」


 それだけだと足りないな。

 マガリ性悪婆がため息をついた。


「やみくもに派遣しても無駄さね。

翼付きとニャンコもつれて、周囲を調査した方がいいだろうね。

連中の調査能力はアタシが保証するよ」


 あと一声!

 キアラがしばし考えていたが、何かに気が付いてポンと手を打った。

 全員がキアラを見る。


「子供たちが、地図の修正をしているではありませんか。

この地方の地図作製と組み合わせて、調査隊を派遣すればよろしいのでは?」


 さすがキアラ、よく気が付いてくれた。

 一同は名案だと思ったのだろう。

 素直にうなずいた。


 キアラが採点を期待する生徒の目で俺を見た。


「お見事です。

申し分ありませんよ。

ルードヴィゴさんが主導して、ロッシ卿と相談の上で地図の作製を進めてください」


 キアラ、フンスと胸を張る。

 ミルはちょっと悔しそう。

 そんな張り合わなくていいよ……。


 トウコが話をまとめるように口を開く。

 いつになく積極的なのはイノシシにウンザリしているのだろう。


「その調査隊には他部族との接触も任せるわけだな」


「ええ、調査手順は一任します」


 ようやくゴールが見えてきたのか、一同はほっとしたようだ。

 やっぱ……飽きるよね。

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