五章 踏み出した者だけが 今を形作るとして

 一


音楽の収録が終わったら、次は動画の撮影だ。しかし、具体的に何をしたらいいのか、俺はきめかねていた。動画について勉強をしなければ、ならないと思っていたが、新しい分野についての挑戦は、腰が重く動き出せずにいた。

作業をしていると夏美からのLINEが飛んできた。

「動画作りの良い本が見つかりました。二人とも集まってください。今日の七時。平松さんの家に集合」

夏美からの呼び出しだった。夏美は本を読んで衝撃を受けたようだ。

本の内容を俺と安藤にも伝えたいという事らしい。

別に俺の部屋じゃなくて、ファミレスでもいいんじゃないかと思ったが、どうやら俺の趣味部屋を見たいらしい。正直言って俺達三人とも初心者に近い。

ゆえに撮影に関する勉強をしておいた方がいいだろうと感じた。

 夏美の申し出はありがたかった。自分には向上心が足りないのかもしれない。

十代の少女に負けていることが、情けないと感じた。

めったに人を呼ばない俺の部屋は事前に片付けておいたが、それでも三人もこの部屋に入ると狭さを感じる。それは楽器やカメラと言った趣味の物で囲まれているのもある。

要は男のおもちゃ箱の中で俺は暮らしているのだ。

夏美が「なんでもあるね」と言いながら、俺の部屋をグルグルと見渡している。

そう、俺は趣味に関しては金に糸目をつけないタイプの人間なのだ。

「おまえのギター。なかなかいいな。でも、俺の方がもっといいのを使ってるけどな。おまえは、まだ楽器を見る目がないから勉強したほうがいいんじゃねえの?」

 相変わらずイライラさせる事を安藤は言っていた。耳を貸さない事にした。いつかこいつは毒舌で身を滅ぼすだろう。

 絶対に俺のFENDERのギター・ストラトキャスターは触らせない事にした。

「私が読んだ本はこれです」

 夏美は一冊の白い本を俺たちの前に出してきた。

 本の題名は『YOUTUBEで小さく稼ぐ』という題名だった。

作者はMEGWIN 関根剣とある。シンプルな本だ。

「なぜ、平松さんの動画がダメなのか!! それはオープニングとエンディングがないし、無駄に長いから見ている人が飽きちゃうんです!」

本をペラペラとめくりながら、夏美は言った。

「そうか。言われてみれば、無駄に長いのかもしれない。もっとショートにできる部分は短く編集したほうがいいのかもしれない」

憑き物が落ちたかのような気分だった。

言われてみれば、十分を超えた動画は多いが、視聴者の視聴時間の確保率は長くはない。

YOUTUBEにあるアナリスティックの統計を見れば、一分くらいで視聴者が飽きている事もわかっていたはずだ。

ただ俺が見て見ぬふりをしていたのだ。

「しかもタイトルが人目をひくようなタイトルじゃないから、YOUTUBEの中で埋もれているんです。もっと見たいと思わせるタイトルじゃないと……」

そう言われて、俺もパソコンのディスプレイを見つめた。

筋トレ動画もそうだし、自分で作った音楽動画もそうだ。どちらもさほど注目されていないのには、そういう理由があったのか。タイトルは地味だ。やっている事をただ伝えているだけ。これでは人目を引かないという事実は変えられない。

すべての動画のタイトルをもっとショッキングな言葉にするだけで、だいぶ、視聴者を確保できるのではないだろうか。

「さらにいうと最初の十五秒に人を引き付けるパワーがないんです。どれも、他の動画を見たくなる内容だから、最後まで見てもらえないんです」

だいぶ、俺の心が折れそうになる話だ。

でもこの少女の言う事は間違っていない。最初の十五秒に俺が何をやっているのかと言われると、確かに次に行きたくなるようなことばかりしている。

「さらにさらに言うと、もっと編集も凝った方がいいんですよ。音楽を流すとかテロップを入れるとか。そういう創意工夫がないから見てもらえないんです」

夏美は興奮した様子で言った。いつものボソボソしゃべりとは違い、だいぶ、声に熱がこもってきている。俺の動画に関しては色々言いたい事が多かったらしい。

「逆に夏美の悪い部分もわかったよ。動画を撮る際に手ぶれがひどすぎて、落ち着きを感じない映像になってるんだよ」

今度は俺が言う番だった。

「じゃぁ、私はどうしたら?」

「三脚にビデオカメラを固定する。しばらく俺の持ってる三脚で撮影すれば、だいぶクオリティがあがるんじゃないか? あと、ズームは極力しない方が落ち着いて見える」

夏美はパカっと口を開け、それからニコっとほほ笑んだ。どこかぎこちなさを感じさせる笑みだが、夏美なりの笑顔を頑張ったように見える。

「安藤の動画もそうだ。画面が固定化されてなくてグラグラしているから、見づらいんだよ。お前の体重でカメラが揺れてるから、余計見づらいんだ」

うるせえよ。そういって安藤はそっぽを向いた。

「俺にも三脚かせよ。いいだろ? 金がねえんだ」

「社会人なんだから自分で買え」

そのくらいの金はだせよ。そんなニュアンスで伝えた。貸したところで俺に利益はないし、何より大人なのだから自分でそろえるのが自然なはずだ。

「ああっ? おまえ、俺の歌の才能をねたんで、意地悪してるんだろ。たかが三脚の一本や二本。貸すだけの度量がないとダメだぜ。性格ブスだから、お前の周りにはろくな奴が集まらないんだぜ。もうすぐ三十歳なんだから、しっかりしてくれよ?」

 安藤は俺をバカにするような笑いを浮かべて、頭の悪いことを言っていた。

 俺は何かを言い返す気力がうせた。なんでこんなやつをチームに入れたのだろうと思う。

「そういえば、三脚と一脚ってあるけどどっち買ったらいいんですか?」

夏美からの質問。その答えはこうだ。

「一脚は、カメラマンがその場にいて、撮影することを前提に用意する物だ。一脚なので、安定性も三脚には劣る。今回の撮影の場合は、三脚だけを使用して撮影したほうが無理はないと思う。俺達は出演もするから、その場にいないこともあるだろうし。プロだって極力三脚を使って撮影をするし、アマチュアの俺達ならなおさらそうしたほうがいいと思う」

