第11話 適者生存

 2匹のヒドラとの闘いから痴女シルヴァーナの衣装代金を殿として、撤退に成功後の翌日。


 酔っ払って2人が忘れていると良いなと期待しつつも、部屋から出て下に降りる。

 残念ながら、笑顔の痴女シルヴァーナが下で待ち構えていた。


「素敵なセンス期待しているわよ」


 そして口調がすっかり砕けていた。

 俺は内心ため息をしつつ、諦めた表情をする。


「では、魔法防具屋に行きますか」


 ちなみに先生は「変態はダメ、アタシの貞操が危機になるから」と言われ、ショックを受けたらしい。

 昼間から酒を浴びている。

 そりゃ、あんなこと力説したらねぇ……。


 防具屋は戦士系と魔法使い系で、素材が大きく異なるので2系統になっている。

 そして今更ながらに思いだしたのだが、この世界の服は異様に発展している。


 巨乳用の胸元の開いた服。

 女性用は現代の女子高生の制服みたいな短いスカートばかり。

 デザインも不思議とそれに近い。

 近代に出来上がったはずのパンストまで既にできている。

 下着のバリエーションも現代顔負け。

 理由は簡単、その方が使徒の好みにあって選ばれやすいから。


 適者生存。


 世界の仕組みも、服装の趣味も使徒のためにすべて適応している。

 技術的に難しくても、魔物の素材やら何やらで無理やり素材を作っているらしい。


 どんなに飢饉が発生しても、このような衣装が重要なクレイジーな世界である。

 何百人餓死しようとも、使徒を取り込めればお釣りが来るときたもんだ。


 『1000人分の食より使徒の気を引ける服装1着だ』そう言い放った王もいたらしい。


 ただし、ダメなことばかりではないのが性質の悪い話だ。

 使徒降臨があるので、各国が大規模戦争を行えなくなった。

 使徒の恋人が占領地の出身だったりすると、使徒が力技でリセットするケースもあったらしい。

 おかげで戦争はデメリットが大きくなり、発生しても小競り合い程度ばかりになっている。

 そのせいで封建制度の意味がなくなって、面倒なことになってはいるがな。

 将来の大乱より目の前のやることに注意を向けよう。


 ちなみに魔法使い系の防具は通常のファッションをベースとした服を選び、そこに魔法の溶液や飾りなどでエンチャントをする。

 服屋と提携して、最後のエンチャントだけする店もある。

 このような感じで使徒の好みに合うようにデザインしつつ、防具として成立させるように技術が結集されている。


 残念なことに近くに職人がいなかったので、理論までは調べられていない。


 しかし困った。

 転生前ですら女性の服を買った経験なんてない。

 仕方ない。

 道中で本人に探りを入れるしかないな。


「キティさんは、自分の魅力はどこだと思います?」


 痴女シルヴァーナが驚いたようだが、馴れ馴れしい態度はブレなかった。


「ちょ、いきなり……もう一緒に、情熱の夜を過ごした仲なんだし……シルヴァーナでいいわよ」


 俺はさらにうんざりした表情になってしまった。


「情熱どころか、ねっとりとシルヴァーナさんが酔っ払って絡んだだけでしょうに」


 砕けた口調を許すのは俺の方だと思う……それとあれ忘れたいのだが。

 あの執拗な追撃戦は、ロシア遠征に失敗して撤退するナポレオンの気分だった。

 とはいえ、そんなことで目くじらを立てる気もないので放っておくことにする。

 俺は不思議と、あからさまに図々しい人間には腹が立たないのだよな。


「自分のアピールポイントを知らないでどうやってアピールするんですか?」


 悔しそうな顔をするシルヴァーナ。


「ぐぬぬ、みんな胸の話ばかりするのよね。

だから胸以外でアピールちゃんとできるようなコーディネイトをお・ね・が・い」


 この丸投げは危険。

 希望を言わないで、結果だけを見て文句を言われたらたまらない。

 転生前であるあるだった話。

 人はエスパースキルを無意識に要求するものだ。


                  ◆◇◆◇◆


 目眩を感じながら、騎士団経営の防具屋に入る。

 なぜなら品揃えが段違いだからだ。


 店員に迎えられる。


「いらっしゃいませ」


 客はそれなりにいるようだ。

 どのみち文句を言われるなら適当でいいか。

 この痴女シルヴァーナは細身だから、細身をアピールして胸元を出さないか……と考えていた。


 だが、そんな気遣いを粉砕する陽気な声がした。


 「あーこれ! 可愛いわね~! これなんてどう?」


 勝手に選び始めた。

 この流れは逆らっても無意味だ。

 もう露出が高いのだけ避けるようにして、首を縦にふればいいだろ。


「良いんじゃないですか? 似合っていますよ」


 われながらやる気のない返答である。

 そして、また平家物語を脳内暗唱する時間が始まった。

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