第101話 閑話 割るのは好きだが、ばら撒くのは面倒
久々に実戦で、魔法が使える。
アタシ、シルヴァーナはちょっとワクワクしている。
アルは殺し合いで、味方の被害をすごく気にしている。
貴族なのに変な価値観の持ち主だ。
特に子供が、戦場に出ることを嫌う。
神経質すぎると思う。
そりゃぁ幾ら死んでも数で済ませるヤツより、ずっと好感もてるけどさ。
でも、あれじゃ何時か壊れてしまうよ。
死が簡単に起こる世界なのに、その簡単を受け入れない。
ミル、面倒臭いヤツに惚れちゃったねぇ。
惚れたのか魅了されたのか分からないけどね。
あそこまで、人のことを愛せるのもすごいなと思う。
ミルの熱愛ぶりはすごいから。
それを嫌がりもせずに全て受け止めている……アルも大したものだとは思う。
アルの生き方は、この世界には合わないのだけどね。
さすがに考えすぎて、オカシくなることはないと思う。
周りの人を傷つけることは、絶対にできないタイプだからね。
平和なときなら、旦那様としては理想的かもしれないなぁ~。
価値観の違いですれ違わなければだけど。
◆◇◆◇◆
指定された場所でアタシと待機している童貞ファビオのヤツが、面倒臭そうに遠くを見ている。
「坊主の予想どおりか」
空を飛んでいるのが40人くらいかな。
地上は……分からないな。
それなりにいるけど分散している。
固まっていれば、1発でドカーンなのだけどさぁ。
手数で勝負かな。
森を切り開いて、外敵の襲来を察知しやすいようにしている。
おかげで木材が余りまくっているのだけどね。
そんな敵襲なんて……滅多にないでしょと思っていたけど。
そんな真面目に伐採して何の役に立つのかと思ってたわ。
でも……これを見て分かった。
めちゃくちゃ捕捉しやすい。
「ちゃんと空のヤツは止めてよ! 空のことは考えないからね!」
童貞ファビオは全くに似合わない仕草で髪をかき上げる。
「大丈夫だ。
あの仕掛けがなくても吹っ飛ばせる。
俺に惚れるなよ?」
コイツは空気読めないだけじゃなくて、会話センスもがない……。
「何……馬鹿なこと言っているのよ」
童貞ファビオは余裕綽々のようだ。
コイツの実戦での力は知らないけど、アルが任せるくらいだ。
足を引っ張ることはしないでしょ。
アルは人の起用に私情を挟むことは絶対にしない。
あの目利きはとても信用できる。
「坊主は仕掛けが決まれば、突如飛べなくなって有翼族はパニックに陥る。
そこを叩けと言ってたな」
「アルはおとぎ話の大賢者みたいだと、ミルは言っていたわね」
童貞ファビオがフンと鼻を鳴らした。
「16歳の大賢者なんて、御免だね。
ガキに説教されてみろ。
格好悪いにも程があるだろ。
さて……俺の出番は、さっさと済ませるか」
◆◇◆◇◆
有翼族対策の席上で、唐突にアルが子供の頃の話をした。
魔法で飛ぶ使い魔が、何で飛べるのか……いろいろ試していたらしい。
興味の持ち方がオカシイでしょ。
そして、気が付いたことがある。
使い魔は魔力で飛んでいるけど、大きい川は飛べなかったと。
水深が深いところで墜落したから飛ぶことと、地面と何かの関係があると。
そして地面なら、必ず飛べるのかといろいろ試したらしい。
地面と使い魔の間に、いろいろ挟んで飛べないものがあるのか。
それを片っ端から調べたそうだ。
繰り返すけどさ、興味の持ち方がオカシイでしょ。
そんなことを、ホント楽しそうに話すのよ……。
そこでガラスの上だと、極端に飛びにくくなったらしい。
ガラスを砕いて壊してばらまくと、飛べはするがかなり飛びにくい状態になった。
あのとき初めてアルのドヤ顔を見たわ。
アンタ何をやっているのかと。
ガラスってとても高いのよ……さすが大貴族のボンボン。
そして、有翼人も飛ぶ原理は一緒のはずと言い出した。
大きな川を渡った話とか一つも聞かない、ましてや海も渡った話もない。
ドラゴンとかはまた違う原理でしょうと。
これまた楽しそうに話した。
そんな顔は16歳だったけど。
みんなあきれて、ドン引きしていたわよ。
そして建材用や破棄されていたガラスを集めて
1人で何か変な歌を歌いながら、楽しそうに割っていた。