「とりあえずこんなところじゃないですか? 全員の動画に失敗があることが分かった」

そういうと三人とも背伸びをして、ふうっと息を吐いた。

「鍋でも作るかい?」

二人がうなずいたので、俺は鍋を作り始めた。

冷蔵庫の中にあるあり合わせの物で作る塩鍋だ。

ソーセージや鳥のささみなど、動物性たんぱく質が多めの鍋になっていた。野菜はサラダ用の具を適当に切って放り込んだ。 

 鍋をつつきながら、それぞれの動画の反省点について語り合った。

 俺の動画に対する二人からの意見はこうだ。俺の動画の場合はメリハリがない。

 もっとリアクションや人に興味を持ってもらえるような実用的であったり、刺激のあるコンテンツにする必要がありそうだ。

 こうやって、ディスカッションしていると、自分の弱点と向き合わなければならない。

 けっこう、辛いなとおもう反面。面白くてたまらないな。仲間とのダメ出しのしあいはこんなにも楽しかったのかと、思ってしまった。

 一方、夏美の動画はどうかと言えば、今度は猫専門の動画チャンネルになっている。 しかも野良猫をダラダラと映していく内容。

 それはそれで面白いのかもしれないが、残念ながら動画再生数はあがってない。

編集不足なのかもしれない。

 冗長な印象を受ける動画をもっと短時間に編集すればある程度見れるものになると思った。後はテロップや音楽を入れると、それらしくなるのではないだろうか。

 俺は次に制作するPVの話を始めた。

 それぞれが動画で絶対にやりたいことは何か。俺はそれを実現してみせると公約をした。

 夏美は「とにかく猫を使ったPVを作りたい。ノーランみたいな重くて重厚な絵柄にしたい」と言った。

 安藤は「俺が目立つならどんな映像だって良いぜ」と笑った。

 意外とPVを作るハードルは高くないなと感じた。

 俺はカッコイイPVを作りたい。PVのストーリーも頭の中にある。

 俺は撮影プランを紙に書きはじめた。書いていくうちに考えもまとまっていく。

「なぁ、平松。撮影するには何が必要なんだ?」

「俺は三台のカメラと、三脚を二台持っているので、それを使う。

 あと夏美も個人的に一台持っているから、今回はそれを使用するつもりでいる。計四台あれば、撮影には困らないと思う」

「当日はアドリブも込みでガンガン撮影しよう。カット数を増やし、素材を増やした方が編集は楽になると思う」

とにかくアイデアのあるうちはアドリブで良いからガンガン撮影していくのが正解だ。

 ちょっとでも必要だな、とか面白いなと思ったものは編集で使えるかもしれない。

編集する際のカット数は増やしておいた方がいい。

「何言ってるんだか、さっぱりわけがわからねえ。とにかく、俺が歌っているシーンをたくさん写せば再生回数アップはまちがいないぜ。全体の半分以上は俺の顔のドアップにしたほうがいいんじゃないか?」

相変わらず愚かな言葉ばかりを口にする男だ。呆れてしまう。

一方、夏美はスマートホンをいじりながら、メモをとっていた。

真面目なんだか不真面目なんだかいまいちわからないな。

「この本にも書いてあったけど、『観やすい動画は、撮影プランが大事です。絵コンテをかかなくても良いが、頭の中には完成図を作っておく。』

 動画を撮るなら、ある程度心得ておかないといけませんね。平松さんの中には完成図とかあるんですか?」

 メガネをクイッとあげて、位置を調整しながら、夏美が言った。

「今回は俺の頭の中には完成図があるけど、完成図を共有したいと考えているんだ。頭の中身をわかりやすく表現するために、絵コンテが欲しいと思う」

「そうなんですね。私が思いついたアイデアは後でLINEで送ります。でも、コンテは歌の作者である平松さんが書いてください」

 了解だというように俺は静かにうなづいた。 

無印良品では四コマノートというものが売られている。

一ページに四コマが八コマ描かれたノートである。

今回はそれに絵コンテをかくことにした。

コンテ制作には時間がかかると思いがちだが、以前動画を作る際に書いた時、思ったほどの作業量ではないな、と感じた。

絵がさほどうまくないので、ギリギリわかるかわからないかくらいの絵しか描けないが、イメージを伝えるにはやはり絵が一番だと思う。

「今日から絵コンテを書きはじめるよ。だからその絵コンテを元に映像化していこう」

俺は自信を持って制作可能であることを告げた。

「それから俺達のチーム名はパラドックスにしないか? 俺が昔、動画を作っていた時のアカウントに、俺達の今の動画を載せたいんだ」

俺は前から考えていたチーム名を告げた。共同作業になるのだ。チーム名があった方が団結が図れるはずだ。

「それ、いいですね。これから私達はパラドックスっていうチームを名乗って活動していくんですね。なんか動画作ってるって感じするなぁ」

夏美は眼をランランと輝かせながら言った。

「だせえ名前だけど今は他の名前が思いつかないからそれでいいぜ」

安藤も相変わらずムカつく事しか言わないが、同意したようだ。

 俺は紙に撮影プランを書きはじめた。大した内容は書いてないが、頭の中を整理するために必要な作業だ。

 なによりアウトプットすることによって、夏美と安藤がどういう風に準備をすればいいのか可視化できる。


 撮影場所―― 天竜の工業団地前の公園。自宅近くの住宅街

 移動手段―― 工業団地住宅街への移動は俺の車を使う。他は徒歩で集まって撮影。

 登場人物―― メンバー三人。服装は自由とする。

 撮影内容―― 俺の作った音楽。青い鳥のPV。音楽の時間は三分二十秒

 撮影予算―― 交通費と食費は自腹。

 撮影日時―― 二月第三土曜日。撮影時間は丸一日かかる。ただし住宅街のシーンだけは別の日でも撮影可とする。

 撮影道具―― 三脚三台とビデオカメラ三台。一応、コンパクトデジタルカメラでの撮影も考えるので四台用意し、楽器は俺の持っている機材を持っていく。

 ひとしきり紙に書くと、二人は黙ってうなずいた。とりあえずこのプランでいいらしい。作戦会議が終わった。

 夏美はこちらを見上げて「鬼監督に任せるよ」と言った。安藤は眠そうな顔をして「よくわかんねえけどがんばろうぜ」と言った

 俺は夏美から本をかりて、勉強をすることにした。


安藤が帰宅し、夏美を家まで送った後、俺は再び本を読み始めた。

二人には撮影だけに参加してもらうから、編集は俺だけの仕事だ。

MEGWIN氏によれば、一方、編集でこだわるべき事は二つ。

ムダを省いて、テンポ感を出すのも大事である事。

音楽で「たいていのもの」はごまかせる。だから音楽や効果音は大事なのだ。

これだけでもだいぶ違ってくるらしい。

音楽は自分の作った音楽を使う。

だから、ウィンドゥジャマーや吹かれと言った音をマイクで収集したりはしない。だから今回は純粋に映像を撮るだけの撮影になる。

編集をうまくやれるかな? 正直に言って、それだけが心配だった。

編集が終わって、動画を投稿した後の事も考えている。

はじめからYOUTUBEの広告収入を期待したりはしていないが、それでも気になるのは事実だ。多くの人が見れば、それだけ収入を得られる可能性が高いし、ネット社会の中での影響力も増えるわけだ。

まだ動画制作と言うものにロマンを持っている事に気づいた。幻想に近いのだろうか。生活の合間を使って、動画を作り投稿を繰り返す。その結果、多くのリアクションがもらえたらいいな、なんて考えていた。

