172話 バニーさん取扱説明書

 1カ月後に、残りの400名ほどのバニーさんたちが移住することになった。


 それに関連して、食料の調達もかねて、イノシシ退治を無理のない範囲で拡大する。

 市民の軍事訓練の実戦としても利用した。

 兎人族の中に、5名も、回復魔法の使い手がいたので、軍事訓練の治療を担当してもらう。

 コミュ障なので慣れるまでに、少々かかったが……。


 ただ、その分イノシシの処理は得意だったりして、狩りの効率は大きく上がっていた。

 いい加減、イノシシを忘れたいのですけど!



 そんなイノシシまみれの中チャールズが、俺に報告に来ていた。

 イノシシの数が、俺の想定より多いとの報告を受けている。


「ロッシ卿はどう見ます?」


「どうやら、追い立てられているようですな」


「つまり、奥の部族がイノシシを追い立てているわけですね」


「でしょうな。

御主君と同じ方法で追い立てているかは謎ですが」


「耳目の報告待ちですかね……」



 話題を変えるかのように、チャールズが身を乗り出してきた。


「軍事訓練で同行している兎人族から、興味深い提案がありましてな」


「何でしょう」


「家畜化してはとのことです」


「兎人族はできると言っているわけですね」


「ええ、あとの判断はお任せしますよ」


 チャールズが退出したあとで、俺は腕組みして考え込んだ。



 確かに、豚はイノシシが家畜化したものだな……。


「ミル、キアラ。

どう思います?」


 単純な話で、俺から意見を求められた2人は顔を見合わせた。

 2人の暗黙の了解か、ミルから口を開く。


「いいと思うけど……、何か考えているの?」


「いえね、私の想定より、イノシシの成長が早いのですよ。

制御しきれるのかな……と」


 予想外の効果で慎重にならざる得ない。

 キアラは、少しだけ考え込む。


「イノシシの餌って足りるのでしょうか」


 なるほどね。


「餌の確保が可能かと……。

ミル、アデライダさんを呼んできてください」


「ええ」


 俺は、腕組みしたまま考え込んだ。


「イノシシの押し付け合いですか……」


 キアラも、困惑気味に苦笑する。


「数が多いですからね、ここまですごい影響がでるとは驚きですわ」


 俺は、頭をかいてボヤいた。


「自然の力をなめていましたよ……」


 転生前より自然の影響が、早く大きくでる。

 本当は別部族と共同作戦で、一斉に駆除したい。

 一方からだけでなく、同時にたたかないと時間がかかる。

 何とか影響範囲を広げつつ、他部族との連携を期待したい。


 いつもの思考モードに入っていると、キアラに頰をつつかれた。


「どうかしましたか?」


 あきれた表情のキアラ。


「アデライダさんがもう来ていますわ」


 おっと……。


「ああ、アデライダさん。

実はお聞きしたいことがあるのです」


 アデライダさんは、何かの仕事を期待しているようだ。


「何でしょうか」


 兎人族は、社会での立場が明確でないと不安になるようだ。

 それを放置すると、コミュ障が丸出しになる傾向がある。

 スタンピングや歯ぎしりをしたり……。

 部屋の隅っこにうずくまるなどもするらしい。


 縄張り……つまり社会での立場を与えると、普通の受け答えができる。


 そんな兎人族の中では、一番柔軟で対話能力に長けているのがアデライダだ。

 そんな彼女はすっかり気に入ったのか、代表者用のショールを常時つけている。

 会議のときだけで良いとは言ったのだが……。

 これもテリトリーを主張する行動なのかもしれない。


「イノシシを家畜化しては……と、軍事訓練中に、兎人族の方から提案がありました」


「ああ、そうですね。

こちらで家畜化していないのは、何か理由があるのかと思っていました」


 実はそこまで考えていなかった。


「いえ、家畜化まで発想が至りませんでした。

持続可能な家畜化は可能でしょうか」


「はい、残飯でも排せつ物でも食べますので、掃除係として家畜化していました」


 元が同じだから、豚と似ているのか。


「野生をいきなり家畜化して大丈夫でしょうか」


「残りの兎人族が家畜化したイノブタを連れてきます。

交配すれば豚と、ほぼ変わらなくなります」


 実は兎人族は内政特化のエキスパートなのかな。

 扱いは難しいが実に優秀だ。


「アデライダさんは農林省勤務でしたね」


「はい」


「畜産部を新設してください。

まだ仕事にありつけていない兎人族をまとめて、お任せしてよろしいでしょうか」


 アデライダさんは、パッと目を輝かせる。


「領主さま直々のお命令、喜んで務めさせていただきます!」


 俺からの指示をうれしがるのが、何とも珍しい。

 もしかして……一定期間放置していると、実際の兎のように寂しくて死ぬのではないだろうな。


 取扱説明書をつくらんと駄目か?

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