106話 報復の論理

 手を付けなければいけない問題が有る


 猫人、有翼族、人間に対する対処。

 敵対行為に至ったのだから、方針自体は決まっている。

 具体的な対策の決定になる。


 この件に関して、軍事部門に加えて各種族の代表を招集した。

 戦いの話か、と緊張する一同に俺は軽い調子で口を開く。


「代表者も増えてきました。

そろそろ代表者と分かる目印が欲しいですね」


 俺がいきなり無関係なことを言い出して、皆の目が点になる。

 キアラが、俺の意図をつかみかねたようだ。


「お兄さま。

なぜ、それをここで?」


「それは、全種族がいるからですよ」


 本題が重たい話だから、その前に雰囲気を軽くしたいので言っただけだが。

 チャールズが茶化すように笑った。


「確かにそうですな。

では本題に入る前のウオーミングアップで、その話からしますか」


 ああでもない……こうでもないと、意外と盛り上がる。


 そんな中、やはり女性のセンスがここでは勝る。

 キアラの提案で、大枠が固まった。


「肩にかける色付きのショールでいいのではありませんか?

模様も何か縫い付ければ良いでしょう」


 問題は色だ。

 この色が紛糾した。

 各種族で、高貴な色の概念が違うのだ。

 これは困った。


 そうなると、俺に一任。

 デスヨネー。


 古代中国では、黄色が皇帝の色。

 黄色は虎人族の毛に多いからダメだな。


 古代ローマは紫。

 しかし、紫の染料なんて有ったかな。

 確か赤紫色だったか……実際には。

 幸い、領地は海沿いだ。


「このあたりに、巻き貝は生息していましたっけ? 赤紫色の染料が取れるような」


 チャールズが、首をかしげた。


「そんな色有りましたかな?」


 先生が補足してくれた。


「昔の文献には有ったが、使徒が紫を好まなかったから廃れたな」


 あ、危ねぇ……つい、うっかりだ。

 気を付けないとダメだな。

 どうも、仲間に囲まれて油断していたらしい。


「可能ならその色にしましょう。

先生、よろしくお願いします」


「やれやれ、坊主が何か言い出すとロクなことがないな。

分かったよ、調べてみる」


 ウオーミンクアップも済んだろう。

 俺は、真面目な顔に戻る。


「では、一応の結論がでたところで本題に入りましょう」


 チャールズがアゴに手を当てる。


「襲撃者への対処ですな。

大方針を決めてください」


「猫人は交渉中の不意打ちとみなし、徹底的にたたきます。

他の部族は、自衛のための防衛とみなして交渉に当たりましょう」


 自衛と聞いたトウコがうなった。


「攻めてきたのに自衛だと?」


 さすが、脳筋。

 殴られたら即座に敵と判断だな。

 万事控えめなエイブラハムが、少し首をかしげている。


「われわれは新参者なので、判断基準をお伺いしたい」


 そうだな。

 判断基準を提示しよう。

 反対されることもないはずだ。


「私は危険を感じて、戦いを挑むのは悪いことだとは思っていません。

むしろ、何もせずに被害を増すだけの方が悪いと思っています。

ただし、だまし討ちは許しません」


 エイブラハムは、まだ首をかしげたままだ。


「何となくは分かりました。

もう少し踏み込んでお伺いしても?」


 そうだな。

 明確に聞いてくれた方が、俺の言うことだからと納得されるより……ずっと良い。


「まず敵か味方でないなら、こちらは攻撃に備えられます。

そこで不意を突かれたからと言って、卑劣と相手を非難するのは愚かというものです。

そのとき、恥じるのは不意を突かれた方です。

それにこちらから、先制もできます。

どっちが先に、手を出すかだけですから」


 チャールズが苦笑しながらうなずいた。


「そうですな。

攻撃されるまで何もせずに、犠牲を増やすのも馬鹿な話ですからな」


「ただし交渉中であれば、こちらから攻撃はしない。

相手から一方的に、攻撃が可能なのです」


 エイブラハムは、まだ首をかしげたままだ。

 結構理屈っぽいのかな。


「その場合でも交渉中だから……と言って警戒しないのもどうなのですかな」


 当然そのケースについても、説明をする必要が有る。


「余り警戒しすぎると、交渉の意図を疑われますよ。

したがって警戒は、最低限となるでしょう。

交渉事は相手を信用する部分も見せないと、そもそも話が進みません」


 エイブラハムも有る程度納得したようだ。

 首が真っすぐになった。


「確かに。

おっしゃる通りですね」


「交渉すると見せかけて、不意打ちを狙う。

これは非難して相手をたたきつぶしても、誰も文句は言わないでしょう」


 エイブラハムが首を縦に振った。


「ふむ……確かに」


「われわれがそのような、卑劣な手段を取っていたらです。

貴方達は


 エイブラハムが心底納得したようにうなずいた。


「領主さまの目的は、この地域の種族を統合することですな」


 力ずくでは考えていない。

 だが可能なら、そうしたい。

 俺はエイブラハムに同意のうなずきを返した。


「可能ならそれが一番良いでしょう。

ただし、無原則に寛容では味方になるときに不安でしょう。

ですので卑劣な行為には、それ相応の報いを受けさせるべきなのです。

無原則に相手を許していたら、実際に戦う人たちを無駄な危険にさらすことになりますからね」


 このあたりの話は、彼らにとっても自然な話だろう。

 全員がうなずいた。

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