商業には商業の良さがあり、素人には素人の味がある。

俺は動画専門で生きるということはもうできないし、今更、そういう生き方を選ぶ気もないが、良い物を作れば、良いリアクションが返ってくる。

それを期待して動画制作を始めた部分はある。

正直に言って、低迷しているのだが、それでも作りたい物を制約もなく発表できる現代社会は、少なくとも動画製作者にとっては天国に近い部分があると思う。

もちろん、厳しい批判にさらされたり、他と比較されたり、様々な悪いリアクションもでてくるだろうけれども、それでも発表する場所がテレビ業界にしかなかった。

前時代の人たちとは違い、個人が個人の力で、動画を媒体にして人の心を動かせる。そんな時代に生まれた事を幸運に思うべきだと俺は思っている。


 二


絵コンテの制作は地味という言葉に尽きると思う。

最初は四コマ漫画のように、自分で枠を書いてその中に動きを書いていったが、

たまたま立ち寄った無印良品に四コマノートというノートがあったので、今はそれを使用している。期間限定でしか買えないので、結構な数をまとめ買いした。計十冊。なかなかの逸品だと思った。

俺はそのノートに絵コンテを書きはじめた。

どういう進行にするのか。どういう角度で撮影を行うのか、すべてがこれにかかっている。もちろん、現場での思いつきも大事だけど、それ以上に事前の準備が必要だと俺は思っている。準備なしに動画は撮影できない。それを大学生のころに実感したことがあったら、準備は入念に行うことにしていた。

絵コンテはちょっとした画力がないと難しいかなと思っていたが、意外と書こうと思えば書けるものである。

人間何事も挑戦し、失敗をし、成長していくんだな。

そして何度も絵コンテを修正しているうちに、四コマノートを二冊消費していた。やはり本格的に三分の曲のPVを作るためにはそれなりに手間がかかる。

 LINEで夏美と安藤に聞きながら作業を進める。

『俺が映える背景を用意しろ。俺の暴れる様を丁寧に撮影すれば、アクセス数は百万を超えるはずだ』

 安藤は愚かなメッセージをひたすら連発した。

撮影場所は決まっている。モクモクと煙を吐き出す工場をバックに歌を歌いだすシーンだ。見栄えのしない安藤を主役に映像を撮ると、評価が下がるだろう。安藤をそこそこに映したら、順番に俺と夏美を撮影することに決めた。

『猫を絡めたストーリー性のあるPVにしたいですね。ついでに言えば映像はクリストファー・ノーランお得意の重厚な感じを演出したい』

 前と同じような意見を夏美はくりかえした。トーンを暗く、しかし力強く撮影する必要がありそうだ。歌に出てくる青い鳥と猫には何の関連性もない。

頭を抱えていると、ふとアイデアが思いついた。こうすれば青い鳥と猫を関連させる事が出来るな、と気づいた。

虹をCG合成で登場させたいから、雨を降らせる必要がありそうだな。

幸い虹のテンプレートはネットで見つけてあるので、合成は簡単だろう。くわえて、雨の降るシーンを入れたい。

四コマノートに記入していく。この作業が地味だけど、本当に楽しい。

パズルを作るみたいに、映像が関連付けられる感覚。俺はこういう作業が向いているのかもしれない。

二人の意見や出番を考えながら、映像のプランを練りこんでいく。

 そうやっているうちに夜は更けていった。

ウトウトしているうちに意識を失っていた。デスクトップパソコンを置いた机にしなだれかかるようにして眠ってしまった自分は、スマートホンのアラームの音で目をさました。

「あっ、もう仕事の時間だ」

どっちみち仕事中も動画や音楽の事しか考えてないと思う。

楽しみがあると、仕事にも身が入るというが、人によるよな。

早く撮影に入りたい。

メンバーの予定があいている予定を聞いておこうと俺は思った。

うまくいけば、一週間以内に開始できるだろう。


 三


 仕事がはじまる朝は憂鬱だった。

 だが、うれしいことに撮影は明日にせまっていた。

 俺は明日の動画撮影のことで頭がいっぱいだった。絵コンテは、ほぼ完璧だと思う。どんな映像が撮れるのだろうとワクワクしている自分がいる。

 しかし、本当にうまく撮影できるのだろうかと不安になる自分もいる。

 俺は決して人付き合いはうまくはないし、リーダーの器ではない。

そんな俺が夏美と安藤という問題児たちを、うまくあつかえるのだろうか。

 しかし、全力でやるつもりだ。

 自分の作った曲。青い鳥のPVを撮るためならば、どんな苦労もしてやるぞという情熱がある。   

 始業時間には間に合った。俺はタイムカードを押し作業準備を始めた。時間を一気に早送りして終業時間になればいいのに。早く明日の撮影になればいいのにと思いながら。

「やめろっ!」

 工場内のどこかで誰かのさけぶ声が聞こえた。何か嫌な予感がした。背中からじっとりと嫌な汗がわく。二月の真冬なのにだ。心臓が動く早さも増す。俺は恐る恐る大声がした方向に近づいた。

 ロドリゴというブラジル人社員が鼻を押さえて、うずくまっていた。作業着は血まみれだった。また、そばにはもう一人。

マリオというブラジル人が頭を手で押さえてたおれていた。顔全体が真っ赤だった。犯罪現場に立ち会ったようなおぞましい感覚が俺の中に走った。

「何がカラーイだっ! カラーイなんていうやつは、いらねえ! ただの労働力のくせにつけあがるんじゃない!」

 社長は火山の溶岩のように真っ赤な顔で怒り狂ってほえながら、まくしたてていた。

血のついたスパナが握られていた。何が起きたか不明だが、社長がロドリゴとマリオを殴ったのは間違いない。

 「カラーイ」という言葉をブラジル人社員は日常的に話していた。

「カラーイ」はポルトガル語で「FUCK」という意味だ。

 社長がブラジル人たちがこっそり発した言葉を、聞き逃さなかったようだ。

 社長は強そうなブラジル人社員に暴力をふるったりはしない。社長が暴力を振るえるのは、自分より弱そうだったり、反抗できそうにない大人しい人間だけだ。

 この会社で働くブラジル人社員は完全に縁故採用だ。ブラジリアン柔術の道場に行って、仕事にあぶれているブラジル人をスカウトしてくるのだ。

 ブラジル人の体はデカいし、日本人よりも体を鍛えているから頑丈だ。だからほとんどの場合、ブラジル人に攻撃をしない。

 言葉でのイジメはあったとしても、けして暴力には出ないのだ。負けることが分かっているからだ。

今日、ロドリゴとマリオを殴ったのは、二人が小柄で柔術をやっていないからだろう。

「こんな仕事もう……やめる」

 ロドリゴが立ちあがり禁断の言葉を口にした瞬間。社長がスパナを投げ捨てて、高速で動いた。社長はロドリゴの服の首部分を両手でつかんだ。片足を相手の肩まで持ち上げて、社長は床に寝転がる。

ロドリゴの体は引き倒されて一回転。工場の床にたたきつけられた。

 社長の両手はロドリゴの右腕をかかえていた。社長の両足は右腕のつけねをはさみこみがっちり固定している。特に左足は相手の首もとにのしかかり、呼吸を圧迫しているようだった。ロドリゴはもはや逃げられない体勢だ。

