第23話 様式美という名の手抜き

 次の日の展示会も前回とほぼ変わらなかった。


 つまり特筆すべきことはなし。 

 以上。


 そして第3使徒の拠点に向けて移動中、気になったことを先生に確認しよう。


「先生、もしかしてずーーっとこのパターンです?」


「パターンとは?」


「昔は機械が動いていた。

使徒はすごい。

教え守らない子孫は愚か」


 先生が心底呆れた顔になった。


「多くの人が感動する巡礼を、たった3行でまとめるなよ……」


「あー、アタシもそれを聞きたいな。

思ったんだけどさ、変なのよね」


 先生が喪女シルヴァーナにスケベオヤジのようなニヤニヤ笑いを向ける。


「服がか?」


「ちゃうわ! 巡礼を始める前ってさぁ……。

使徒さまの歴史に触れて、お近づきになれる気がするー! ってワクワクしていたのよ」


 普通はそうだな。

 俺も同意のうなずきを返す。


「皆そうなんでしょうね」


 喪女シルヴァーナが腕組みした。


「何かさぁ……今だとアルが言ったみたいな感じ。

ずっとこれの繰り返し? そう思っちゃったのよ。

どこでどう気が変わったのか分からないけどさ」


 視線を背ける先生。


「まあ様式美みたいなものだと思ってくれ…」


「つまり同じと。

手抜きの使い回し劇を見せられている気分ですね」


 先生は露骨に呆れた表情になる。


「今まで、何度か巡礼の旅の付き添いをしてきたがな。

そんな反応するのはおまえらが初めてだぞ?」


 難しい顔をしていた喪女シルヴァーナが、何かに気が付いたような表情になった。


「となると……アルの冷めた無感動巡礼に、アタシが汚染されたってこと?」


「別に冷めてもないです。

無感動でもないですよ」


 2人が俺に白い目を向ける。


「「いや、無感動だろ」」


 マズい、このままでは犯人にされる。


「異議を申し立てます」


「「却下」」


 切ない。


「シルヴァーナさん。

人のせいにするのは良くない。

勝手に外部に影響されるのは、あなたの関心もその程度だったのです」


「むぐ……いや、そんなことはない……と思う」


 ここで犯人にされてはたまらない。 

 この2人に弱みを見せたら危険過ぎる。

 酒の肴にされる悲惨な運命が待っている。


 巡礼を初めてまだ2カ月、後4カ月ネタにされ続けたら? 冗談ではない。


「もともとシルヴァーナさんは使徒と懇意になるため、巡礼をしているのですよね。

最終的な目的がそれでしょう」


「それは……そうだけど」


「この巡礼は、使徒の業績をなぞって尊敬の念を高めるためのものです。

つまり、最初から目的が違うのです」


 俺は尊敬なんぞしてないがな。

 喪女シルヴァーナが露骨にひるんだ顔になる。


「げふっ」


 俺が原因というワードを避けて追撃しきるしかない。


 ここは攻勢有るのみ。

 本当の弁護士とかいたら一蹴されるが、相手も素人だ。

 イケるはず。

 俺はゲームの弁護士のように指を突きつける。


「なので最終的にはシルヴァーナさんの心の問題です! 悔い改めなさい!」


 喪女シルヴァーナがたまらず、先生に救いを求めるような表情を向ける。


「ちょっとぉぉぉ童貞! 何とかしてよぉぉぉぉぉ!」


 先生は賢明にも争いを避けた。

 肩を落として小さく首を振った。


「すまん、昔から口論で坊主に勝てたことがないんだ……。

こいつ怖いくらい人の弱点を正確について理詰めで攻撃してくるんだよ……」


「薄情者ぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 何とか守りきった。


 とはいえ、この視点はなかったな。

 やはり他人の視点とは思考に活力を与える。

 使徒って人の精神に影響を及ぼすことができるのだろうか。


 ちょっと行き詰まってきていたし、気分転換に話を飛躍させてみるか……。

 理論にこだわり過ぎて、手詰まり状態になっているしな。

 そもそも、理論に偏り過ぎている気がする。

 俺の悪い癖だなぁ。


 根元に立ち返るか。

 神とやらは物理的な干渉はできないが、精神や魂には干渉できる。

 そいつから力をもらうことは、精神面に影響を及ぼせる。

 しかも無意識にか。


 正解だとしたら、こいつはかなり厄介な話だな。

 ただ没後に周りが駄目になるってことは、何かしらの影響は有るんだろうな。

 鉄道のようにノウハウがないものは本来運用できない。

 それが使徒存命中はできるようになっている。

 いなくなると、誤魔化すことができなくなる。


 使徒の力が及ぶ間は、伝授された知識を上辺だけでも使えるのか。

 運用ノウハウなんて、腕力とか魔力と違う類いのものだしなぁ。

 失敗の細かい事象が分かれば良いのだが。


 やっぱり現場証人がほしい……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る