170話 失策のツケ

 各省庁の幹部入れ替えの希望が出てきた。

 確かに、編成に偏りが多い。


 情けない話だが、そこまで頭が回っていなかった。

 防疫と公衆衛生ばかり注意がむいていたのだ。


 人材は移民省に、族長クラスが偏っている。

 更に、無任所の人材も結構いる。


 痛恨の失策だ……。

 失策を取り返すなら一気に全部やってしまえと、組織の手直しを発表する。

 白い目で見られるのは1回で済む。


「では省庁の編成の原案を、私から出します。

法務部を民生省の1部門として追加し、法律の整備運用を担当します。

エイブラハム・オールストン殿を部門長に任じます」


 エイブラハムは、当然といった感じでうなずいた。

 学問よりこちらのほうが、本人の希望に添うだろう。

 そして何げない顔で続きを発表する。


「プランケット殿は法務部顧問を兼務。

ミロ・クヮルトゥッロ殿を法務部の副部門長に。

プランケット殿はオールストン殿の補佐をお願いします」


 ミロ・クヮルトゥッロはマガリ性悪婆が連れて来た護衛の一人だ。

 ミロは代表者会議には出ていないが、次回からは出席してもらう。


 法律の原案制定で、マガリ性悪婆の手伝いをしていたので適任だろう。

 そんな俺の思いを、よそにマガリ性悪婆が白目をむいていた。

 ちょっとやり過ぎたか。


 そろそろ攻撃は止めておこう。



 俺はせき払いをして、次の部署の話をする。


「警察部を騎士団の補助組織として新設します。

トウコ・プリユラ殿を部門長に、エルネスト・アザール殿を副部門長とします。」


 最近気がついたのだが……。

 トウコは脳筋だが、実は結構頭もいい。

 情に厚いのはいいのだが……。

 情に偏り過ぎないように、エルネストを下につける。

 エルネストは冷静沈着で、筋を通すタイプなのでちょうどいいだろう。


 トウコは自分が適任と思っていたのか、黙ってうなずいた。


 一呼吸おいて、残りの話をする。


「建築省の下部組織で、科学技術部を新設し、

新たな技術の開発、既存技術の改良を担当します。

ここはオニーシム・アレンスキー殿が兼務します。」


 オニーシムはむしろ、科学技術部に専念したそうな顔をしていた。

 そうしてあげる余裕がないのだよ。


 せき払いして、最後の話を付け加える。


「兎人族は去就が不明なので、保留とします。」


 人の異動だけかと思ったら、部が増えて、皆げっそりした顔をした。

 先生が嫌そうな顔をして挙手した。


「坊主……もうないよな……」


 あと一つ前々から言っていた話があるのだよ。


「読み書きを教える人が増えたら、デルフィーヌ・マシア・メルキオルリ婦人をトップにして教育省をつくります。

まだ人が少ないので将来の話ですけどね。

今のところはそれだけです」

全員が天を仰いだ。


「まずはこの形で、体制を落ち着けましょうか。

担当範囲が広すぎる場合は、任意に部を新設して構いません」


 先生が、疑わしい目で俺を見た


「坊主が仕事を増やさなければな……」


 全員うなずいた。

 ま、まあ、否定はできない……。


 その空気の流れを変えようと、キアラを見る。


「キアラ、耳目のほうは編成できましたか?」


 キアラは待っていましたとばかりに胸を張った。


「ええ、基本的な編成はできましたわ」


 上出来だね。


「最初の仕事を頼みたいのですよ」


「ええ、子供たちの出番ですね」


 いや、名前が違うし……と思ったら、ミルが立ち上がった。


「ちょっと! その名前止めなさいよ!」


 キアラはプイと横をむいた。


「お兄さまとの間に、子供がいると妄想くらいしてもいいじゃないですか」


 ミル以外の出席者は、露骨に目をそらしている。

 この空気が居たたまれない。


 ミルはキアラを指さした。


「や・め・な・さ・い」


 キアラがため息をついた。


「仕方ありませんね。

調査は何をすればよいでしょうか」


 脱線が続かなくてホッとした。


「イノシシの群れとぶつからないように、周囲の動向を探ってほしいのです」


 キアラはすこし怪訝な顔になる。


「魔族はよろしいので?」


「距離があるので、まだ結構です。

イノシシが落ち着いたら開始しますよ」


 キアラが、力強くうなずいた。


「わかりました。

しっかり情報を集めてみせますわ」


「張り切るのはいいですが……」


 キアラに遮られた。


「勿論、無理はさせませんわ」


 チャールズが、身を乗り出した。


「早いうちに、手を打てるようにしたいのですな」


「ええ、プランケット殿は情報を持っていないでしょう」


 マガリ性悪婆が、白目から黒目に戻った。


「そうさね……。

ちょっと距離があるから、お互いが存在する程度しか知らないねぇ」


「では他部族の、大体の位置をキアラに伝えてください。

ロッシ卿、イノシシを本格的に減らすので、宿営地を複数構築します。

われわれの影響範囲を、元狼人の里まで広げてください」



 チャールズが、アゴに手を当てた。


「帰順していない猫人は、放置でよろしいので?」


「ええ、以前つくった宿営地を要塞化してください。

近づいてくる猫人は、接触せずに追い払うように。

下手に接触すると、病気が広がりかねません」


 さすがに、アーデルヘイトは黙っている。

 そこでオラシオが挙手する。


 俺は、黙って発言を促す。


「兎人がわれわれに協力を申し出ている。

われわれが慌ただしいのを見て、気になっているらしい」


「では、明日私が直接伺います」


 本音を言えば、今後1年は、落ち着くまで待ちたい

 でも、今までのパターンから決して落ち着かないのは予測できる……。

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