 社長はロドリゴの腕をひきしぼりながら、毒々しい笑顔で笑った。

「ブラジリアン柔術の技。飛びつき腕十字固めだ。どうだ? 観念したか? 死ぬまで働かせてやるから、感謝しろよな」

 ロドリゴは顔をゆがめて、何も言わず、うなり声をあげている。顔中血だらけで、苦しみつづける男。もはや、犯罪現場ではなかった。

 戦場だ。俺は何もできず、突っ立ているだけだった。他の社員たちも同じだ。

「社長! やめてくださいっ! 何を考えているんですか!」

 女子社員の声が聞こえた。会社に勤める唯一の女性社員の大月加世(おおつきかよ)だった。大学卒業したてで二十三歳前後。髪は肩にかかるくらいの長さ。

ブラウスに地味なスーツの上下姿。身長は俺よりも五センチほど低く、ややふっくら系の体型だった。

 特別にかわいくはないが、何となく気になっていた娘だった。しかし、ここまで勇気がある娘だとは思わなかった。俺は自分の情けなさが恥ずかしくなった。

「なんだ? お前がこいつのかわりに相手してくれるのか? おおっ!」

 社長はロドリゴの技をとくと、急に汚らしい笑顔になり立ち上がった。

「いいけつしてるな。いっぱいタッチしちゃうぞ。今夜の予定は空けておけよな」

「やめてくださいっ!」

 加世は悲鳴を上げて身を引いた。社長はゆっくりとガニ股で近づきながら、加世の尻をさわるために手を差し出して、不快な笑顔で加世を追いかけている。俺は社長の品性の無さに心底げんなりした。

 俺は加世の勇気を見習うことにした。我慢できず、社長の肩をつかんだ。とっさに思いついた嘘をまくしたてた。

「社長。ロドリゴたちが救急車を呼ぶそうですよ。どうしますか?」

 俺が声をかけると、社長が動きをさっと止めた。正気に返ったように顔が青ざめている。救急車という言葉が効いたようだ。俺は加世に視線を向けて、あごを動かした。今のうちに逃げろというように。加世は頭をぺこりと下げると早足で立ち去った。

「救急車なんて呼ぶ必要ねえぞ。病院行くなら、自分で行け。あと、労災は出ないからな。俺を怒らせたおまえらが悪いんだから、当然だよな?」

 社長は床にペッとつばを吐くと、背を向けて出て行った。

 後には血だらけのロドリゴとマリオが残された。俺はもどってきた加世と二人で、ロドリゴとマリオに肩を貸して休憩室まで連れて行った。

 もうこの二人は仕事をやめるだろう。今日で会うのが最後だろうなと思った。二人とも仲間に病院に連れて行ってもらうと言っていた。

休憩室を出た時。加世が怒りに満ちた表情でつぶやいた。

「この会社は最悪です。パワハラにセクハラ。私が入社して一ヶ月もたたないのに、メチャクチャです。この先どうなるんですか?」

「分からないよ。でも、この先、ろくなことがおきないような気がする」

 俺は無責任に答えた。この会社はもう終わりだろう。三年前に社長が変わったあの日から、この会社は崩壊の一途をたどっている。二代目バカ社長のあの手腕ではいつか倒産するだろう。俺もこの会社を見限る時期が来たようだ。

だが具体的に次のステップをどう踏むべきなのか、俺は悩んでいた。

やめるにせよ、次の仕事を探してからやめるべきだろう。

適当なタイミングで辞めて、すぐに次の仕事が見つかる保証はない。

下手すれば、ニート、フリーターなどの転落人生が待っているかもしれない。

それだけは避けたかった。俺の中にあるプライドがそれを許さない。そんな気がした。しかし、この仕事場をやめる前にあのクズ社長には目にもの見せてやりたい。そう思った。

  

  四


 仕事を終えて家についた。俺は撮影前だというのに、不安な気持ちがこみあげていた。誰かに今日の仕事であった出来事を電話で話したい気持ちだ。

 この嫌な気分を誰かにぶちまけてすっきりしたい。今、俺が交流のある相手は、安藤と夏美と鈴原の三人だけ。安藤に電話するのは考えられない。だが、夏美に電話するのも気が引ける。十代の少女に三十前の男が人生相談するのは、情けない。

残るのは消去法で鈴原しかない。

 しかし、鈴原に話すにしても、どこか気が引けるのも。異性に自分の恥をさらすのは情けない気がする。

 俺は気晴らしにのためにスマートホンでツイッターを立ち上げて、鈴原のツイートを確認した。

『静岡だと全然仕事ないなあ』『お金がもうちょっとほしいんだよね』

『どこに行けば、ライターの仕事もらえるんだろう? やっぱり東京?』

 鈴原は仕事と収入のことで悩んでいる様子だ。俺と同じだなと思って安心するような気持ちと同情する気持ちがわいた。いくつかツイートを読むと気になるものがあった。

『好きな人と仕事。両方ゲットするのは、難しいよねー』

 これはもしかして、俺のことを言っているのだろうか? 俺は緊張で胸が高鳴った。

 そういえば、この前。鈴原と会話中に恋愛の話題が出たばかりだ。

 たぶん、いや……かなりの高確率で自分のことであるような気がする。

 俺は思わずLINEで鈴原に電話をしていた。

「ツイッター読んだよ。なんか、そっちは仕事とお金ないんだって?」

「うん、こまってるんだよね。平松君はどう? 仕事はうまくいってる?」

 鈴原の問いに心臓がずきりと痛んだ。

俺は一瞬全部話そうかと思ったが、オブラートにつつんで答えた。 

「うーん。実は社長があばれてさ、今日。大変だったんだよな……」

「うわ、もしかしてブラック企業? でも、そこまでひどくはないでしょう? もう六年もつとめているもんね?」

 鈴原の言葉に俺は言葉を失った。一番痛いところをつかれた気がする。

俺は昼間の社長の狂気の行動を思い出した。言葉につまる。どきりとした。

 思い出すだけで心臓が早鐘を打つ。すべてを話すかどうか、俺は迷った。

 社長がブラジル人に暴行を加えていたこと、女子社員にもセクハラしたこと。もうそろそろ仕事をやめようかと考えていること。

 言おうと覚悟を決めた時。鈴原は全然。別の話題を出してきた。

「そういや、平松君。PVの撮影はどうなったの? いつやるの?」

 俺は仕事の話題をやめることにした。

音楽や動画の話題の方が鈴原との会話はもりあがる。

「うん、実は明日撮影なんだ。良かったら、鈴原にも来てほしいなーなんて思って電話したんだけどね」

「ごめんね、明日はダメなんだ~。大事な用があるから。でも、PV完成したら、絶対に見せてね!私が音楽ライターとして成功したら、絶対に平松君の記事を書くよー!」

 おせじも入っているのかもしれないが、俺はうれしくなった。

 その一言で仕事の疲労が全部吹っ飛んだような気がする。

「ありがとう。PVできたら連絡するよ。また、遊ぼう」

俺は電話を切り上げた。なんかやる気が出た気がする。仕事の問題は今は忘れて、PV撮影に集中したいと思った。俺はLINEに「パラドックス」という名前のグループを作り、メンバー全員をそこに呼んだ。 

 撮影の日時と集合場所を伝える。

『今持っている服の中で一番、カッコイイと思う服装で来てほしい。全員が動画撮影の初心者だし、当日は不安もあるかもしれないけど、良い作品にしたいと思う。協力よろしく』