『夜の校舎、窓ガラス 壊して』なんたらだったかな。
全く意味不明だった。
たまに意味不明だけど、今回は極めつけだった。
しかも今昼でしょ。
割る枚数がとても多かったけど……ストレス発散とか言って、誰にもやらせなかった。
足りなくなると、既にある建物からも外していった。
もう、皆が見ないふりをしていたわ。
最後にとんでもない量の破片を指して、指示だけしてどっか行っちゃった。
『これを町の外周に。
そうですね……敵が飛んでくる方面に、幅3メートル程度で線を引くようにばらまいてください。
線を引く場所は、防御施設からこっちの攻撃が届くギリギリの位置です』
割るのは好きだが、ばらまくのは面倒だったようだ。
敵の飛行部隊を無力化させるつもりらしい。
たまについていけなくなるのよね……あの発想に。
そう思っている間にも、敵が迫っている。
◆◇◆◇◆
矢を射かけられたけど、遠すぎる。
簡単に風の壁ではじくことができるわ。
壁で防御が困難な位置まで飛行してきた有翼族。
ガラスのラインにさしかかった瞬間だ。
有翼族の飛行高度が突然落ちて、あいつらはパニック状態になった。
そこに獣人の矢が降り注ぐ。
接近してきたから、地上から弓を射ても当たる。
童貞ファビオ変にポーズをつけて、雷撃魔法を打ち込んだ。
アンタが格好つけても間抜けなだけだから。
格好はともかく、ほぼ1発で壊滅。
結構やるじゃん。
上級一歩手前の威力だわ。冒険者でも上位にいける。
それにしてもアルって、ホント怖いわ。
それを見て地上の猫人と人間も動揺したが、突撃はやめなかった。
騎士団の従卒が、前面に出て距離のある敵は獣人の弓。
そしてアタシの魔法で、盛大にドカンと吹っ飛ばした。
やっぱ、魔法は爆発に限るわぁ……。
悲しいけど、土木工事で地面を吹っ飛ばすこともさせられた。
それを実戦に応用して、接近しようとする敵の足元を堀り返す。
そこに矢が飛んでくる。
獣人たちの腕前もけっこうなものだわ。
敵はまともに進むこともできない。
アタシが無作為に地面を掘り起こす。
飛び散った土が目潰しにもなる。
今まで散々やらされた地味な作業の恨みを今……晴らしてやるわ。
それをかいくぐっても従卒が立ちはだかる。
敵も必死に攻撃するし、矢も飛んでくる。
殺し合いなのだけど……魔物討伐と変わらない。
変わらないと思わないとだめ。
アルのように躊躇していたら、こっちが死ぬ。
だけども、今回は敵の攻撃が思うように行かなくて一方的だった。
アルの準備ってすごいわ。
冒険者だったら、めっちゃ有能なリーダーになりそう。
ああ……だめね。
体力なかったわ。
◆◇◆◇◆
被害は出たけど、2時間程度の戦いで、ほぼ決着はついた。
有翼人の飛行を妨害したときには、勝負はもう決まったって感じ。
生真面目そうな騎士のジュール・ダヴォーリオだったかな、戦闘が終わったら手勢を率いて慌てて屋敷に向かっていた。
屋敷に襲撃があったらしい。
屋敷の襲撃があるかもって、アルは指摘していたわね。
他人の心配はするけど、自分の心配を全くしてないのよね。
ミルの魔力はそこまで強くない。
心配だったけど、アルが無策とは思えないし信じるしかないわね。
それに、襲撃が成功したら敵が知らせに来る。
静かなのは失敗したのだろう。
それより、けが人の手当てを急がないとね。
「童貞。
アンタは周囲の警戒をしといてよ! アタシは負傷者の治療を手伝うわ!」
「頼んだ!」
臨時の病院で、数多くの負傷者の治療を手伝った。
冒険者だから、その手の手当ては必須科目。
回復術士なんてそうそういないからね。
けが人の中に、狼人族の女の子がいた。
他の子供をかばって、背中に矢が刺さったらしい。
重症だけど助かりそうだとのこと。
それでもアルが自分自身を責める表情が浮かんできた。
周囲に当たり散らしてくれた方が、ずっと楽なのよ。
そうしないで、自分で抱え込んで自分を責める。
そんな光景を想像して……すごく憂鬱な気分になった。
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