『撮影って初めてだけど、こちらこそよろしくお願いします。私も楽しみです。ウッキウッキです』

 夏美も気持ちが高ぶっているらしい。

『最高にかっこいい俺をとらせてやるよ。ションベンちびるなよ?』

 安藤がLINEのスタンプを押した。ウキウキして眠れないように見えるキャラクターのスタンプだ。 そういってLINEの会話は終わった。後は当日だな。

 五


 朝五時に俺の住むマンションの前にでると、冬の朝なのでやはり寒い。

 遠州の空っ風が吹くせいだろうか、体感温度は驚くほど冷たい。

 天気は曇り。夏美の思い描くクリストファー・ノーランが撮影しているかのような薄暗さだ。だが雨が降る様子はないので、撮影には適しているように感じる。一番乗りは安藤だった。

「今日の俺はどうだ? お前と違ってファッションセンスにあふれているだろ? ションベンちびったか?」

 安藤は自慢げに笑いながら、腕を組んでいた。

「おまえ……それで最高のファッションのつもりなのか?」

 俺はいつも以上にひどい安藤のファッションセンスにビックリしていた。

 グレーのパーカーに真っ赤なナポレオンジャケットを着ていた。しわだらけのプリントTシャツがパーカーの隙間からのぞく。やぶれた真っ青なブルージーンズに、いかにも安そうなハイテクシューズを汚らしく履きつぶしている。

 極力、こんな恰好の男とは一緒に歩きたくない。不快感と不潔感が服を着て歩いているような格好である。ついでに言えば服まで古着っぽい汚らしさを演出している。

 これ以上、コメントしたくないが、ほとんどちょっとおしゃれなホームレスレベルだ。

「ふん、自分がださいからって、俺のハイレベルなセンスをねたむなよ。ゴミ箱から拾ってきたような服をきやがって」

 安藤はいつものたわごとを吐いた。

 俺はせめて撮影の時くらいまともな服を着ようと思って、無難な服を選んできたつもりだった。

だが安藤には、ゴミ箱から拾ってきた服に見えるらしい。美的センスがおかしい男だから、仕方ないのかもしれない。

 ボタンダウンのオックスフォードシャツに、紺のPコート。

 足元は黒いチノパン。アイリッシュセッターのブーツを履いてきた。

 自分の服の中ではマシだと思っていたが、そんなにはずしているだろうか?

「おはようございま~~す。」

 夏美も到着した。今日の夏美は気合の入ったV系ファッションだった。

ジッパーがアチコチについたとがったデザインの服装である。

よくわからないけどあまり一般受けする感じではないな。本人がよければいいのだけど。正直、服と本人のイメージの差に少し戸惑っている自分がいた。

普段の地味目コーディネートと比べるとずいぶん印象が変わるな。

でも相変わらずさえない感じのメガネをかけている。それでもある意味では夏美の中では最高のコーディネートなのだろう。

「どうですか? 今日の私は?」

 夏美は質問したが、俺は絶句した。なんと言ったらいいかわからなかったからだ。たぶん、夏美は今の自分の服を気にいっているのだろう。だが、この服装がおしゃれだとは口がさけてもいえないし、でも、いまさら着替えてとは言いづらい。

「うん……まあ、ものすごい……個性的……だよね」

 それをいうのが限界だった。

 夏美の姿を見て安藤はニヤニヤ笑うと、俺の耳元でささやいた。

「……メガブスオタは、ファッションセンスゼロだなあ。お前とお似合いだよ」

 俺は安藤の発言にイラっときたが、ノーコメントを貫くことにした。なんで、こんなやつとチームを組んだのだろうと思う。

「とりあえず、出発だ」

 なんだか、重い気分になった。先が思いやられる。

 俺達三人と機材を車に乗せて出発した。俺達で大丈夫なのか、心配になってしまった。 

本当に良い動画は作れるのか。だがそんな重い気持ちも車中の会話のおかげで吹き飛んだ。PV撮影の話で三人全員が盛り上がった。

「やっぱ動画は重い映像にしたいです。軽い映像はダメです。ノーラン監督のように……」

 夏美は珍しく興奮して、自分の映像論を語る。

「俺がかっこよくうつるように景色のいいところにつれってくれよ。お前らは俺の邪魔しないようにひかえめにしてくれよ。ははは」

 安藤も自己中なことを言いながら、上機嫌だ。自分でも気持ちが高揚しているのを実感していた。車の中での会話も弾む。これから何をするのか。どんな撮影になるのか。矢継ぎ早に聞いてくる夏美にわかりやすいように回答する。

「どういうふうに撮影するんですか? 道具の使い方とか、細かい流れを教えてください」

夏美の問いに俺は答えた。

「まずは……音楽に合わせて動画を撮影する。そのために楽器類は必須だ。要はアテフリというやつで演奏しているフリをしたものを動画内で使うことにした。

リアリティを考えて、一応、楽器類、アンプ類はいつでも使用できるような状態にしておいたよ。もっともコンセントがないので野外での撮影の時には音は出ないけどね」

「ふーん」

 夏美は分かったような分からなかったような返事をした。

専門的な用語はあまり自分もよくわからない。だが雰囲気だけでも伝わればな、と思った。機材の話にうつった。持ってきた機材はビデオカメラと一眼レフ。集音マイクに、バンド御用達のSM58というマイク。ベースやギターなどの楽器類。

小型アンプとそれにつなぐためのシールドケーブルなどだ。それ以外にも細々とした小道具を用意していた。

「あと一眼レフとビデオカメラの二つを用意したよ。別の角度か演技を撮影したかったからね。三脚も二台分用意しておいた」

「なんか、すごいですねー」

 夏美はただ、感嘆の声をもらすだけだ。 

 最近のデジタル一眼レフカメラは動画撮影も可能になっているので、ある程度の動画の撮影にも耐えうるようになっている。ただし、俺の持っている一眼レフは手ぶれ補正がないので、三脚での固定撮影専用ということになりそうだ。

水がついて壊れてしまっても大丈夫なように、安価なデジタルビデオカメラも用意した。

そんな機材の話をしているうちに現場に到着した。

外は寒かった。磐田市内にある工業団地前の公園は寒い。

車の外気温表示を見たら、なんと五度である。早急に動画の撮影を始めることにした。

雨が降らなかったのは幸いだった。

撮影場所は巨大な煙突がのぞく工業地帯前の公園だ。

平屋建ての自動車部品工場などの工場が立ち並ぶ一角にある公園だ。

潮風を感じるほどに海も近い。アチコチでフォークリフトの走る音やエンジン音が聞こえる。土曜日にもかかわらず工場はフル稼働しているらしく、轟音を響かせながら動く機械類の音や、トラックが走る音が聞こえる。

外は寒い。安藤と夏美にはそれぞれ使い捨てカイロを手渡した。

撮影するにあたって、手ぶれ補正機能っていうのは、本当に大事なのだけど、それ以上に大事なのはカメラを動かさないことだと思う。

とにかく定点カメラで撮影を行う事。それが撮影の鉄則である。とにかく予算のない自主製作PVである。人数だって最小限しかいないので、自分の出番じゃない時は撮影に手伝ってもらうことになる。

最初はそれぞれのメンバーが演奏しているところから撮影を始めた。

カメラの前からジョーロで細いシャワー状の水を落としながら撮影をスタート。

楽器に不慣れなメンバーの演奏をとりながら一人ひとりに動きをつけてもらう。

ぶっちゃけ弾けなくていいので派手なアクションをとってほしい。そういうイメージを伝えると、みんな、思っている以上に演技がうまくて驚いたりした。やってみるものだな。

「わぁ、やっちゃった!」

そういって夏美は俺をじっとみた。

どうやらジョーロを使っての撮影に疲れてきたのもあって、ジョーロの水を誤まってビデオカメラにかけてしまったらしい。

「うわっ、ビショビショじゃないか! お前のカメラ、もうダメじゃないのか? 故障だよ、完全に故障! 完全にぶっこわれてるだろ!」

 安藤が笑いながら、おおげさに騒いでいる。俺はむかっとしたが、何も言わず無視した。ずぶ濡れのビデオカメラを見る。特別、見た目に故障はない。

長時間、水をかぶったりすると、液晶や基盤部に水が入ってオシャカってこともありえたが、幸い、特に別条はない。

「立花さん。大丈夫だよ。水も拭いたし、ちゃんと撮影できるからこのまま続けよう」

夏美は申し訳なさそうな顔をしながら、ごめんなさーいといった。

トラブルはつきものだと覚悟していたので、この程度でくじける俺ではない。

気を取り直して、次にすすむことにした。

「次はボーカル撮るよ」

今回は声を出すふりではなく、実際に声を出してもらうことにしている。

 楽器演奏はでたらめだが、演奏できるなら演奏してもらいたいし、歌えるなら歌ってもらうのが俺の流儀だった。その方がリアリティもでる。

 がなり声をあげながら、安藤は歌う。その声を聞いて、近くを歩いていた老人は奇怪な物を見るような目で視線を向けている。遠くに座っていた犬を連れた女子高生は、俺達撮影スタッフから一センチでもいいから距離をとろうと考えているようだった。

 たぶん、今の俺たちはまわりからすると変人の集団だと思われているんだろう。

なんだか、急にはずかしい気分になってしまった。もっと人がいない場所で撮影したほうがいいかもと思った時。安藤がさけんだ。

「おいっ、しっかり撮れてんのかよ?」

 周囲に目がいきすぎて、肝心の安藤をカメラの中でしっかり撮れていなかったかもしれない。案の定、撮影された映像はちょっと斜め気味に撮影されていた。

「ごめん。もう一回頼むよ」

安藤は舌打ちをした。雰囲気を悪くする天才だ。

安藤のテイク2が始まった。安藤のがなり声が公園に響く。その声で今度は、近くを飛んでいたカラスすべてが飛び立った。安藤の歌のせいだろう。カラスの気持ちは分からなくはない。同情する。

夏美が俺のそばにきて、こっそりつぶやいた。

「……ジョーカーの歌を目覚ましにしたら、死体も飛び起きると思いますね」

 正論すぎてうなずくしかない。

 安藤はさらに増長して、暴走をはじめていた。

「ほら、今の俺はどうだ? かっこいいだろう? 今の俺を撮れよ。こんなかっこいい男は他に地球にいないぞ。最高すぎて、自分でも泣けてくるね。いやー、なんて俺っていい男なんだろう! この瞬間を撮影しないヤツはバカを通り越してゴミだな!」

 安藤は芸能人気取りで、腕組みをしたり、髪をかきあげたり、腰に手を当てて胸をはってみせたり、連続でポーズをくりだした。正直にいって、かっこよさはゼロだ。

 安藤とくらべれば、田舎の畑にたっているカカシの方が百倍かっこいいだろう。

 安藤の顔を見ると、興奮で肌が赤くなっている。涙で目がうるんでいる。本当に泣き出しそうだ。自分のかっこよさに酔いしれているのだろう。もはや救いがたきナルシスト。

 俺は言葉を失った。夏美がまたも、俺のそばにきて小声でつぶやいた。

「……ジョーカーは違法薬物使用のうたがいがありますね。あとで持ち物をチェックしましょう。白い粉が出てくるかもしれません」

 夏美はふざけているのではく、真剣そうだった。

 俺はギャグだと思いたかったが、確かになんか怪しい薬でも使っているんじゃないかと思えるほどのナルシズムだった。

「ちゃんと撮れてんのかよ? イカした俺をしっかりファインダーに焼き付けろよな。そうすれば再生回数は伸びる」

そういって上から目線で命令をする。安藤は涙を流していた。自分のかっこよさに感動して涙を流したらしい。

自分の動画の再生数の事を言ってるんだろうか? 正直言って、叩きに来た厨房がいなければ、底辺動画まっしぐらの再生数じゃないか。

夏美は自分の番じゃないからと言いだしそうな感じで、徐々にスマートホンに手を伸ばす時間が多くなってきているように感じた。

響くのは安藤の怒声ばかりだ。自己主張の激しい男だなと思った。人に対する気遣いも優しさもなく、言いたい放題言う事をコミュニケーションと勘違いしているようだ。

腹の中で「ふざけるな」と思う自分がいたがどっちみち返ってくる言葉はわかっている。

「俺の才能に嫉妬しているだろう?」ってあたりだ。

何度もテイクを重ねるが、なかなか良い映像は撮れない。撮影対象が悪いのだからしょうがないのかもしれない。

「安藤。いい加減にしろよ。良い映像が撮れないからテイクを重ねているんじゃないか」

「映像なんて編集でどうとでもなるだろうが。俺が今、かっこよく撮れていれば、編集時にもカッコよく映ってるはずだろ? 絵コンテ通りに仕上げろよ。おまえは、そんなこともできないバカなのか。もう三十歳なんだから、しっかりしてくれよ」

 安藤は文句を言ってきたが、あきれて言葉もでない。なんで、こんなやつをチームにいれたのだろうと思った。 今更しょうがないが。

 安藤はド素人だ。編集前に良い映像が撮れなければ、良い編集はできない。良い映像をダメにすることはできても、逆はできないということはわかってないようだ。

リテイクばかりが続く。夏美はスマートホンで流行っているゲームをずっとやっているし、安藤は自分に酔いまくるばかりで全然目標とする映像が撮れない。

もうこの辺にして、次に行こうか。安藤のところは悪い映像を悪いなりに編集しよう。そう思った。

適当にアドリブで演奏風景を撮った。たいしたクオリティではないと思った。

オーバーリアクションの中にテレがあったり、笑いがあったりしてガチのPVのような硬派な印象がどうしても表現できていないのだ。

最初だからというのもあるだろう。でもうまくいかない理由を人に押しつけたくはない。

基本的に、良い映像が撮れないのは、撮影するカメラマンの俺の腕が悪いからだ。

この辺は次回までの課題だと感じた。

気づけば、夏美はスマートホンをいじるのにも飽きて、その辺を歩いている猫の動画を自分のカメラで撮影していた。完全に俺と安藤のやり取りに嫌気がさしていたらしい。

こんなチームワークで良い映像が撮れるんだろうか。とてつもなく不安な気分になった。 特に安藤だ。この男の自己中心的すぎる行動はどうにかしないとならない。

俺と夏美をチームメンバーというより、自分の熱狂的なファンだと勘違いしている。何とかして、うまく言うことを聞かせる方法はないだろうか。

この男のナルシストすぎる性格を変えさせるのは無理でも、もう少し指示には従わせたい。無理な願いとは分かっていたが、俺は頭を悩ませた。

全員の個別な演奏を撮ると、次にやるべきは全員が映っているシーンである。

当然、ジョーロで水を落とせないので、ここは合成で雨の降っているようなシーンを作るつもりだ。そうして全員が思い思いに暴れている動画を撮る。

コンセントにつながっていないアンプから音さえ聞こえてくるような熱狂。

それを冷静な視点でカメラは捉えている。何十パターンという演奏の動画を繰り返しとっていくと、メンバー全員が少しずつ疲弊していくようにも感じた。

仕切りなおしが必要に思われた。

「一度。一休みして昼飯でも食べに行こう」

 俺が提案すると、夏美と安藤はそろって歓声をあげた。

「賛成です。私もお腹がすいてきました」

「そうだな。さすがに世界一かっこいい俺でも、はりきりすぎで、腹へっちゃったよ」

 これぐらいの結束力があれば、撮影もうまくいくんだけどなと俺は思った。

 食事をとって場所を変えようという話になった。


  六


食事をとることにした。俺達三人で近くのファミレスのココス豊田町店に入った。時間は十一時半。そろそろ混み始める時間帯だ。幸いなことに今は十人くらいしか客が入っていないので、四人掛けの席に座る事が出来た。

店は百人くらいは優に入れる作りになっている。ところどころ、パーテーションで区切られているので、落ち着いて話をすることも可能だ。

俺はパスタを頼んだ。夏美は決めるのが面倒くさかったらしく、同じものを注文していた。安藤はピザを頼んでいた。これ以上太っても得はないと思うのだが。

俺達は空腹であったのか、割とすぐに平らげてしまい、そのまま雑談タイムになった。夏美はうれしそうな顔で爆弾発言をした。

「私はこれでも少し楽器がひけるんですよ。ギターとベースは私の両親が演奏してたから、子供の時からならっていたんです」

「おいおい、それなら先に言って欲しかったなあ。楽器がひけるなら、PVの内容も変わったのに」

 俺はテーブルにわざとらしくがっくりと頭をふせてみせた。タイミングが悪すぎる。

「でも五弦ベースとギター間違えてなかった?」

 俺がそういうと夏美は恥ずかしそうに顔を赤く染めながら、

「五弦ベースという存在を知らなかったので」と言って笑った。

「いっそ私たちでバンド立ち上げても良いかもしれませんね、平松さん」

夏美の提案に俺は少しだけ息をのんだ。そうか今のメンツならバンドも組めるのか。ドラマーを探せばいつでも活動はできるわけだ。夏美がベース。ギターが俺。ボーカルは安藤に任せればいいのだ。いや、待て。本当に安藤にまかせていいのか? この男をボーカルにしていいのか?

 俺は激しいためらいをおぼえた。安藤に視線を向けると、俺が撮影したカメラを手に撮影した動画を再生させて見入っている。

「俺って何度見てもかっこいいよな。ほんと、ほれぼれするぜ。完全にお前らって俺の引き立て役だよな。俺と一緒になるとみんなザコキャラになっちゃうからしょうがないか」

 ニヤニヤ笑いながら、液晶画面に映る自分自身を絶賛していた。

「たぶん、俺はすぐにメジャーデビューして東京に行けるけど、お前たちは無理じゃねえ?磐田でずっとくすぶってるような気がするな。かわいそうすぎるけどな」

 俺と夏美は無言になった。頭に来るというレベルを通り越して、あきれてしまう。

三十代直前までくすぶっていた男のセリフとは思えなかった。

「……まあ、バンドに関しては前向きに検討していこう。人生は一度きり。やりたいことをやらないと損だからね」

 俺は重苦しい声で答えた。

「Jack.」でギターを弾いていたころを思い出す。

毎日のようにやっていた大学内でのスタジオ練習は楽しかったな。

きっと今のメンバーでバンドを始めても楽しいだろうな。ボーカルが安藤でさえなければ。そんな気がした。しばらくすると、安藤は急に席を立ち上がった。

「ちょっと、便所にいってくるわ。俺の荷物みといて」

 安藤が姿を消すと、夏美はすばやい手つきで安藤の荷物をチェックした。

数秒後。俺の顔を真剣な目で見て言った。

「……ジョーカーの荷物の中に薬物らしきものはありません。衣服に身につけている可能性があります」

 俺は苦笑いをするしかなかった。麻薬捜査官みたいだと思った。

「安藤はふだんからヤク中みたいな変人だからな。あれが本来のあいつの性格なんだよ」

「なんとかなりませんか? このままではPVどころじゃありません」

 夏美の責めるような視線が痛い。俺は腕組みをして考えた。安藤をまともな状態にさせるのは無理だ。脳みそを入れ替えるしかない。

でも、今よりももう少し言うことは聞かせることはできないか。動物を調教するように。必死で考えて、俺は、いいアイデアを一つ思いついた。

「しょうがない。やりたくないけど、最後の手段をためすか」

 その時。安藤が帰ってきて、席についた。

 カメラを手にして自分動画をうれしそうな顔で再生させる。

夏美が俺に顔を寄せ、耳元でささやくような声でたずねてきた。

「……最後の手段ってなんですか?」

「すぐに分かるよ。よし、そろそろ出発だ。いくぞ、安藤」

 俺は夏美に笑いかけると伝票を手に立ち上がった。


 七

   

車を走らせて、工業地帯を抜ける。

次の撮影地点は、俺達の住む住宅街の一角だ。俺の車を自宅アパートの前に止めて、住宅街の一角に集まる。ちょうどゴミ捨て場の前だ。

三人それぞれが、楽器を抱えて、住宅街を走るシーンを撮る。

三台のカメラはそれぞれが、俺達からある程度離れた距離においてある。設置した時点で撮影を始めている。俺達三人はそのカメラに向かって、全力疾走で走る。安藤はマイクを持ち、俺と夏美は楽器を持って走る。

ギターとベースを持つ俺達は当然のごとく、安藤のスピードにはついていけないと思っていたが、安藤は、俺達楽器隊のはるか後ろを走っていた。

そこでシーンは終わりだ。何度かその距離からアングルを変えて撮影を繰り返す。

夏美と安藤は運動不足のせいもあり、ゼェゼェ息を吐いていた。

特に体力が全くない夏美は真っ青な顔をしている。

「世界一カッコイイ俺がなんでこんなことやらなくちゃならないんだ!」

 撮影の途中なのに、安藤が急に立ち止まり文句を言い出した。

真冬なのに顔中に大量の汗をかいていた。目が血走っている。

息切れもひどい。安藤が運動不足なのは、誰の目にもあきらかだ。

「走るシーンなんて、やめようぜ! 疲れるし、めんどくさいし、こんなシーン入れても、意味ねえよ! このシーンだけカットしろ! カットしてくれっ!」

 視線を向けると、夏美も肩で激しく息をしている。話す気力も無いようだ。

運動不足なのは夏美も同じらしい。

しかし夏美は夏美なりに必死でがんばっている。

 十代の少女でさえ耐えているのに、三十近い男が耐えられないとは。

夏美はどうするの?……というような視線を俺に向けてきた。

「もう俺はいやだね! 絶対にこれ以上は走らないぞ! 死んでもいやだ!」

 安藤は腕組みをすると、道にどっかりとすわりこんだ。三十歳の小学生という外見だ。世界一頭が悪い男に見えてしまう。

 だが、俺は走るシーンをカットする気はなかった。何が何でも撮らねばならない。

安藤を走らせなくてはならない。今よりも早く。全力で。

 最後の手段を使うことにした。

 俺はセットしてあるカメラに近づき撮影した動画を再生させながら言った。

「……安藤。よく見ると、お前ってけっこうかっこいいな。二枚目の男じゃないか」

「そんなのあたりまえじゃねえか。俺のかっこよさが分からないやつはクズなんだよ」

 安藤が俺に顔を向けた。

疲れているが、その顔は喜びでかがやいている。

予想通りの反応だ。俺はなおもつづけた。

「でも、この動画は残念ながら、おまえのかっこよさが出し切れてない。今のままじゃ九十点だ。あと、少しの努力で百点満点の男になれるのにな」

「え? なんだって? どうして、俺が百点じゃないんだ?」

 安藤は疲れを忘れたように、急に立ち上がった。

「九十点なのは、お前が走る速度が遅いからだな。あと、少し早い速度で走れれば、おまえはもっとかっこよく映るし、百点の男になれるんだけど無理ならしょうがないな。九十点の男で終わることにしよう」

「俺はがんばれば、もうちょっとぐらいなら……」

 安藤は珍しくこまったような顔をして、言い返してきた。俺は手をふってこたえた。

「いやいや、もう無理しなくていい。安藤。もう俺たち三十近いし、無理すると体に悪いから。走るシーンはカットするよ。九十点のままで終わろう。百点の男にはなれないのは残念だけどしかたない」

 俺はさらに追い討ちをかけた。すると、安藤は怒りの表情で言い返してきた。

「俺はやってやるよ! 百点の男になってやる! 超本気で走ってやるよ!」

 安藤は猛牛のような激しい鼻息でわめきちらした。目玉が闘志で燃えている。

 先ほどまでの無気力な男はどこにもいない。最後の手段は大成功した。

 俺たちは楽器をかかえて全員が再びスタートラインについた。

 カメラをセットして撮影を再開。

スタートと同時に安藤はすさまじいスタートダッシュをした。

先ほどまでの低速が嘘であるかのような高速だ。

 俺と夏美も必死でおいかけた。安藤の背中についていくだけで精一杯だ。この男は追い詰められるとすさまじい力を発揮するタイプなのかもしれない。

 走り終えた後、動画をチェックすると、俺の期待通りの映像がとれていた。百点満点の出来だ。安藤のかっこよさは〇点だけど。

「これが最後の手段ですか。ナイスです」

 夏美がはあはあと乱れた息をしながら、俺にだけ分かるようにウインクをした。地味だけど、けっこうかわいい娘かもなと俺は思った。

「そうだ! 俺は世界一ナイスな男になった! 世界一ナイスでカッコいい男なんだ! 磐田市民よ、日本国民よ、地球人類よ、俺は百点満点の男なんだっ!」

 安藤が夏美の言葉を自分に言われたと勘違いして、両手で万歳して大声でさけんでいた。選挙演説をする政治家志望者でも、ここまで大騒ぎはしないだろう。近所迷惑なのは確実だった。そろそろ引き上げたほうがいいかもしれない。


 八

 

 俺と夏美の体力も限界に近かったので、休憩に入った。ビデオカメラを回収すると、

俺の自室で休憩をとることにした。

二人がフローリングの上に安価なマットレスを敷いただけの床に腰を下ろした。

「ちょっとコーヒーを入れてくるよ」

俺は手挽きミルで冷蔵庫に入れたコーヒー豆を挽きドリッパーにコーヒー豆を投入した。

ゆっくりとコーヒー豆に湯を注いでいく。ケトルで淹れるコーヒーはまろやかな印象がしてうまいのである。

近くにあるスペシャリティコーヒー豆ショップで購入した豆なので、新鮮でおいしい。三人分のコーヒーカップにコーヒーを満たし、二人の前に持っていく。

「良い香りがする」

夏美は初めてコーヒーの香りをかいだみたいな顔をしながら、少しウットリしていた。

「コーヒーってインスタントしか飲んだ事ないけど、これはうまい気がするな。でも、もっとうまいコーヒーは地球にはたくさんあるぞ」

 安藤は文句を言いながらもほめていた。三人がコーヒーを飲み終えたあたりで俺は言った。

「クランクアップだな」

クランクアップとは撮影終了を表す合図の事だ。色々あったがひとまず撮影は終わった。いつも以上にコーヒーがうまく感じるのは、成功させたという実感があるからだろうか。何か大事なことをやりとげた達成感が俺の中に広がっていた。

同時に仲間たちと一つの物事をやりとげた連帯感のようなものもある。

 こういうことを自分の仕事にできたらいいなと俺は思った。

 会社で奴隷のようにあつかわれている自分が嘘のような気がした。

 今俺は自分が望んでいた本当の自分になれたような気がする。

ひとまずの撮影は終わった。さっき夏美と話していたことを安藤に伝えた。

「みんなでチームを継続できないかな?」

「スタジオ使いたい放題だから、ガンガン練習するぜ」

安藤は案の定ノリ気だった。なんだかこのままバンドを結成できそうだな。

まだまだ俺たちにはやれることがあるんだな。みんな、年だって若くないが今からだってやりたいことはできるな。

「今日は撮影に協力してくれてありがとう。またみんなでやろう」

 疲れ果てて動けないと言う二人を車で送りだしてから、俺は収録した動画をチェックした。すると、問題があることに気づいた。

「なんか、インパクトが足りないんだよな」

 動画はどれもうまく撮影されている。自分の思い通りにとれている。

しかし、全部をチェックしてみると、何か変化が足りないような気がする。

 あと一つ何かがほしい。それがなければ、どこにでもあるようなインディーズバンドのPVになってしまう。動画の勉強をしたことで、自分がレベルアップしたのはありがたいが、その分、目がこえて、動画の問題が目に付くようになってしまった。しかし、解決策が思い浮かばない。夏美にLINEでメッセージを送る。

「動画にインパクトが足りない気がする。何かアイデアはあるかい?」

「私に任せてください。スペシャル猫動画をとってきます」

 夏美に任せていいのか、分からない。だが、あと一つ何かが足りないのは、夏美も理解しているようだった。

 でも、ただの猫動画を追加したところで動画のレベルがあがるとも俺には思えなかった。

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